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[英詩]詩形の基礎知識(13)——Blank Verse-2

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

「英詩のマガジン」の主配信の11月の1回目です(英詩の基礎知識)。

詩形の基本原理を考えています。今までに One と Two と Three と Four とを扱いました。1行連、2行連、3行連、4行連です。また、数について考えました。

おさらいすると、One については、1行連がすべての詩形の基礎の一つであること、英詩の最小の単位としての1行連にはいろいろなアプローチがあること、完結した文か句跨りのどちらかであること、などを見ました。haikuやwakaも見ました。

Two については、ふつうの定型詩の議論は2行連に始まること、アプローチは多彩であること、アフリカのバントゥー族の詩や、英詩のカプレット、chiasmus, epigram, ペルシア起源のガザル(ghazal)などを見ました。

Three については、ダンテの『神曲』の terza rima (三韻句法) の展開、古今の詩人たちの交響のなかに詩的集合知が脈打つさま、モダニズムの3行連の実験 (Williams, Stevens, H. D.)、ブルーズ連 (Hughes, Brown) などをみました。

Four については、中期英語以来現代に至るまで、4行連が定型詩の基本として用いられ続けていること、4行連で魅力あると考えられた押韻形式は abcb のパタンであること、最古の4行連の一つバラッド・スタンザが賛美歌や Dickinson の場合に common meter と名前を変えつつ(現代のボブ・ディランに至るまで)用いられていること、4行連には五歩格から二歩格まで無数のヴァリエーションがあることなどをみました。

数については、詩における形とはつまるところ、数であること、私たちは数える者なのであること、私たちは存在の核において、パタンと、パタンの崩れとを、数え、注目する者なのであることをみました。行や句や連、音節、単語、強勢音節、非強勢音節、詩脚、脚韻を私たちは詩において数えるのです。リズムの動きに耳をすますのです。

前回は無韻詩(blank verse)について見ました。主として、ハス (Robert Hass) の詩形についての考察に依拠して、無韻詩について考えました ('A Little Book on Form', 2017; 下の写真)。

その際、ハスが「ブランク・ヴァースは、自由詩において非定形の連をどうすればいいのかのモデル」になり得るといい、その具体的な例として Wordsworth の 'Tintern Abbey' を見ました。その詩が収められたワーズワースとコールリジの共著詩集 'Lyrical Ballads' について、「Lyrical Balladsノート」で少し見ました。

今回は、そこを掘下げ、'Lyrical Ballads' においてブランク・ヴァースが現れることの意味を考えてみます。そのあとで、またハスの議論に戻る予定です。

目次
Lyrical Ballads
 The Rime of the Ancyent Marinere
 blank verse and other forms
 'The Nightingale' と 'The Tables turned'


※「英詩が読めるようになるマガジン」の本配信です。コメント等がありましたら、「[英詩]コメント用ノート(201811)」へどうぞ。

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英詩の実践的な読みのコツを考えるマガジンです。
【発行周期】月3回配信予定(他に1〜2回、サブ・テーマの記事を配信することがあります)
【内容】〈英詩の基礎知識〉〈歌われる英詩1〉〈歌われる英詩2〉の三つで構成します。
【取上げる詩】2018年3月からボブ・ディランを集中的に取上げています。英語で書く詩人として最新のノーベル文学賞詩人です。
【ひとこと】忙しい現代人ほど詩的エッセンスの吸収法を知っていることがプラスになります! 毎回、英詩の実践的な読みのコツを紹介し、考えます。▶︎英詩について、日本語訳・構文・韻律・解釈・考察などの多角的な切り口で迫ります。

これまでに扱った基礎知識のトピックについては「英詩の基礎知識 バックナンバー」(「英詩の基礎知識(6)」に収録)をご覧ください。

伝統歌の基礎知識(1)——ポール・ブレーディの場合」「伝統歌の基礎知識(2)——ボブ・ディランの場合」「伝統歌の基礎知識(3)——'Nottamun Town'」もあります。

Bob Dylanの基礎知識(1)」「Bob Dylanの基礎知識(2)」「Bob Dylanの基礎知識(3)」「Bob Dylanの基礎知識(4)」もあります。

バラッドの基礎知識(1)」「バラッドの基礎知識(2)」もあります。

ブルーズの基礎知識(1)」「ブルーズの基礎知識(2)」「ブルーズの基礎知識(3) 'dust my broom'」もあります。

[英詩]詩形の基礎知識(1)——tail rhyme」「[英詩]詩形の基礎知識(2)——sonnet」「[英詩]詩形の基礎知識(3)——One」「[英詩]詩形の基礎知識(4)——Two」「[英詩]詩形の基礎知識(5)——Three (前篇)」「[英詩]詩形の基礎知識(6)——Three (後篇)」「[英詩]詩形の基礎知識(7)——Four-1」「[英詩]詩形の基礎知識(8)——Four-2」「[英詩]詩形の基礎知識(9)——Four-3」「[英詩]詩形の基礎知識(10)——Four-4」「[英詩]詩形の基礎知識(11)——Numbers」「[英詩]詩形の基礎知識(12)——Blank Verse-1」もあります。

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Lyrical Ballads

'Lyrical Ballads' はいろいろな点で、英詩をめぐる根本問題を考えるための恰好の例の宝庫と言える。一つには詩形の問題があり、標題にもかかわらず、バラッドにあらざる詩が突然でてくることで、読者は度肝を抜かれる。それがブランク・ヴァースだ。

その直前にバラッド詩形があるから、読者はどうしてもブランク・ヴァースをそれとの比較で受取る。

言うまでもなく、バラッド詩形は強勢数が 4, 3, 4, 3で 2, 4行が押韻する4行連を基本とする。ブランク・ヴァースは強勢数が5で、押韻しない。どちらも、弱強調(iambic metre)の格調をもつ。

この2つを比較すると、行の強勢の数が違うこと、押韻の有無が違うことが、まず分る。が、それ以外に、決まった連があるかどうかが違う。ブランク・ヴァースにおける連を見ることで、自由詩における連(非定形の連)を考えるヒントにしよう、というのがハスの視点だった。

■ The Rime of the Ancyent Marinere

'Lyrical Ballads' (1798年版) 巻頭に置かれたコールリジの長詩 'The Rime of the Ancyent Marinere'「老水夫の歌」は、一見すると、単純なバラッド詩形で書かれているように見える。ところが、実際には、連の長さや詩行のパタンはさまざまであり、物語の展開に応じて、自在に変わってゆく。

まったく予期しない韻律上の中断について、Fiona Stafford (Oxford World’s Classic 版の 'Lyrical Ballads' [下]の編者) が鋭く指摘している。

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