見出し画像

☆本#344 不幸と幸せ「ばにらさま」山本文緒著を読んで

著者の書く話は、語り手がメンタルで追い込まれて境界を越えそうな危うさがある。今回も、そんな感じを含む短編集。

表題の「ばにらさま」は華奢で色白でふわふわした感じの女性の話。
といっても語り手は20代男性で、告白されて同じ会社で派遣社員の彼女と付き合っている。バニラアイスクリームのように肌が白いので、友人は「バニラさま」と呼んでいる。彼女はネットに日記を書いていて、偶然彼はその存在を知ってしまい、自分は彼氏じゃなく友達で、ドタキャンされたクリスマスイブに彼女はパーティに行ってたり、キープ状態で、でも彼女と本当に向かい合いたいと思うも叶わず、別れる。
読んでいて、以前テレビで女性弁護士が話していた「離婚される女性」の話を思い出した。

ほかは、ドライな不倫関係がいつの間にか恋して妊娠して結婚。結婚前、衝動的に飲んだ大量の薬のせいで後遺症に苦しむ話が「わたしは大丈夫」、成人を過ぎている娘との関係に悩む話、祖母の異人との恋、物書き女性のリゾートマンションでの話、47歳で亡くなった同級生の犬を譲り受ける話。
どれも主人公がどこか危うくて不幸で、でも意外とあっさりしてて幸せで。

これは、著者が亡くなる数か月前に出された本だけど、書かれたのはどれもその8,9年前。最新のが読みたかったけど、あまり書いてなかったのかな。この本のなかに出てくる物書き女性の話を、ちょっと著者と重ねてしまった。

田辺聖子が以前若いころは30代の女性の話を主に書いてたけど、自分が年齢を重ねていくうちに、幅広い年齢層の話を書けるようになった、と書いていたことがあり、著者についてもそうなるだろうと思っていて、それを期待していた。もう読めないのがほんと残念。

この記事が参加している募集

#読書感想文

191,569件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?