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☆本#335 50/50「ライ麦畑の迷路を抜けて」ジョイス・メイナード著を読んで

ノンフィクション。英語のタイトルは、"a memoir, at home in the world"なので、邦題は「ライ麦」といれることでサリンジャーとの関係を想起させる狙いだと思うけど、そこもコアでありつつ、40数年の人生を振り返っている内容。幸せも不幸もきっと半々。

文頭は、両親のことから始まる。途中までは20歳ほど年上のハンサムな男性が大学をトップで卒業するような優秀な元教え子を追いかけて、結婚に至る話。それから実は父がアルコール依存気味だった話や、語られなかった裏側の話が続く。
著者が18歳で作家デビューに至るには、学業優秀な母親の教えのおかげだった。が、サリンジャーから手紙が来たことで、運命が変わった。数か月の文通を経て、彼に会いに行き、いっしょに暮すことを決め、結局大学を中退する。
既に名声があり、資産もあるはサリンジャーは著者より35歳も年上だけど、両親も反対しない相手で、彼女もいつの間にか彼との結婚や子供を持ちたいと思うようになる。が、数か月の同棲の後、フロリダに彼の10代のふたりの子供とバケーション中、彼から先に戻って荷物をまとめて出ていくよう言われる。
そうなるまでには、サリンジャーの食生活(ホメオパシー)や、彼女が19歳で出版予定の本(10代ということろが売りだった)の関係で、秘密にしていた彼の自宅電話番号が出版社にばれたり、実は性的にうまくいってなかったり、彼にとっては目立つことは避けたいけど、彼女はまだ外に出たい年ごろであることを彼は認識していた等、前兆、積み重ねがあった。

この別れは、10代の彼女には重く、出版した本で得たお金で田舎に家を買ってこもる。ついに、大学にも戻らず。
この本は、著者の主観だけにならないよう、周りの声や、当時書かれた手紙等も載っている。この購入した家については思ったより高かった割には、中がぼろぼろな部分もあったようで、修復も大変だったようだと母親の言葉でわかる。
結局、飼い犬が亡くなったことをきっかけに、NYCに戻り、ライターとなる。
20代半ばを過ぎて出逢いがあり、芸術家と結婚し、子供も生まれる。が、彼の芸術家としての仕事が成功せず、二人目を妊娠するも堕胎するよう言われ、泣く泣く応じる。
思うに、この時の喪失感が「とらわれて夏」につながっているような気がする。のちに流産も経験するし。とはいえ、彼女の場合はその後二人の子供を産む。

仕事で成功をおさめなかった夫とはた度々見解の不一致があり、定期的に続けていたコラムの仕事で、離婚を発表する。
両親も、夫の浮気をきっかけに離婚していた。
コラムニストは、多かれ少なかれ私生活の暴露がネタだったりするけど、彼女のコラムニストとしての安定した人気は、文章スキルはもちろん、その暴露も大部分を占めているかもと推測。
この本では、以前出版した本には、意図的に隠した内容もあると正直に述べていたけど。

最初の子供が女の子で、著者とはずいぶん違うタイプ。それが彼女に影響を与える部分があり、この本が出るきっかけになったようだ。

この本は本文が、1ページ2段で文字数多くぎっしり書かれている。40代過ぎてまたサリンジャーが出てくる。ちょっとだけ。
1997年11月サリンジャーを訪ねて、彼にとって自分の利用価値が何だったのか尋ねる。きみは答えは値しない、と拒否られ、別れを言って終わる。そして、真夜中友人宅へたどり着くと誕生日ケーキが用意してあり、10分後に44歳になるところで終わる。

なんというか、20歳前後で絶対的な力を持った人に影響されると、別れの喪失感が巨大で、ある意味呪縛から解放されるまでには時間がかかる、というのがわかる。

サリンジャーにはそれほど興味はないけど、肉食で二十歳前後ぐらいの若い子が好きだったのだなと思う。どうやら、気になった子には手紙を書いて、文通から初めて同棲する流れのようで、著者より2歳下の彼の娘が著者に対して反応が薄かったのは、前からすでに若い子と暮らす父親を見ていたからなんだろうな、というのが最後の数ページでわかる。彼は当時2度目の離婚をした相手との子供ふたりが10代だったので、定期的にいっしょに暮していた。
男性の場合、年の離れた女性と付き合うのは珍しくないけど、53歳が20代女子相手っていったい。。。とちょっと思う。
著者が最後に対面したとき、彼と暮らしていた女性は少し前まで誰かの妻だった20代半ばの女性だった。。。名声と資産のある積極的な男性には、年齢など関係ないのだろう。

wikiを見ていて興味深かったのは、著者が2018年に中途退学していたイェール大の2年に戻って学業を終えたということ。60代で学士に復学ってなんかすごい。
とはいえ、現在では、学士を2つ持ってたり、大学院へ行く人が増えているし、確かイギリスでも定年退職後大学・大学院で学ぶひとたちの記事を読んだことがあるので、珍しくないか。



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