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☆本#450-452 「昨日がなければ明日もない」宮部みゆき著、「たりる生活」群ようこ著、「朝星夜星」朝井まかて著を読んで

「昨日が…」は、主人公がアラフォー男性の探偵の話で、中編1作、短編2作。人が良くて理性的な彼は、バツイチで元妻が小学校高学年の娘を育てている設定。
中編では、閑古鳥が鳴く事務所に依頼人の女性が来るところから始まる。彼女の娘が自殺をして入院しているのに、娘の夫が合わせてくれないという。病院との話なので弁護士のほうがいいのではと助言すると、大げさにはしたくないと。そこで、本当にそこに入院しているのか等いくつか調査することになる。

調べていくうちに、実は娘がそこに入院していないこと、夫がかなりやつれていること、同時期、彼らの大学のサークル仲間の妻が自殺していたことが分かり…。

本作はシリーズ5作目で、1~3作は探偵の離婚前、4作目から離婚後らしい。いずれ読みたい。

「たりる…」のほうは、著者が断捨離をするも、捨てても捨てても物が減らない話から、ついに引っ越すまでのエッセイ。

違うエッセイにも大量にものを捨てる話があったので、引っ越しはてっきり友人の近所かと思いきや、そうではなく。
猫がいなくて大丈夫かと思っていたら、モノを捨てる問題が思いのほか過酷でそれどころではない様子。

引っ越し先は住みたいエリアの高齢者向けだと見つからず、高齢者という条件は外して探すといい物件が見つかる。スムーズに引っ越したかと思えば、ネットの回線や電気の設定で時間がかかったり…。

最近読んだ男性作家らは、不動産を購入している人が多くて、彼らと著者は資産的にはそう違わないと思うんだけど、考え方の違いによる差だろうか。


「朝星夜星」のほうは、西洋料理の先駆者である草野丈吉の妻、ゆきの視点で還暦頃までの人生が描かれている。表現にも時代感があって、枚数も読み応えのたっぷり。

江戸時代末期の長崎で、奉公中のゆきは、大柄で25歳なので結婚することはないと思っていた。が、ある日見初められ、奉公先の女将の勧めで結婚を決める。
相手は貧しい農家の長男で、子供のころから一家を背負っていた丈吉。出島の阿蘭陀商館に奉公し、洗濯担当の下働きを経てコック見習いとなり、外国語と西洋料理を学んでいた。
丈吉は、まず西洋洗濯屋、次いで五代の勧めで西洋料理店を開く。ゆきは洗濯屋を手伝い、したことのなかった料理も始める。

料理、店のこと等全てを切り盛りし、頑張りすぎた丈吉はある日、病になり、ひと月ほと静養する。

その後外交に必要な場を提供するとして、大阪で店を出すことになり、一家で大阪に移住したり、子供3人出産したり、妾問題が発覚したり、長女の見合い・結婚等があり、丈吉が病に倒れ、長女が跡取りとして働くも、最初の難関の借金にぶち当たる。思いのほか多い借金で、丈吉の信頼度から借りることが可能だった。ここは、星丘の助けで難を逃れるが…。


激動の明治時代が描かれており、通貨が円になった時や、丈吉は日本と外国の交流の場作りに尽力していたので、五代を筆頭に、陸奥ら政治家も登場する。著者は、江戸~大正・昭和初期の話をよく書いているので、教養が深まっているに違いない。

基本はゆきの視点なので、家族の問題についてもきめ細かに描かれていて、家族の根本的問題は不変でも、明治時代は女学校を卒業するとすぐ縁談で結婚する流れで、現代との違いを感じる。

草野家の血族はまだ存命のようだけど、丈吉の娘は、月丘家の血筋が絶えたので、自分の娘に継がせる…。血族かどうかはもはや関係ないのか。

江戸~明治時代は、スペイン風邪やらおそらく結核やらで、若くしてこの世を去っている人が多く、そのせいか、人生の貴重さが際立つ。

最後に、夫の墓参りで、まんじゅうを供えつつ、自分も食べながら夫に話しかけるゆき。墓で話しかけるというと、そういえばスウェーデンの映画でもあったな。

そういえば、「昨日が」と「朝星」の共通点発見。どちらも「やつれる」が漢字の「窶れる」だった…。



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