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☆本#289-292「ブルシット・ジョブ」「もしあと1年で人生が終わるとしたら?」「現代生活独習ノート」「スモールワールズ」を読んで

「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の倫理」デビッド・グレーバー著。
ブルシット・ジョブとは、例えば、高給だけど生産性のない仕事をしている人とか、管理職だけど、部下にまかせっきりで自分は特に何もしていなかったり、一時的に新設されたけど、中身のない仕事とか、なくてもいいけど、なんらかの事情があって維持されてる仕事。著者は主要5類型でまとめている。そのポジションには資格が必要だったりすることもあるので、サラリーはいいけど、要は暇すぎたり、無駄作業だったり、それがわかっている当時者にはストレス過多。

以下、抜粋:

富裕国の37%から40%の労働者が、すでに自分の仕事を無駄だと感じているのだ。経済のおよそ半分がブルシットから構成されているか、あるいは、ブルシットをサポートするために存在しているのである。

著者が2013年にこのテーマの記事を寄稿したところ、翻訳された数十か国から同意する人たちからメールが来たとか。主にそういったポジションについているブルーカラーの人たちから。
人間は、愚かな部分というかずる賢いところを合わせ持つので、こういう仕事はなくならないだろう、と個人的に思う。

「現在生活独習ノート」津村記久子著。
久々著者の本を読む。これは短編だけど、低下層サラリーマン系の話ではなかった。8作品のうち、「牢名主」というのが興味深かった。
舞台は現在。社会問題の一つとしてA群とB群というのがあり、A群のひとはB群のひとに搾取される、精神的に。そこで、主人公はある日自分がB群に属すことに気付き、A群の友人らとつながりを絶つ。で、同類の集まる場所に行ってみる。
この世は、搾取する人・される人、そして、その他(グレーゾーン)にいる人で、たぶん構成されている、と個人的に思う。

「あともし1年で人生が終わるとしたら?」小澤竹俊著。
ホスピス病棟の医者が3500人以上の患者と接して気付いたことから人生の振り返りを提案。

著者は何か決定する際、一人だけが責任をもって決めるとその人は後悔することになるという。で、著者自身は、すでに亡くなっている父親に「相談」するらしく、「もし父だったら、どうするだろう」と考える。
相談は生きている人だけじゃなく、亡くなった人でも、神様でも自然でもいいらしく、その発想は新鮮かも。

「スモールワールズ」一穂ミチ著。
初めて読んだ作家。短編6作品。
1つめの「ネオンテトラ」は、主人公がアラサー主婦。子供が欲しいのに流産して精神的に傷つく。夫とは仲がいいけど、スマホのSNSから仲のいい女性がいることを知る。というと割とよくある設定だけど、サイコな方向へは行かないところがよかった。
結局近所の、母親が酒乱の男子高生と出会いがあり(単なる出会い)、計画と意外な展開があり、夫の裏切りがあり、でも夫は離れることなく、子供と3人で暮らしているところに、意外なニュースが飛び込んくるも、生活に波風が立つことなく終わる。
そういう展開が新しくてよかった。最後ちょっとスピード過ぎと思うが。
この作品は、賞候補に挙がったとか。なんかわかる。

「花うた」は、兄を殺された主人公と兄を殺した相手の手紙のやり取りで始まる。どうなるのかと思っていたら、意外な着地点と意外なラストが琴線に触れた。

「愛を適量」は定年退職した男性のもとに、娘が息子になって戻ってくる話。女性になる手術にお金がかかるという。絆の薄かったふたりが温泉に行って、ふと口にした言葉で父親の子供への無償の愛が、不用意な言葉に傷ついていた子供の心に触れる。

どれもちょっと意外な設定や展開。ささやかだけど、深い。人の心は計り知れない。


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