日向の柴犬
もう歳だからだろうか?
パリからニースへ長時間列車の旅をしたせいか?
最近少々お疲れ気味のウチの犬。一日中ほとんどずっと寝ています。
今年のフレンチリヴィエラは5月に入っても悪天候続きでなかなか気温が上がらなかった。だがここ数日は好天続きで日向の気温が夏並みに上昇している。
そんな晴れた日、ミアのお気に入りの場所は寝室にある小さなバルコニー。洗濯物すら干せないほどの小さなバルコニーは、ミアが寝転がるのにちょうど良いサイズなのだ。
今の時期なら午後2時ごろまで直射日光の当たるこのバルコニーで、ぬくぬくと日向ぼっこをするのがお気に入りの様子。
よく観察していると、しばらく日向でゴロゴロしたら浴室のタイル張りの床の上へ移動し、またしばらくしたら日向へ移動する。まるでサウナの如く、熱いのと冷たいのを交互に楽しんでいるように見える。
それで犬も整うのだろうか?
まあそうやってスッキリサッパリ旅の疲れを癒しているのなら良きことだ。
たまに日向のバルコニーから浴室の方へ移動する前に、リビングにある水飲み場まで水を飲みにくることがある。
カチャカチャと爪音を立ててやってくるのに気がつくと私は声をかける。
「ミアちゃん元気?」
そう言いながら近寄って背中に触れると、天日干ししたての掛け布団のように柔らかくて温い。日光に当たって温かくなった犬の背中に刺激されてか、幸せホルモンがじんわりと滲み出るのを感じる瞬間だ。
お日様に温められた犬に触れることほど生きている幸せを実感できるものはないだろう。
このままずっと一緒に生きてほしい。
温かい犬に手を当てたまま、思わずそんな願い事をしてしまう。
犬は飼い主に手を当てられたまま、お椀の縁ギリギリまで汲まれた水の表面を舐めるように水を飲む。手が触れている腰あたりの毛皮がユラユラと静かに波打っている。
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外出から帰ると、近所のおばさんとエレベーターで一緒になった。ウチの犬のことを聞かれたので「元気にしてますよ」とこたえ、おばさんが飼っている猫のことを聞いたら「2匹とも元気いっぱいよ」と話してくれた。
ご近所さんとエレベーターの中で話すことなんてそんなもの。当たり障りのない会話しかしないもの。私が先に降り、それじゃBon après-midi、と言おうとした矢先におばさんが、「私は人間よりも動物の方が好きなのよ」と言った。
は?
エントランスのところでよく近所の人たちと立ち話をしている姿を見ていたから、てっきり社交的な人だと思い込んでいた。。。
それにしても急にそんなカミングアウトをするものだから、こっちは驚いてすぐに返す言葉が見当たらない。
するとまた、アタフタしている私に向かって今度はゆっくりと、「人間よりも動物の方が信頼できるのよ」と言った。
おばさんを乗せたエレベーターの扉がゆっくりと閉まっていく。何か言わなきゃ、と焦った私が絞り出した言葉は「そうなんですか?」
ありきたりでバカっぽい言葉だ。あーなんで上手い言葉が出てこないんだろう。バカバカ、私のバカ!
おばさんは首を縦に振り、じゃぁBon après-midi、と言った。
私がBon après-midi、と声をかけた時には扉は閉まり、エレベーターは上昇し始めていた。
言葉のチョイスが上手くいかなかった後悔を引きずったまま玄関の扉を開けると、犬がリビングへ向かう廊下の真ん中にちょこんとお座りをしてこちらを見つめていた。ワンともキャンとも言わず、背筋をピンと伸ばしてエレガントに私の開けた扉の方を見つめている。
Oh mon chien ! ミア〜!
靴を脱ぎながら近づいて行っても僅かに尻尾を振るだけで動かない。フワフワの毛先がキラキラ輝いて、後光が差しているように見える。
目の前でひざまずき、抱きしめるとお日様の温もりがした。多分ついさっきまで日向ぼっこをしていたのだろう。
ポカポカして温かい犬。フワフワで柔らかい。
犬がいるってなんて幸せなんだろう!
こんな幸せ他にある?
抱きしめながらしみじみと幸せを噛み締めていたら、犬がひとつ、大きなあくびをした。
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散歩の途中でも歩道の真ん中でも、なんでもどこでも構わず休憩をしたくなる犬。今の時期は日向が気持ち良いらしい。
天気が良いとのんびりゴロゴロしたくなるよね〜。わかるわかる。飼い主だって人目さえなければ一緒に座り込んでゴロゴロしたいよ。
こんな犬に付き合って日向を歩き回っているから夏が来る前にはすっかり日焼けしているのだよ。
午後、バルコニーが日陰になったら柔らかいベッドの上へ移動してゴロゴロする。
本格的に暑くなる夏まではこれがミアの日常ルーティーン。なるべくストレスフリーでやらせてもらっております。
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今日のおまけ:散歩の途中で見つけたブーゲンビリアがめっちゃキレイ。後ろに咲いている白い花もよく見かけるけどなんて名前だっけ?
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