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差別をする汚い顔

たまに無性に髪が切りたくなることがある。
美容院は苦手だが髪を切らずにほったらかすわけにはいかない。

義母の家に滞在していた時に切りたくなった。

ネットで近所の美容院を検索してみると口コミの良いサロンがあった。でもネット情報は鵜呑みにはできない。実際に行って変な雰囲気だったら嫌だから、事前予約はせずに様子を見がてら行ってみた。

ネットでは予約なしでも大丈夫と書いてあった。
実際にサロンの入り口のところにも予約なしでも大丈夫と書いてある。

実は数年前にも一度そのサロンへ足を運んだことがある。
その時サロンは混雑していて、受付のおじさんに聞いたらその日はもういっぱいだから翌日来てくれるか?と言われた。翌日は予定があったので、いえ結構です、と断り、後日別のサロンで髪を切った。

今回行ってみると、それほど混んではいない。客は2人。奥で片付けをしているスタッフと受付には前回いたおじさんともう1人おばさんがのんびりと世間話をしていた。

あのぉ、髪を切りたいんですけど。。。

入り口を入ってすぐ目の前のカウンターにいたおじさんとおばさんにそう声を掛けると、おじさんは素早く2ターン、おばさんはゆっくりと3ターンくらい、私の頭の先から足先までを奇妙な目つきで舐めるように見渡した。

ゾクっ。背筋に寒気が走る。

嘲笑するような半笑いの奇妙な目つきのせいだ。秒で居心地の悪さを感じた私は入り口から入って2歩目を踏み出す前に、すぐさまにでもその場所を立ち去りたい気持ちでジリジリと後づ去りを始めていた。

半歩ほど下がったくらいのタイミングでおじさんが、じっと私を見つめたまま、今日も明日もいっぱいなんだ、と言った。口元は気持ちの悪い半笑いのままだ。

サロンは空いている。おじさんは予約帳もパソコン画面も何も見ずに、私を頭の先から足先まで見渡した後でそう言った。

そして、明後日来てくれるか?と言った。

その日は金曜だから明後日は日曜日、定休日だ。

隣のおばさんは相変わらず半笑いで私を見つめている。

気持ちの悪いそんなサロンから一刻も早く立ち去りたくて、「では結構です。どうもありがとう」と挨拶だけをしてくるりと半回転して立ち去ろうとしたのと同時に、スウェット姿のブロンドのおばさんが入り口の扉を入って来ながらこう言った。

ねぇごめんなさい、予約するのを忘れたんだけどこの髪どうにかしてくれないかしら?

私がサロンを出る扉越しに聞こえたのはあの気持ち悪いおばさんが、いいのよいいのよほらどうぞ奥へ入って、と楽しげな調子の明るい言葉。

あぁゾッとする。


フランスでたまにある冗談(?)で、誰かに何かを頼まれたら真顔で断り、相手があたふたするのを見て笑う、というのがある。大したことのない用事や遊び半分の友達同士の頼み事ならまだいいが、公共サービスや店舗などでそれをやられると断られた方はショックでタジタジしてしまう。

その様子を見ながら、冗談だよ、冗談!と笑って軽くあしらう、のが定番の流れだ。

何が面白いんだか!

人を小馬鹿にしてニヤニヤと嘲笑する汚い顔をした人は思いの外、結構いる。ひねくれたプライドを維持するために誰かをおとしめて嘲笑う、精神的に不安定な人は割といて、そんな人たちが公共の場でつまらなさそうに働いていたりする。

そんなつまらない彼らの日常にまんまと飛んで火に入る夏の虫、となり、生贄となってしまったらそれはもうツイてなかった、としか言いようがない。

私はフランスでよくあるこの類の冗談がどうひっくり返っても理解できないし、腹立たしくて仕方がない。


これほどあからさまな差別を受けたのは久しぶりだった。

差別をするおじさんとおばさんの汚らしい目つきと態度が気持ち悪過ぎて吐きそうになりながらしばらく街を歩き、呼吸を整えてから家へ戻った。

こういうのって忘れた頃にやってくる。

ちなみに私が日本人だから差別されたのではなくて、見慣れないアジア人が突然現れたからやられたのだと思う。同じアジア人でもご近所さんだったり顔見知りならこんな事はされないだろう、きっと。

それかこんな対応にはもう慣れっこで「またまたまたぁ〜暇そうじゃない、大丈夫でしょ」とでも言って強引にカットしてもらう人がいるのかもしれない。

上には上がいるのがこの世の慣わしだ。私にはそんなことできませんけど。


それにしてもあの2人の汚い顔、どうやったらそこまで醜くなれるのか?

鏡を当てて本人たちに見せたら笑うだろうか?

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