見出し画像

インスタグラムの中の人

インスタグラムに突然、友達ではないけど以前会ったことがある人が現れた。前に一度だけパリで会ったことがある人。夫の知り合いで、当時使っていなかった店舗に暫く泊まるというので何かあったら対応してくれと言われたあの人だ。

え?あんなところに泊まるの??

ベッドを運び込んで簡易的に宿泊施設にしたその場所は、道に面してガラス張りになっている路面店舗だ。入ってすぐ左に地下へ降りる階段があり、長細い部屋の奥に気持ちばかりのキッチンと小さなシャワー室とトイレが付いている。

パリ特有の大きな石を積み上げた壁に囲まれた室内に窓はない。部屋の真ん中に黒いカーテンで仕切りをして、道路側からの視線を塞ぐ工夫が施してあった。

夫が夫の知り合いをどのようにもてなそうと、夫のやり方にケチを付けたり文句を言ったりするのは違う気がする。だけど同じ日本人女子としては窓のない店舗の奥で寝泊まりするのは快適とは言えないと思うんだけど。。。

すると夫は、ダイジョーブダイジョーブ、彼女はそんな細かいことゼンゼン気にしない、と言った。

面識のない人だし、本人同士が同意しているのであれば私が何か言う必要はないのかもしれない。気にはなったがそれ以上口は出さずにいた。

◇◇◇

夫から店舗に彼女が泊まると聞いて暫く経ったある日、彼女からメッセージが送られてきた。枕が欲しいと言うのだ。マクラ?

夫に確認すると、そー言えば枕はなかったかもしれない、と言う。そして何かあった時の連絡先として私のアドレスを教えておいたのだと。

因みに夫は忙しくしていないと気が済まない性格で、常にバタバタと駆け回っている。そんな夫がこぼしかける雑務を拾って対応するのは私の役目、日常茶飯事だ。

ただその時は私自身もバタバタしていて枕の調達が出来ず、家にあった小さなブランケットを持って行って、丸めて枕代わりに使ってもらうことにした。

そしてその時、初めて彼女に会った。

小柄だけどしっかりと地に足の着いた雰囲気で、ハキハキとしゃべる彼女はとてもかわいらしい人だった。少し話をすると、かわいい容姿と反比例するように都会的で自立したシャープな女性で、細かいことを気にして滅入ったりするようなタイプの人ではないことが分かった。

んにしてもやっぱり謝らずにはいられないので、何度もゴメンねを連発して私はその場を去った。

◇◇◇

インスタグラムによると、彼女は現在パリで生活している。当時は確か仕事でパリに来ていて、ホテルの予約が取れなかったか何かで夫が場所を提供したのだ。

彼女のインスタグラムには、全女子が憧れるようなおしゃれ写真が短い文章とともに沢山アップされている。確かに彼女のように前向きな人にパリの生活は合っている。いちいち細かいことに気を取られていたら生きていけない場所だから。

写真を見ながら文章を読んでいると、自然体でかわいらしい彼女そのものが溢れていて、ほっこりとした幸せをお裾分けしてもらったような気分になった。

たまにおすすめや知り合いかも?で現れるおしゃれパリ女子投稿で、見ているだけで必死さが伝わってきて悲しい気分や嫌な気分になるものが多い中、彼女は自然とパリに溶け込んでいて何の違和感もない。

彼女の書く文章はなめらかで読みやすく、進化した粉末スープの如くサーッと瞬時に溶け込んで全くダマにならない。

後で知ったことだけど、実は彼女、その界隈ではかなり有名な人らしい。連載もいくつか持っているプロなのだそうだ。えーー!そーなの!?あの時サインでももらっとけばよかった!なーんて今更昭和なミーハー心出しても、時すでに遅しっ!

◇◇◇

インスタグラムやフェイスブックでたまーに現れる、友達ではないけどちょっとだけ知ってる人。何十億人もが繋がるネットの中からどうやって私のところへやってくるのだろう。一度しか会ったことないあの人が、何年も経った今私のスマホにドーンと現れる。

すごい世の中になったもんだ。


この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?