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テンション爆上がるパン・オ・レザン

パリに住み始めた頃に初めて食べたパン・オ・レザンがとてつもなく衝撃的に美味しくて、ひと口頬張った瞬間から虜になった。

それは渦巻き状のデニッシュ生地に、カスタードクリームと干しブドウを巻き込んだ甘いパン。ざっくりとした生地の歯触りと、しっとりとしたクリームの舌触りが脳内の幸せ度数を爆上げしてくれる。

濃いカスタードクリームのまったりと舌に絡みつく甘さと、プチュッと弾ける加熱したレーズンの甘酸っぱさ。それぞれが融合する口の中は、極上パーラダイス。超ド級にめっさ美味しいパンなのだ。

風味豊かな硬めのカスタードクリームがガッツリむにゅっと詰まったクリームパン。その生地がサクサクでしっとりのデニッシュになっちゃって、大粒レーズンも入れちゃいましたってな仕上がりのもの。

味は濃厚カスタードの風味が引き立つように、デニッシュ生地の甘さが控えめにしてあって、ケーキ屋さんのシュークリームをオマージュしたような感じさえする。(もちろん全くの別物です)

しかもパンの国おフランスなだけに、焼きたてに遭遇することだってあるのだ。そんなホッカホカのパン・オ・レザンを手にした時にゃぁ~、空を仰いで感謝したくなるほど幸せな気持ちになる。

そうやって、ことある毎にパリのあちこちでパン・オ・レザンを食べてきたけれど、店によってスタイルや味が様々に変化するから、アタリハズレが生じてくる。私好みのクリームがしっかりと詰まったデニッシュ生地のものを置いている店は、当時で全体の半分くらい。

私にとってハズレのパン・オ・レザンとは、デニッシュ生地じゃなかったり、甘すぎてカスタードクリームの風味が台無しになっていたり。ハズレと言っても不味い訳ではないし好みはそれぞれだから、もちろん色んなパン・オ・レザンがあっていい。

でも、今から遡ること云十年前に初めて食べたあの時の、あの衝撃的な美味しさが脳内にこびり付いて離れないから、ついついその味を求めてしまう。

数年前に南に引越してきて最初にビックリしたのは、フランスなのに美味しいパン屋がない!ということ。犬の散歩ついでに街のあちこちでパン屋を探索してみたけど、どの店もクロワッサンですら納得のいくクオリティーのものを置いていない。

それまではパリがフランスで、パリがフランス文化の基準だと思っていた。だからパリで食べていたような美味しいパンがないなんて、まるでフランス風にみえる異文化の国に辿り着いてしまったかのような感じがした。

ところがよくよく観察してみると、南仏はブリオッシュが主流らしく、正月に食べるガレット・デ・ロワですら、パイ生地じゃない。

北部のバター文化と違って、オリーブオイル文化だからなのだろうか?バターたっぷりサクサクのパンにはなかなか滅多にお目にかかれない。それよりもフォカッチャ系のもっちりパンの方がクオリティーが高い気がする。

そんな中、友達に教えてもらって発見したのは住んでいた家から二、三ブロック先にあるパン屋。そこはそもそもバゲットが美味しい。そう!遂に見つけた!私が求めていたフランスの美味しいパン。

そして、そのパン屋のパンは全体的に全部美味しい。パン・オ・レザンも普通に満足できる美味しさだ。ただ唯一の難点は、前日に残ったパンを次の日も売っちゃったりするところ。

多分パリだと人口密度が常に高いから、一日でちゃんと売り切れたり、売れ残りを破棄してもなんとか経営していけるのだろう。前日のパンを売っているパン屋には遭遇したことがない。

食料廃棄を減らすのはいいことだけど、どれだけおいしいパンを作ろうと、どう頑張っても前日のパンは萎びてしまう。せめて値引きをするとかしてくれないと、購買意欲が萎えてくる。

特に夏とかバカンスシーズンで地元民の人口が減り、売り上げが落ちる時期になるとよくある光景。経営者側の気持ちは理解できるけど、消費者側としては納得できない。

ということで、引越しを機に、そのパン屋へ行くことはなくなった。そう遠いところへ引っ越した訳ではないし、犬の散歩でたまに通りかかるくらいの距離だけど、わざわざ行くことはなくなった。

わざわざ行っても、前日のパンが置いてあったらテンション爆下がるから。

そうこうしている内に時は過ぎ、南仏ではチェーン展開しているパン屋の標準的なレシピで作った生地で焼いたパンが一番安定しておいしいのかもしれない、と思い始めていた矢先、またまた、たまたま別の友達に美味しいパン屋を教えてもらった。

それはチーズケーキだった。

たまたま道で会った友達の、まあお茶でもどう?という言葉にずうずうしく乗っかって、遠慮なく上がり込んで会話に花を咲かせていた時に、お茶のアテとして出してくれたチーズケーキがむちゃくちゃ美味しかったのだ。聞くと、駅の近くにあるパン屋のもので、そこのパンは美味しいのだと言う。

ヨーロッパに詳しい人はお気づきかもしれませんが、ヨーロッパでは駅の近くというのは往々にして治安が悪い。いろんな所から人が流れてきて交差する場所なので、大荷物を抱えて右往左往する旅行者を狙う犯罪者や流浪の民が留まりやすいのだ。それに騒音やなんだかんだが重なって、不労の移民のたまり場になっていることが多い。

ただここ数年、そういった駅近区域の治安改善対策を進める街が多く、今後の移り変わりに期待はするけれど、今はまだお世辞にも良い環境ではない。

だから私も頻繁に歩き回ることがなく、見落としていた。そんなところにもパン屋があったのか!!

早速パン・オ・レザンを買って食べてみた。

美味しい!

ちゃんとカスタードの味がする。生地もデニッシュだ。

う、うまい!

残念ながら家からは少し離れた場所にあるので気軽には通えないけれど、青空マルシェに行く道から少し入ったところにあるから、気が向いた時に行ってみよう。

美味しい店って一人ではなかなか見つけられないし、フランスのネット情報は、野心や嫉妬にまみれてヤラセ疑惑があるから信用できない。だから友達や知り合いに聞くのが一番!

今年に入って一番テンション上がったわ~

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