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熱々をズルズルっと啜るのがウマいんだけどなぁ

まさかフランスでこんなにラーメンが流行るなんて思ってもみなかった。

熱いものを啜って食べる文化のない国で、よくぞまあ商売をしようと思ったものだと、その先見の明に脱帽です。

南極で水着を売ろうとか、アラブ諸国でトンカツ屋をしようと思い立つのと同じくらいチャレンジングなことだった思う。

今ではうどんやそば、弁当、唐揚げなど、日本では当たり前の料理を提供する店がニョキニョキと出現するパリ。

それもこれも、日本から移民としてやってきた新しい世代の行動力!と現地の若い世代の日本びいきの融合。漫画やテレビアニメで見ていた謎の食べ物が、実際に目の前に現れる興奮に取りつかれたフランス中のオタクたちが飛びつかないわけがない。

プラス、日本人=清潔、和食=健康食などというイメージが重なって、日本人が好んで食べるもの、として注目を集めて浸透していったようだ。

◇◇◇

私がパリに住み始めた頃には既に何軒かのラーメン屋はあったけど、長蛇の列が出来るほどではなかったと記憶している。よく通っていたのは平日のランチ。職場の近くがいわゆる日本人街と呼ばれる通りで、日系及びアジア系のレストランが軒を連ねていた。

ランチの時間に行くと、混み合ってはいるけど待たずに入れて素早く食事が出来る。現地の人が二、三割、日本人もしくはアジア系が七、八割で客席を埋めていた。

ラーメン屋での私の定番メニューは、黄金色に透き通ったスープの塩ラーメン、もしくはエビ入りチャーハンスープ付き。美味しかったなぁ。

◇◇◇

ところがところが、それから数年後に大ブームが起きる。

仕事を辞めて暫くした頃に、久しぶりにと思って夜ラーメンを食べに行ったら長蛇の列が出来ていた。九割方がパリっ子(パリ、パリ近郊に住む若者)。

以前は夜に行くと、日系企業の駐在おじさん達が一杯ひっかけていたり、日本人留学生が友達と来ていたりする程度で、混んでいるイメージは全くなかった。

確か爆発的に流行るキッカケが何かあったような気がするが、それが何だったのかは全然全くすっかり覚えていない。(あ、漫画のナルトが流行った時だったかな??)

現在はその時ほどの熱狂的なブームではないようだけど、その代わりに日本人街以外にもあちらこちらにラーメン屋が出来ている。日本で修行したり、独学で学んだフランス人が経営する店や日本の大手チェーン店も含め、色んな種類のラーメンが楽しめる街になったパリ。

◇◇◇

パリのブームからはだいぶん遅れたけど、今、私が住んでいる南仏の街にもラーメン屋がある。ここ五、六年の間に出来た新しい店だ。

パリほど流行りものに左右されない土地柄にもかかわらず、漫画で見たあの料理が食べられる!とか、ヘルシージャパニーズ!とか言って喜ぶ現地の人たちが贔屓にしている。

ラーメンがヘルシーかどうかは置いといて、日本人としては、近くにカジュアルな日本の味が食べられる店があると思うだけでちょっと安心した気持ちになれる。

◇◇◇

そんな中、フランス人がチェーン展開するストリート系おしゃれラーメン屋で食べた日本人の口からこんな言葉が飛び出した。

ぬるいラーメンを初めて食べた、と。

その店ではフランス風に独特のアレンジを加えたインスタ映えするカラフルなトッピングメニューを取り揃えている。オーナーがフランス人なだけに、啜って食べられないフランス人の気持ちを考慮してわざとぬるいラーメンを出しているのかもしれない。

それにしてもぬるいラーメンって???想像できない。

時間が経って冷めてのびたラーメンなら想像できる。でも、出来立てがぬるいラーメンってどんなだろう?冷えていれば冷やし中華や冷麺的なものを想像できるけど、ぬるいラーメンはなかなか想像できないものだ。

だって、熱々をズルズルっと啜るのがラーメンだと思っちゃってるし、そーゆーラーメンしか食べてこなかったから。

生まれて初めて出来立てのぬるいラーメンを食べたその人は、不味かった、と言っていた。ぬぬぬ。

◇◇◇

それで思い出したのが、夫の実家にお泊りした時のこと。朝、お茶を飲もうと電気ポットでお湯を沸かしていた。その電気ポットはぐつぐつ煮えたぎらないと電気が切れない仕組みになっていた。

前日の残りのバゲットを切ってトーストしながらカップにティーバッグを入れて朝食の準備をしていたら、夫の母がやってきて、沸々と湧き始めたばかりのポットの電気を切ってしまった。

え?

寝起きで即座に言葉が出てこない私が顔を傾けると、母は満面の笑みでこう言った。

このポット、沸騰し過ぎるからね、ニコッ(母の素敵な笑顔)

いやいや、まだ沸いてへんし!!(私の心の声)

案の定、沸々し始めたばかりの湯はぬるかった。指を入れたらちょっと熱めのお風呂くらいの温度。むむむむむ。

なんだろう、ちゃんと沸騰させていないぬるいお湯って、沸騰したお湯が冷めてぬるくなったのとはまた違う味がする、ような気がする。

不味い。

そう思ったけど、母には言わなかった。仕方ない。彼女のテリトリーにお邪魔しているのだから、嫁がゴチャゴチャ言ったら角が立つ。

そして私はお口にチャックをして、人数分のクソ不味い飲み物とトーストを準備した。

◇◇◇

フォークで麺をクルクル巻いてパスタのように食べる人や、熱いのが食べられないからわざと冷まして、のびきった麺をプチップチッと噛み切りながら食べる人、そんな熱々を啜れないフランス人を見て思ったのは、熱々をズルズルっと食べるからウマいのに、ってこと。

そんな食べ方を見ていると、同じものを食べているのに同じものを食べている気がしない。

最近ではフランスでも啜れる若者が増えているみたいなので、同じ味を共感できていることに少し安心感を抱いたりもしています。


やっぱし湯は、グラグラと沸かしてなんぼ。ガンガン沸かさないと何も始まらないよ。


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