見つめる犬

特殊なメンチを切られているようにも思える視線。プックリまるっと炊き上がったばかりの黒豆みたいに、つやっぽくてふっくらしたまん丸おめめでじっとこちらをロックオンする柴犬。

うちの柴犬はビビリ犬。少しでも物音がするとビクッと体が引きつって、忍者のごとく低姿勢でキョロキョロと辺りを見回します。

なのに、人の目を見る。じっと見る、見つめる犬なのです。

散歩中に知り合いと立ち話をしている時、不意に足元にいるミアの様子を伺うと、大抵誰かを凝視しています。通りすがりの犬好きさんや公園のベンチやイスに座っている人、見つめられたら見つめ返す。それが流儀とでも言わんばかりに、しっかりと真剣に、がっつり凝視。

犬好きさんってどこでも犬を見かけると、つい見入っちゃいますよね。私もそうです。犬がとっても好きだから、どんな犬でもついつい目で追ってしまいます。でも、私が見ている犬たちは、私のことなんか気にも留めません。チラッと見返してくることはあるけど、それほど興味はないみたい。たまに仔犬とかが、尻尾をフリフリ寄ってくるともう嬉しくてたまりません。

うちの柴犬ミアちゃんは、そういうのとはちょっと雰囲気が違うと言うか、マジのガン見。もしかしたら本当にメンチを切っているのかもしれません。真顔の時もあれば半笑いの時も、鼻に抜ける甘えた声を漏らしながらクシャっとした表情の時もある。多分それぞれに色んな感情があるんだろうけど、「見つめる」という行為は止めません。

海沿いの遊歩道、プロムナード　デ　ザングレを歩いていると、後ろの方から「ボンジュール」と声が聞こえて、リードがピンと張ることがあります。振り返ると、椅子に座ったおじいさんとミアがじっと見つめ合っていたりして💕おじいさんに声を掛けられたから見つめているのか、見つめていたらおじいさんが気付いて声を掛けてきたのか、どっち通行の想いなのかは定かではありませんが、結果は見つめ合う二人。

相思相愛か！二人の間の空気がピンク色に見えそうだし、シャバダバダの曲が聞こえてきそうだし。フランスでは犬もナンパされるのか？！ミアちゃん女の子だし、お年頃だし。

柴犬の体高は低いから、どうしても上目遣いになる。しかもこんなに上目遣いがキュートなのは、巷のあざとかわいい女子かミアちゃんぐらいよ。どこでこんなあざとテクニックを覚えてきたのか？？しかもミアが見つめる相手の八割は男性。むむむむむ。

今日も動物病院の若い男の先生にロックオンして、待合室で震えていたのが嘘のようにサッサと後をついて行ったりしちゃってさ。結局診察台に登らされてお腹とかお尻とかモジョモジョ触られて、挙句の果てにブチッと注射を打たれてキュンって小さく泣いちゃいました。

ビビリ犬なのに好奇心旺盛だから、色々んな目に合って、シュンな結果になるんだよね。

でもどんなことがあろうとも、また明日も見つめる犬。

それがうちの柴犬、ミアちゃんなのです。