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恥ずかしいだなんて、私は大人ぶっていたのかな。

「ねえ、ガチャガチャやっていこうよ。」

友人はそう言いながら何列にも連なるガチャガチャの機械たちを物色しはじめた。

「ガチャガチャって、私たちもういい大人だよ。」そんな私の発言を気にすることもなく、友人は「見てよこれ、面白くない?」と言葉を続ける。

大人になってからガチャガチャを回したことなんてあったかな、わくわくと歩く友人の後ろ姿を目で追いながらそう記憶を辿ってみる。けれど思いつくのはどれも子どもの頃の無邪気な記憶だけ。

きっと私はガチャガチャの前に座り込んであの丸いハンドルを回す行為を、もう大人になったんだからという理由で恥ずかしがっていたんだろう。だから「あ、可愛いのある」「こんなのも出ているんだね」そう会話に出すことはあっても、とはいえもう大人だしと素通りしていたのかもしれない。

恥ずかしいだなんて、私は大人ぶっていたのかな。

でも大抵の場合、私がガチャガチャの話題を出したところで「じゃあやってみようよ」という返しはこなかったわけで。きっとその場にいた相手も同様に思っていたのかもしれない。

そう考えると、誰しも心のどこかでもう『大人になったんだから』と無意識のうちにブレーキをかけているのではとも思ってしまう。

わくわくを大事に、興味があるならやってみる。

そう決めているのに。日常にぽんと現れるわくわくや興味を私は見て見ぬ振りをしていた。もう大人になったんだから、そんな便利な言葉を使って。

・・・

どれにしようかと二人で物色する最中、友人はとある機械の前で立ち止まる。そして満面の笑みで私を振り返り、「探してたのあった。これ欲しいんだよね。」と大きな体をきゅっと丸めて覗き込む。

残り少ないけど欲しいやつ出るかな、そう呟く友人はまるで無邪気な子どものようで、思わず微笑んでしまうほどだった。

横で見守りながら、友人がガチャっとハンドルを回す。懐かしい音だな、そうほっこりしながらカプセルが出てくるのを待つ。

あれこんなにカプセルって小さかったっけと不思議そうな顔で見つめる私なんてお構いなしに、友人はわくわくした表情でカプセルをえいっと開ける。

「欲しいやつ出た!やった!」大きな手にちょこんとキャラクターを乗せた友人は無邪気にはしゃぎだす。その横にいた私もまるで子どものように「すごいすごい」と笑っていた。

・・・

そんな友人をみて私も同じようにはしゃいでみたいと心の中で思いつつ、まだ心のブレーキはかかったままだった。小さな声でどうしようかな、でもな、そう呟く私に友人はこう声をかける。

「何かひとつはガチャガチャ回してみたいって顔してる。気になるのあるならやってみなよ。」友人にはなんでもお見通しのようだ。

誰かがやるのをみるのは好きだし楽しいけれど、本音は自分だってやってみたい。でもいつも私はいいよと遠慮してしまう。普段からやってしまいがちな私のダメなところ。

勝手にかけていた心のブレーキを取っ払い、今は無邪気な子どもになるぞと友人に「うん。回してみたい。」と返事をする。

よしっと友人も私の返事になんだか楽しそうな表情で答える。優柔不断な私は迷いに迷いつつも、当初からなんとなく気になっていたカメラのガチャガチャをやってみることに決めた。

100円玉を一つずつ投入し、ハンドルをガチャガチャと回す。出てきたかなと覗き込み、小さなカプセルを取り出してあげる。

子どもの頃、カプセルがなかなか開かなくてお母さんに開けてとよく頼んでいたものだ。突然の懐かしい記憶にふふっと笑いながら、今も相変わらずかと手元ではカプセルにまとわりつくセロハンテープに苦戦してしまう。

そんな私をみながら友人は「開けるのに手こずっているね。頑張れ。」と笑っている。頼もうかなとも思ったけれど、ちゃんと一人で開けられた。もうお母さん開けてと言う必要はなくなったようだ。

私の手のひらには小さな望遠カメラと自撮り棒、そしてスマホが乗っかっている。お目当てのものは出なかったけれど、ガチャガチャを回せただけでもう心は満足だった。

とっても小さな自撮り棒とスマホ

・・・

子どもの頃はよくやっていたんだけどね、そう口に出すことが年々増えてきたように思える。その言葉の裏にはもう大人になったんだから、そんな言い訳のようなはたまた諦めのような心情が隠されているのではないか。

人生の選択、とまではいかない日常の小さな出来事においてももう大人になったんだからと人はときにブレーキをかけているのかもしれない。

大人になってもわくわくな気持ちを持っていようよ、子どものように無邪気にはしゃいでみても大丈夫。大人になったんだから、その一言で何もかもを片付けてしまうのはなんだか勿体ない。

ガチャガチャで遊んでみる、そんな些細な日常の出来事。

また大事な気持ちに気づかされてしまったな、やっぱり君は私にとって新しい気づきをくれるかけがえのない存在なんだね。

嬉しさとほんのちょっとの悔しさが共存したとある土曜日の出来事。

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