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2016年11月の記事一覧
〔小説〕 ざまみ(一)
待ち合わせの辺鄙な港で、あたしと同じように大きな荷物を抱えて立っていた人を、初めは留年を続けたうらぶれた学生かと思ったのだ。よく日に焼けた腕が薄汚れたティーシャツからのびている。無精ひげに長い髪。歳を訊いたら、三十九だとかいうから驚いた。
もっとみる〔小説〕じゃらん、じゃらん。(三)
二人で並んで、若宮大路を海に向かって歩いた。もう秋の風が吹き始めているのに、地元のおじさまたちは皆、ハーフパンツにビーチサンダルだ。ジーンズ姿に革靴で、色白の崇史は、見るからに他所者だった。
もっとみる〔小説〕じゃらん、じゃらん。(二)
最初に引っ越すつもりだったのは高円寺あたりだった。小さな古びたアパートがごみごみとある感じと、中央線が高架を、まるで海の上を渡るように走るところに憧れていたのだ。そしていつか、今の仕事を辞めたなら、ほんものの海の近くに棲もうと思っていた。でもそれは、ずっと先のことであるはずだった。
もっとみる〔小説〕じゃらん、じゃらん。(一)
じゃらん、じゃらんと、鈴の音がする。布団の中で目を閉じたまま耳を澄ます。あれは通りを征くお坊さまの鳴らす音だろうか。鈴の音は、眠りに吸い取られるように夢に溶けてゆく。
もっとみる〔小説〕 ウェディングドレス
ウェディングドレスをどうしてみんな着たがるのか疑問だった。
純白のドレスを着て「あなたの色に染まります」なんて、冗談でも言えるわけない。一日限りのヒロインになるつもりも毛頭ない。おれはいつでもおれ自身の極彩色を放ち、常に喝采の真ん中に立ちたいのだ。