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10年前、ワインに導かれて

わたしとワインとの出会いは、二十歳の頃に留学したイタリアでのワインフェスタだった。

イタリア中部のとある小さな田舎町。
ここで開催されるというワインフェスタに友人から誘われ、「ワイン?飲んだことないけど、せっかくイタリアにいるんだし飲んでみようかな」と参加することにした。

イタリアでは大小さまざまなワインのイベント、いわゆるフェスタというお祭りが開催されている。
受付で12ユーロのお支払いの後に受け取ったワイングラスと、そのグラスを入れて首からぶら下げるためのホルダー。
どうやらこのグラスはもらえるらしい。グラスってお高いイメージだったけど、こんな感じで手に入れることができるのか、と当時は驚きでいっぱいだった。

最初に目に入ったのが、教会のような建物の中でブースを構えている生産者たちの姿。
まだイタリアに来たばかりなのでイタリア語はさっぱり分からないが、どうやら北の方でワインを作っているらしい。早速テイスティング。
「ワインってこんなに泡がシュワシュワしてるの?」
飲んでみると甘くて飲みやすい。
「え、ワインってこんなに飲みやすいの?」

かなりの衝撃を受けた。

それがアスティのスプマンテ(スパークリングワイン)で甘めのものだと後から知ったのだが、この体験のおかげでワインの第一印象はとても良かった。

アスティの後に飲んだワインたちも美味しくて、たくさん飲み過ぎた結果、どんなワインを飲んだのかあまり記憶がない。
ただ、赤ワインだけは距離を置いていた。こんな二十歳になりたての私なんかに赤ワインの良さがわかるわけがないと思っていた。

実際、その3ヶ月後に、「日本で飲むと1万円は超えるワインだよ」と言う言葉につられて赤ワインを飲む機会に恵まれるのだが、悪酔いをしてしまい、友人におぶられて家まで帰るという大失態をしてしまう。残念なことに、美味しさもあまりよく分からなかった。
結局は自分自身がこのワインの価値や美味しさを味わえる経験がなかったということになるのだが、当時は値段でつられてはいけないなということしか学ぶことができなかった。
イタリア留学中はスプマンテか白ワインを飲み、赤ワインは何度かチャレンジしてみるも、おいしいと思えるものに出会えず日本に帰国した。

帰国してすぐに当時の彼と梅田のスペインバルに行くことになった。
彼もアメリカ留学から帰ってきたばかりで、二人でいろんな留学話をして盛り上がった。
私も「イタリアでワインの良さを覚えてきたよ」と鼻高々にロゼ、白と飲み、最後は迷いもなく赤も注文したのだが、再び悪酔いをしてしまい、私の高い鼻はあっけなく折れてしまった。

それ以来しばらくの間、赤ワインは避けてきた。
赤ワインのおいしさや楽しみ方がわかってきたのは、26歳のころ。
イタリアの食材やワインを扱う会社に入社し、仕事の中でもワインをテイスティングさせてもらう機会があった。ワインだけではなく食材も扱っていたので、どのようにペアリングすればおいしいのかを考えて試飲する。

そうしたことを経験しているうちに、「私はワイン単体で美味しさを探していたから、なかなか自分の中でしっくりこず、結果たくさん飲み過ぎて悪酔いしていたんだな」とわかった。

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もちろん単体でも驚くほどおいしいワインはある。
それでもワインのポテンシャルの高さは、食べ物と組み合わさった時に威力を発揮するのだと思う。
特にイタリアは食にも恵まれた地だ。その土地独自の食文化が豊かで、ワインも同じく土着品種が2000種もあると言われているのはイタリアの特徴だ。同じ地で生まれた品種のワインと食材から作られた郷土料理が合わないはずがない。

当時二十歳で留学中にはなかった感性が身についたこともあると思う。
歳を重ねたからこそ、味覚の豊かさや経験が充実しているという自覚もある。
ワインの知識がついたことも、ワインのおいしさが分かり、楽しめるようになった一つのきっかけなのかもしれない。

そこからイタリアの土着品種を知るために、お世話になっているシェフや会社の先輩も巻き込んで勉強会を始めた。
同じ品種のワインを2, 3本飲み比べて、各々どのような香りや味を感じるか話し合い、料理も美味しくいただく。感じ方はそれぞれで、どのワインが好きかも人によって違ってくる。そこを話し合うのも楽しい。

食事とのペアリングも大切な要素だけれど、味わいや香りを人と話し合って飲むこともワインを楽しむ上で重要なことなのだと思うようになった。

この10年間で、仕事に携わるまでにワインにどっぷりと浸ることになるとは、留学中の自分からすると夢にも思わなかった。それほど嬉しいことだ。
わたしはソムリエの資格を持っていないし、知識も経験もまだ足りないので、自分なりの楽しみ方しかお伝えすることができない。
最近マイブームのナチュラルワインやオレンジワインの楽しみ方も深く掘り下げたいし、イタリア以外のワインもたくさん出会いたい。
生産者の思想や哲学について知り、心を染めてワインを味わいたい。
ワインにあう料理も今以上に極めていけたらいいなという思いもある。

ワインやコーヒー、食を通じて日々の生活が楽しくなるような、そういう暮らしや仕事をしていきたいという思いは日に日に強くなるばかりだ。
できることから少しずつ形にしていけるように、価値観や思想を受け継ぐワインと同じように自分の大切な価値観で暮らしていけるように、仕事ができるように努力していかなければと思う。


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