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「連載マンガの企画」についてみっっっちり考える

はじめに〜本記事が有料である理由

どうもこんにちは、STUDIO ZOONのムラマツです。

先日、日本大学藝術学部で『クリエイターと世間を繋ぐ企画術』というお題で講義をする機会をいただきました。

僕は編集部員から提出される多くの連載企画に目を通す立場なのですが、「連載マンガの企画として成立していない」と感じることがたまにあります。成立していないと形にならないし、仮に形になったとしてもどこかで破綻するので「連載企画は何を満たしていて欲しいか」という話を現場でも四苦八苦しながら伝えているのですが、そういった内容を簡潔にまとめてお話ししました。

その上で「noteのネタにもしたら一石二鳥だな」と講義内容に補足を入れつつ書き始めたのが本記事なのですが、分量が1万5000字超になったのに加え、色々踏み込みすぎていて大っぴらに公開するのが憚られる内容に…!

そこで有料化を検討したのですが「不特定多数に読まれすぎるのを避けたいだけで別にnoteで稼ぎたい訳じゃないしな〜。作家さんが買うかもだし…」と悩んでいたところ、一人の面白いクリエイターに出会いました。

日藝在学中の田中響くんという、一人でアニメやら特撮やらを作っている21歳の子なのですが、その作品が非常に面白い! 下のMVのアニメは田中くんが19歳の時に一人で作ったとのこと。楽曲も最高なんで是非見てみてください。

平安時代にベスパで2ケツの世界観、ヌルヌルと変化する気持ちのいい画面とテンポ…これを19歳がひとりで作ったのかと思うと、うーむ、すごい。

さて、そんな才能あふれる田中くんですが、現在卒業制作として桃太郎をモチーフにしたオリジナルアニメを作っています。

これはすごいアクション大作になりそうな予感!……なのですが、めちゃくちゃお金がなくて制作費にも事欠く状況のようです。どれくらいお金がないかというと、通話中に平気でシャットダウンする交通事故でバキバキのスマホを使い続けています。

そんな彼を見て思いました。日藝がきっかけで書くことになったnoteの収益を、日藝の学生さんのアニメ制作費の足しにするのは筋が通っているんじゃないか、と。

というわけで、本記事の収益は田中くんに新作アニメ製作費として差し上げます。田中くんの新作を応援したい方、記事の内容が気になる方は是非ともご購入を検討いただけますと幸いです。
※追記:2024年9月末で一旦〆てそこまでの売り上げは田中くんに、以降の売り上げは能登に寄付します。9月末時点で15万円超の売り上げがありました、ありがとうございました!

以上、本記事が有料である理由についての説明でした。本題にいきましょう!


連載マンガ企画に必要なものとは?

かなり根本から考えていきます。そもそも企画とは何のために必要なのでしょうか?

ズバリ「商業性を担保するため」です。

マンガに限らず自分の楽しみだけのためならば企画は必要ありませんが、誰かを楽しませ、その結果お金を得ようする時、必ず企画が必要になります。

ただの妄想や落書きを「喜ばれる」妄想や落書きにするための「形式」。それが企画です。

では「連載マンガ企画が喜ばれる形式になる(商業性を担保する)」ためにはどのような要件を満たしているといいでしょうか?

僕は次の5点だと思います。

① 面白さ
② 新味
③ わかりやすさ
④ 納得感
⑤ 発展性

面白さがないとエンタメになってません。新味がないと他作品との違いが出ません。わかりやすさがないと理解されません。納得感がないとキャッチーにならず、発展性がないとストーリーとして盛り上がっていきません。

良い企画案は人に話した際に 「なるほど〜!それは新しいor面白い!……こういうこともできそうだし、ああいう展開もありそう!」 という反応をもらえます。

これは
・「なるほど〜!」→納得感
・「新しい」→新味
・「面白い」→面白さ
・「こういうこともできそう〜」→発展性
・(内容が理解されている)→わかりやすさ
という形で対応していて、上記の要件を満たしているから起こるリアクションだと思います。

マンガ編集部では日々、数多の作家さんが編集者と連載企画の打ち合わせを重ねているわけですが、それはこの5点をクリアーしようと奮闘していると言い換えてもいいでしょう。

普段、自分が企画を見るときは「この企画は要件①を満たしているけど、要件②は満たしていないな〜」なんて杓子定規に考えることはなく、経験的に身につけた感覚で企画の可否や修正案をフィードバックしているわけですが、あえてその感覚を分解して言葉に置き換えるならば、以上5点かな、と。

ではでは、それぞれについて考えてみます。

「面白さ」について

面白さとは何か?

いきなりハードな問いですが、「人がなぜある現象を面白いと感じるのか」は論理的に説明できないと思います。例えば人が転んでいるショート動画とかyoutubeとかですごい再生されたりしていますが、人が転んだら面白い理由はよくわからないですよね。なぜかはわからないが面白い。

ただ「なぜかはわからないが人が面白いと感じる現象」というのは確かに存在するし、作品などから抽出してストックすることもできます。この現象を企画の中で押さえられていれば、その企画は面白さを持っていると言えます。

一例を出すと「悪役が実は苦労している小市民である」という現象は面白いです。自分の担当作で言えば『中間管理職トネガワ』はこの面白さを持っていると思います。他にも『秘密結社鷹の爪』『天体戦士サンレッド』なんかもこういう面白さを中核に持っていますよね。

言ってしまえば、よく漫画で大事と言われる「ギャップ」の一種なんですが、別に面白くないギャップも世の中にはたくさんあります。が、「悪役が実は苦労している小市民」というギャップは鉄板で面白いです。

他にも自分が発見した「おもしろ現象」を挙げてみます。
・バカに振り回されている真面目な人は面白い
・隠された気持ちが露になる瞬間は感動する
・真逆なものを同時に見せられると惹きつけられる

余談ですが、長く一線で活躍している作家さんほど、この「おもしろ現象の言語化」が上手いな、と思います。過去にある作家さんと当時上映中だった映画『アイアンマン』の感想を話しあっていた時のこと。自分が「いや〜面白かったですね」等とボンヤリした感想を言っていたら、その作家さんが「そうですね、人が強いものを作る過程って面白いですよね」と言っていて、『アイアンマン』前半の面白さをシンプルに言語化していて衝撃を受けました。

「人が強いものを作る過程は面白い」という「おもしろ現象」はもちろん「アイアンスーツ開発」に限定されたものではなく、「大軍艦の建造」でも「日本刀の鍛錬」でも「天才的な弟子の育成」でもいいわけですよね。つまり面白い作品から「おもしろ現象」を抽出してストックできる作家さんは、企画やストーリーを考えるときにその「おもしろ現象」を利用することができる。だから長く活躍できる、と。

ちょっと話が膨らんでしまいましたが、このような「おもしろ現象」を押さえていることが連載企画の1つ目の成立要件になります。

「新味」について

新味とは何か?

これは企画内容の面と、その企画を執筆する作家さんの面から説明できるかなと思います。

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