[カレリア民話] 白樺ぞうり(VIRZUINE)
白樺ぞうり
むかしあるところに、ばあさんがいました。ばあさんは白樺の樹皮で編んだぞうりを持っていました。ばあさんは言いました。
ー旅立とう、広い世界で何かをかき立てるために。
そうして出発しました。歩いて、歩いて行くと、水を運んでいる労働者たちがやって来ました。ばあさんは言いました。
―おばさん、この家に泊めてくれないかね?
―ああどうぞ、お泊りなさいな。
ばあさんは言いました。
―あたしゃ、白樺ぞうりを持っているんだけど、どこに置いといたらいいかね?
―(他の)ぞうりと一緒に置いておきなさいな。
―(他の)ぞうりと一緒には置かないよ。あたしゃ、そうだね、鶏と一緒にしておくよ。
―そうかい、そうしときなさい。
そうして、(鶏と一緒に)置きました。夜どおし寝ると、翌朝、おかみさんに言いました。
―あたしの鶏ちゃんを渡しておくれ、出発するから。
―あんたは鶏なんか持ってなかったじゃないか、あんたが持っていたのは白樺ぞうりだろ。
―白樺ぞうりなもんかい、鶏といっしょだったよ!
そうやって言い争い、言い争いました。
―渡さないってんなら、あたしゃお月さんに聞きに行くよ!
おかみさんはギョッとして、渡さざるをえなくなりました。そうして鶏を渡しました。あらら。
ばあさんは先へと進んでいきました。ある村にやって来ると夜になりました。そこへ、あるおばあさんたちが水を運んできました。(ばあさんは)言いました。
―ばあさんたち、出来れば、出来ればこの家に泊めてくれないかね?
―ああ、お泊り、お泊りよ、うちは旅人用の(部屋)があるんだよ。
ばあさんは泊りに来ました。泊りに来ると、おかみさんに言いました。
―あたしゃ、ほら、鶏ちゃんを連れてるんだけど、どこに置いといたらいいかね?
―(他の)鶏たちと一緒にしときなよ。
―いいや、ヒツジたちと一緒にしておくよ。
―そうかい、どうぞ、そうしておきよ。
そうして、(ヒツジたちと)伴に、一緒にしておきました。ふたたび夜どおし眠ると、(翌朝、)食べたり飲んだりしました。おかみさんへ言いました。
―あたしのヒツジちゃんを渡しておくれ。
―違うだろ、ヒツジなんか持ってなかっただろ。あんたが持ってたのは鶏だよ。
―渡さないってんなら、あたしゃお月さんに聞きに行くよ!
おかみさんは混乱し、月に行くのなら渡さなければいけないと思いました。
―ああ、もうヒツジを持っていきな、持っていけばいいさ!
そうして(ヒツジを)つかむと、出発しました。ふたたび旅をつづけ、(目指すところが)遠くだろうが近かろうが、進んで行きました。ただ、どんどんと歩いて行きました。ある村にやって来ると、ふたたびある家に立ち寄りました。
―おかみさん、泊めてくれないかね?
―ああ、お泊り、お泊りよ、うちには旅人たちがいるんだよ。
―あたしゃ、ヒツジちゃんを連れているんだけど、どこに置いといたらいいかね?
―そりゃ、(他の)ヒツジたちと一緒にしときなよ。
―(他の)ヒツジたちとだなんて、一緒にしないよ。雌牛と一緒にしておくよ。
―そうかい、そうかい。牛と一緒にしておきな!
そうして、(そこに)滞在して過ごしました。朝になって起き上がり、食べて飲みました。
―渡しておくれ、あたしの雌牛ちゃんを!
―あんたは雌牛なんか連れてなかったじゃないか。あんたが連れていたのはヒツジだろ。
―いいや、あたしゃ雌牛を連れていたね。さあ渡しておくれ、そうでないならお月さんかお天道さんに聞きに行くよ!
おかみさんはギョっとして、雌牛をくれてやりました。
ばあさんは出発しました。雌牛を連れて進んで、進んで行きました。ふたたびある村にやって来ると、ふたたび泊めてもらわなければならなくなりました。おかみさんへ頼みました。
―この家に、泊めてくれないかね?
―ああ、お泊り、お泊りよ。
ばあさんは、ふたたび(言いました)。
―あたしの雌牛をどこに置いといたらいいかね?
―(他の)雌牛たちと一緒にしておきなさいよ。
―いいや、(他の)雌牛とは一緒にしないよ。馬と一緒にしておくよ。
―そうかい、どうぞ、どうぞ。
そうして置いておきました。ふたたび夜どおし眠り、朝には食べて飲みました。去りぎわに(言いました)。
―あたしの馬を返しておくれ。
―いいや、あんたは雌牛を連れていたよ!
―違うね、あたしゃ馬を連れてたよ!
―何を考えてんだ、雌牛がいただろ、あんたには!
―雌牛なんかいなかったよ。返さないってんなら、お月さんに聞きに行くよ!
―なんだい、勝手におし。さっさと行ってくれ。馬を連れていけばいいさ。
(そうして馬を)連れていきました。馬に馬車をとりつけ、出発しました。(馬を)走らせ、走らせ進みました。ウサギがやって来ました。やって来て(言いました)。
―おばあさん、ぼくをソリに乗せておくれよ。
―歌うことができるんなら、お乗りよ。
ウサギは歌い、さえずり、ばあさんはソリに乗せてやりました。
ふたたび(馬を)走らせ、走らせていると、キツネがやって来ました。そのキツネも(言いました)。
―おばあさん、ソリに乗せてくださいな。
―来なさい。
ふたたび先を進んで行きました。クマがやって来ました。クマは(こちらへ)向かってやって来ました。
―ばあさん、ワシをソリに乗せてくれ。
―ああ、乗りなさい、乗りなさい。
そうして、あらゆる者が集まりました。(馬を)走らせ、走らせて行くと、留め具とかじ棒があわせて壊れてしまいました。これ以上、先に進むことができなくなりました。(旅が)中断されてしまいました。
―ほらウサギよ、かじ棒を(探して)取りに行ってくれ。
ウサギは小枝のようなものを持ってきました。
―こんな物を持ってきて、何の役にも立たないじゃないか。キツネ、お前が行ってかじ棒を持ってきておくれ。
キツネが(探しに)行き、自分の力に応じた物を持ってきましたが、ふさわしくありません。
―クマ、かじ棒を持ってきておくれ。
クマは(探しに)出かけ、とても立派な、おそらくふさわしいと思われるような、立派な丸太を引きずってきました。
けれども、こんなものを持ってきたところで、(かじ棒として使って)走らせることなんてできません。
―ここに立っていなさい、あたしが(探しに)行ってくるよ。
主人であるばあさんは、そう言いました。
そうして(ばあさんは探しに)出かけました。ばあさんがかじ棒(に適した木)を探し、選んで切り倒している間に、彼ら(獣たち)は馬をつかまえ、食べてしまいました。そしてブーツの上に(馬の毛皮を)張りとめ、立てておくと、自分たちは逃げました。
ばあさんは戻って来ると、かじ棒を取りつけました。かじ棒を取りつけ、ソリに座ると乗客たち(獣たち)みんなが去っていたので満足し、出発しようとしました。むちで馬を打ちつけると、馬はその場に倒れてしまいました。あらら。
これまで、ばあさんには白樺ぞうりや、ヒツジがありました。けれども、今やふたたび(履いていた)白樺ぞうりだけが残り、その他には何の財もなくなりましたとさ。
これで終わりです。
単語
virzu [名] 樹皮を編んだ草履
endine [副] 以前, むかし
akku [名] 妻, ばあさん
lähtie [動] 出発する, 出かける
sanuo [動] 言う, 話す
mi [疑] 何, 何か
matku [名] 旅
tulla [動] 来る
vezi [名] 水
kandua [動] 運ぶ
kazačiha [名] 労働者
t'outa [名] おばさん
taloi [名] 家
muata [動] 寝る, 横になる
ka [接] しかし
panna [動] 置く
kana [名] にわとり, めんどり
yö [名] 夜, 晩
huondes [名] 朝
nosta [動] 起き上がる
emändy [名] 女主人
da [接] そして
andua [動] 与える, 渡す
kuudam [名] 月
prostie [動] 許しをこう, 尋ねる
hämmästyö [動] 仰天させる, 驚かせる
pidiä [動] 掴む, ~しなければならない
ielline [副] さらに, 先に
matkata [動] 行く, 旅する, 進む
eräs [副] ある
kylä [名] 村
mugaže [副] ~も, ~のように, また
ehty [名] 夕方, 夜
jagarmo [名] 魔女, バーバ・ヤガー, ばあさん
kävelii [名] 歩く人, 旅人
lammas [名] ヒツジ
suattua [動] 付き添う, 連れていく
myös [接] ~も, また, ふたたび
syvvä [動] 食べる
juvva [動] 飲む
luo [副] ~のところへ
ottua [動] 取る, 手に取る, つかむ
loitton [副] 遠くに
lähäl [副] 近くに
zaidie [動] 立ち寄る, 訪れる
rahvas [名] 大衆, 人々
lehmy [名] 牛、雌牛
eliä [動] 暮らす, 生活する, 住む
yöbyö [動] 宿泊する, 夜を過ごす
tarita [動] 提供する
heboine [名] 馬
tuvva [動] 持って行く, 持ってくる, もたらす
tolkuija [動] 説明する, 読み取る, 解釈する, 考える
val'l'astua [動] (馬を)馬車につける, 馬車の用意をする
jänöi [名] ウサギ
regi [名] ソリ
maltua [動] (能力的に)~できる
pajattua [動] 歌う
häi [人代] 彼
lullettoa [動] 歌う,口ずさむ, 奏でる
reboi [名] キツネ
kondii [名] クマ
kerätä [動] 集まる, 集める
kai [名] 皆, 全部, すべて
saverkka [名] かじ棒を取り付けるための留め具
katketa [動] 裂ける, 割れる, 壊れる
aižu [名] かじ棒
sigäli [副] その道を, そこを通って, そうして, 関連して
loppie [動] 終える, 終了する
varbu [名] 小枝
varbune [形] 小枝の
moine [形] そのような, ~のような
oma [形] 自分の
vägi [名] 力
myö(te) [副] 結局, ~に応じて
sobie [動] 適する, ちょうど合う
oivalline [形] 良い, 状態の良い
pardehine [形] 木材用の丸太
voloččie [動] 引っ張る, 引きずる
seizuo [動] 立つ, 立っている
eččie [動] 探す
leikata [動] 切る
batikka [名] オーバーシューズ, ブーツ
seizattua [動] 設置する, 留め置く
azettua [動] 留める, 設置する
istuo [動] 座る
ihastus [名] 喜び, 満足, 夢中
vičču [名] 細長い枝, むち
iskie [動] 打つ, たたく
langeta [動] 倒れる, 落ちる
nygöine [形] 現在の, 今の
jiähä [動] 残る, 留まる
elo [名] 豊かさ, 財産
出典
所蔵:ロシア科学アカデミー カレリア学術研究所(KarRC RAS)
採取地:コンドポガ(コンドゥポホヤ)地区のエルシ村
採取年:1964年
AT 170/2034C + 158
日本語出版物
日本語での出版物は見当たりません。
つぶやき
はじめてリッヴィ方言からの訳を試みました。慣れていない分、語彙を調べるのがやはり大変ですね・・・ロシア語からの借用、というよりそのままロシア語の語彙を使用していることも多々あり、なおさら時間がかかりました。これを機にリッヴィ方言の学習も少しずつ進めていきたいと思います。
民話「白樺ぞうり(Virzuine)」は、ロシア内ではカレリア民話としてよく知られています。ロシア語タイトル「Лапоток」で検索すると、読み聞かせの動画なども多く見受けられます。
タイトルの "Virzuine" は "virzu"の指小形で、白樺の樹皮で編んだ履物を指します。以下は『カレリア人の物質文化(МАТЕРИАЛЬНАЯ КУЛЬТУРА КАРЕЛ』に描かれているイラスト。
イラスト:М.Н.Свиньина
引用元:Р. Ф. Тароева(1965): Материальная культура карел, Издательство "Наука"
ばあさんが交換物を要求する際にほのめかす、「月に伺いをたてる」行為が気になります。何か結びつくような信仰・慣習があるか調べてみよう。
AT158 「そりに乗った野獣たち」はカレリアの他、東欧やロシア内のウラル系民族に伝わっているようです。家畜と獣の間の境界線を示すお話ですね。別のバリエーションでは、ネズミが最初にソリに乗り込みますが、クマと入れ替わって降りるため、馬を食べる中には含まれていません。境界線上の生き物なのでしょうか。
小さな元手を少しずつ大きくして財を成していく話は、ATカタログでもいくつか紹介されています。今回のばあさんのように、最後にはすべてを失くしてしまうことが多いですが。
その逆に、ドイツの民話「幸せハンス」で知られるような、徐々に財を減らしていく話もよく見かけます。もちろんカレリア民話にもありますので、そのうちご紹介します。
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