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[カレリア民話] ばあさんと鍋(AKKA I KATTILA)

ばあさんと鍋

はるか昔、じいさんとばあさんが暮らしていました。彼らには釜鍋が1つと、とてもみすぼらしい小屋があるだけでした。じいさんが亡くなりました。ばあさんと鍋が残りました。ばあさんはお粥が欲しくなりました。ばあさんが扉から出ようとすると、鍋が叫びました。
―オイラを(使いに)行かせておくれよ!

鍋は出発すると転がり、金持ちの家の前に転がりこみました。そこへ(その家の)夫、妻、使用人が草刈りから戻ってきました。彼らはお粥を作ろうとしましたが、鍋がありませんでした。おじいさんは大声で言いました。
―鍋が門の前にあるぞ、鍋が捨てられている!

妻は鍋を取りあげると、お粥を作り始めました。鍋がテーブルの上に置かれました。彼らは食器を用意はじめました。鍋はテーブルから跳びおり、自分の家の門の前へと転がっていくと、ばあさんに言いました。
―門を開けておくれよ!

ばあさんは門を開けました。鍋をテーブルに乗せ、お粥をとってお皿に移すと、鍋をつかみ洗ってペチカの炉口前に置きました。それから、ばあさんは言いました。
―バターが欲しいね。

ふたたび鍋はバターを探しに行かされました。鍋は出発すると、ふたたび門の前へと転がっていきました。そこでは年をとったおばあさんが、バターをかき混ぜていました。おばあさんはバターをかき混ぜていましたが、それを入れるものがありませんでした。おばあさんは、食器を借りに隣の家へ行こうとしました。すると、門の前に鍋があるのを見つけました。鍋を取りあげ、その中にバターを入れました。おばあさんはバターを洗い(水分を絞り出し)、塩を加え、テーブルの上に置きました。鍋はふたたび跳びおり、自分の門のところまで去っていくと、ばあさんに叫びました。
ー門を開けておくれよ!

ばあさんは、お粥をバターとあわせて食べると、かまどに上がって言いました。
―夫が欲しいね。

鍋は転がり出ていきました。転がって、転がって、堆肥置場に転がってきました。そこへおじいさんがやって来るのを見ました。おじいさんは鍋があるのを見ると、鍋にウ●チをしに行きました。おじいさんが鍋にウ●チを出そうとしたとき、鍋はおじいさんのお尻をつかまえました。鍋は転がり、おじいさんは叫びました。鍋は自分の家の門の前まで転がると、ふたたびばあさんに向かって叫びました。
―門を開けておくれよ!

ばあさんは、鍋の中のおじいさんを見ました。それからおじいさんに向かって言いました。
―さあ、かまどに上がっておいで。

単語

huttu [名] 粥, オートミール
niitto [名] 草刈り場, 刈取り
rakaija [動] 投げる, 放り出す, 身を投げる, 飛び出す
kolavuttoa [動] カタカタ音を立てる, 打ちつける, 撹拌する
suolata [動] 塩漬けにする, 塩をきかせる
šitta [名] 肥料
tunkivo [名] 倒すこと, 堆積, 山, ゴミ捨て場
ulostuo [動] 排泄しに行く, 排泄する, 大便をする
šittuo [動] 排泄する, 大便をする
perše [名] お尻

出典

所蔵:ロシア科学アカデミー カレリア学術研究所(KarRC RAS)
採取地:ケミ地区のポドゥジェミエ村
採取年:1934年
AT 591

日本語出版物

日本語での出版物は見当たりません。

つぶやき

あはは、変な話ですねぇ。お尻まるだしで転がるおじいさん・・・想像したくはありませんが、民話ならではの描写です。

主人公を「ばあさん」、連れてこられた男性を「おじいさん」と訳していますが、「妻」、「夫」と訳すこともできる語なので年齢幅は広いですし、そこまでお年寄りではないでしょう。

最後のばあさんのセリフはとっても意味深です。
「かまどの上」は、かまど(ペチカ)の温もりを生かした寝台スペースですから、つまり・・・お誘いしているわけですね。

話型591「泥棒鍋」にあたる話ですが、魔法的要素は薄く、暮らしの中の願望がこめられている気がします。

>> KARJALAN RAHVAHAN SUARNAT(カレリア民話)- もくじ

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