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キンナス村の人々(KINDAHAN RAHVAS)


キンナス村の人々

むかし、そこにあったんだか、なかったんだか。はるかむかしに古い人々が、とにかく相当むかしにね、ひどくヘンテコな人々がキンナス村に住んでいたんだってさ。平和に暮らしていたそうだよ。畑を耕したり、サウナに入ったり、穀物を育てたり、家を建てたり、魚漁りに行ったり、森で猟をしたりと、自分たちの仕事をして、ちゃんと自分たちで暮らしていたんだ。だけど、誰も、いつ何の仕事をすべきかを知らなかったんだってよ。
 
村からプリアジャ(※1)の町まで12ヴィルスタ(※2)でね。プリアジャの町でいつ何が行われているかを、彼らはいつも見に行っていたんだ。春には、プリアジャで男たちが薪を伐っているのを見た。そうしたら、キンナス村の男たちもそれをし始め、森がとどろくほど伐るんだよ。森はキンナス村のやつらでいっぱいだ。
ときに種まきの時分にも薪を伐るから、植え付けができない。それに気がつくと、一人を走らせるんだ、プリアジャで今何をしているかを見にね。すると種をまいたり、植え付けしたり、干し草を刈ったりしているのを見る。いつもこんなふうに物事を進めてるんだ。
いっぽうプリアジャの男たちは、たまにキンナス村のやつらをだましたりして、笑っているだ。だけど、キンナス村のやつらは怒ったりしない。すぐにまたプリアジャに走っていくのさ。
 
※1)プリアジャ:カレリア共和国プリャジンスキー地区にある行政中心地の町。ロシア語名はプリャージャ(Пряжа)。
※2ヴィルスタ:ロシアでかつて使われていた長さの単位。1ヴィルスタ約1,067 km。日本語ではベルスタという訳が多い。

単語

buite [副] まるで, ~のようだ, おそらく
ennevahnas [副] 昔, 以前
ammui [副] はるか昔
kinnas [名] ミトン, 手袋
imminkummaine [形] ひどく悪い, みすぼらしい, おかしな
elostoa [動] 住む, 気ままに暮らす
ruado [名] 仕事
kyndiä [動] 耕す
vil'l'u [名] 穀物
kazvattua [動] 育てる
salvua [動] 建てる, 建設する
kävelyttiä [動] 歩いていく, 散歩する
vaigu [接] ~の時, ~したら
kaksitostu [数] 12
virstu [名] 長さの単位(1 virstu =約1,067 km)
ainos [副] いつも
halgo [名] 薪, 丸太, 木材
ručkua [動] (音などを)出す, 放つ, 発する
kylläl [副] 十分な, 足りている
täydyö [動] 満ちる, いっぱいになる
kylvö [名] 種まき
toiči [副] ときどき, たまに
azettua [動] 置く, 据える, 植える
tuaste [副] ふたたび
tostavuo [動] 気がつく
juosta [動] 走る
kylviä [動] 種をまく
heinä [名] 干し草, 麦わら
niittiä [動] 刈る
smuttie [動] かき乱す, だます
suuttuo [動] 怒る
suututtua [動] 怒らせる
kodvaine [名] 少しの間
Kodvazen peräs すぐに
uvvessah [副] ふたたび

出典

所蔵:ロシア科学アカデミー カレリア学術研究所(KarRC RAS)

つぶやき

世界各地に存在する、おバカな住人たちが住む愚か村のお話をはじめるとき、イントロダクションのように語られた説話です。この文章は後年になってキレイに創りなおされたものでしょうか。

カレリアの愚か村は、キンナス村(Kindahan kylä)と呼ばれます。「キンナス」とは現在のカレリア語でミトン手袋の片方を指す言葉ですが、なぜこの名がつけられたのかははっきりとしておらず、サーミ語からの借用という説もあります。1400~1500年代にはイッニエミ村Itniemen kylä)と呼ばれていた記録があり、こちらはカレリアの自然神であるヒーシ (Hiisi)の住む場所を示す語 ヒーデンニエミ(Hiidenniemi)の変形ではないかという説があります。
ヒーシは昔話では妖怪的な存在で登場することが多く、これまでに紹介したお話ではひき臼のお話(JAUHINKIVI)に出てきます。人を引き込む湖(OTTAJA JÄRVI)に出てくるヴェテヒネも同じような存在です。

以前紹介した愚か者のお話(HUPAKOH STARINA)にはキンナス村の名前は出てきていませんが、同じ笑話になります。

今回はイントロダクションのみですが、次回以降でキンナス村の人々のオカシな小話を紹介していきます(更新に時間がかかるかもしれませんが)。

>> KARJALAN RAHVAHAN SUARNAT(カレリア民話)- もくじ

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