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私の天職

久しぶりに古い雑居ビルに入る職場のエレベーターのボタンを押す。

義理の母が数年ぶりにやってきて3週間滞在していて昨日帰国した。
今日から通常が戻る。1週間ぶりの仕事!
エレベーターを降りてすぐの扉の前に立ち、「すーっ」と息を息を吸い込み、笑顔をつくる。勢いよくドアを開け「おはようございます!」と1オクターブ声を上げて挨拶をする。この一声でプライベートから仕事モードへと切り替える。こんな年齢になっても、気合だけで乗り切れそうな20代のような声を出さなくてはいけないとはと、思う日がある。でもそうでもしないとこの仕事はやっていけない。

さぁ、仕事だ。嬉しい。大変な仕事であるが、家庭とは違う自分になれるこの職場を愛してやまない。私の城と言ってもいい。ここには私が必要なのだと密かに思っている。

カツカツと、ヒールの音をいつもより大きめに響かせて、スカートをひるがえして職務室に入る前に再び挨拶をする。先に来ている同僚が挨拶を返してくれる。パソコンを起動させながら、同僚とたわいない会話を始めると、一人の同僚ががパタンとノートパソコンを閉じて部屋を出ていく。
彼女は私のことが嫌いなのだ。今月末で辞めることになっている。理由は家庭の事情となっているが、本当は不満が限界に達したんだと思っている。明らかに嫌悪感が態度に出ているし、入ってきて数か月くらいで、私に彼女の言ってることが通じていないと伝えてきていた。それからも機嫌は悪く、辞めるといったちょっと前にも私に対して物言いがあって少し周りを巻き込んだやり取りがあったのだが、それが最終決断させたのだろう。

こんなに嫌われたことがあっただろうか。いつも、にらんだような目で見られている気がする。辞めてくれて正直ほっとしている。仕事に穴があくことでしわ寄せはあるが、これで私の城に平和が訪れると思えばなんてことはない。これまでも少ない人数でなんだってやり遂げてきた。一人や二人辞めたからってなんてことない。頑張れば何とかなる、何とかやっとのけることができる、これが私の強み。

はぁー、人の事なんて正直考えている暇はないな。上からの急な指示や、急な相談対応。話しかけられると、ついつい話過ぎて、やろうと思ったことができない。時間管理もう少し身につけたい。

おっと、そんなことを思っていたらもう定時の時間か。辞めてしまうあの人は速攻に片づけをして、帰ってく。まるでここを一秒でも早く逃げ出したいようだ。何がそんなに嫌なんだろうか。私も保育園のお迎えに行かなくては。

つらい事もあるけどれど、これまでの仕事に比べれば融通が効いてほぼ定時で帰れる。ありがたい。それに、何よりも通ってくれる方が元気になって旅立つときの嬉しさに変わる喜びはない。
なぜ、これまで辞めていった人たちはこの喜びを見出せないのか、わからない。私の天職。


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