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ちゃうちゃう【ショートショート】

カフェで彼女と待ち合わせをしているんだけれど
なかなか来ない。
ケータイが鳴る。
「ごめん、少し遅れる!」
まぁ、コーヒーを先に頼んで待とうかな。

なんか隣のおじさん
誰かと電話で話をしていて
カフェが静かなのもあり、丸聞こえ。

「ちゃうちゃう。
君さ、生まれてからずっと一生懸命やん?
なんで?
誰かに言われたんか、一生懸命頑張れって。
そうよなあ、テストの時も100点が1番やし、
試合でも勝つのが良いしな。
それまでの過程とかあんまり誉めてくれんやったもんな。
ゆっくりしろとかあんま言ってくれんしな。
仕事ばっかする、親見てきたしな。

うんうん。
しょうがないよな。
周りが一生懸命頑張っているように見えるし
泣きながら頑張る人とか近くで見てしまうと頑張ってしまうよな。
俺もそうやったで。
若い時、めちゃめちゃ頑張ってたわ。
お金欲しいし、有ったに越した事ないもんな。

ちょっと俺の話するな。
ある日な
後ろ振り返った瞬間にな
世界がグランっと歪んだんよ。
その時、仕事しててな、誰にも相談せんでな、一人で乗り越えようとしたんよ。
それから、フラフラフラフラ毎日してな、ある時、会社の上司にめまいがするから帰りたい言ったんよ。
そしたら、何て言われた思う?
「そんなの気のせいやろ」
って。
そんなことある?めまいて気のせいなん?
ないよなそんなこと。
うんうんそうやろそれ。
俺もそれはヒドイ思ったんよ。
でもな、その当時、俺めっちゃ一生懸命やったから、評価も気になるし、その人の言葉を鵜呑みにしたんよ。
プライドもあって休みもしなかったから、とうとう歩くのもままならなくなってさ。
病院であらゆる検査したんやけど
原因不明でな、自律神経が悪いとか言われて医者に首をかしげられたんよ。
気持ちの問題やないの?やて。
何言ってるんやって感じやろ。

それからな、
世界がふわふわふわふわふわふわ
世界がぐるぐるぐるぐるぐるぐる
してな
ある時着地したんよ。
ある所に着地したんよ。
見えたんよ、新しい景色が。

そこはな
俺が一生懸命過ぎて
めまいが起きるほど一生懸命過ぎて
着地する事忘れてた所やった。


休むこと忘れてたんよな俺。
そしてな
今まで一緒に一生懸命頑張ってきた人達が
社会から離れると
すっごく遠くに居て助けさえ求められないんよ。
俺を見て手を差し伸べてくれたのは
年老いた両親でしかなかったんよ。
情けないよな。

あんまし一生懸命なると
逆に悪いで。
俺はあの時気付けて、めまいも止まったし
ゆっくり過ごせてるけどさ。
仕事も他の仕事に就いて、ぼちぼちやってるで。


あれ、キツイわ。
あのまま気付かんと自殺してしまう気持ちも分からんことないわ。
世界が回ってるんやもん、起きてる間ずっと。
ぐるぐるぐるぐるして
頭の中もぐるぐるやで。
生きてる気せんかったで。

ところで
君はそんなことない?
大丈夫か?

うんうん。
周りが出来るから
私もやれるって?
周りと比べてしまうって?

ちゃうちゃう。

早く気付かんと
すぐ人生終わってしまうで。」

「ごめーん!待たせて!!どうしたのそんな深刻な顔して。」
彼女が来た。さて、おじさんの話の内容を先に彼女に聞かせたいな。
彼女なんて言うかな。
俺が感じた事と同じかな。
まずは、お店を変えないと、おじさんのことばかり気になってしまうな。

完結。

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