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[大学数学]複素関数をどうにかしたい人への入門から応用まで。(2022年版)

※ この記事は書名を著者さんの名前で記載します。その際に敬称を省かせていただきます。複素関数論の本を 複素 本と表記しています。また、わたしは挙げた本をほぼ所持していますが、それら全てを隅々まで学んでいません。

※ 複素関数論の表記は、複素解析、また単に関数論とされることがあります。


イントロ

複素関数を苦手としている方は多いのではないでしょうか。そのためか、理工学の多くの分野で「複素関数を回避して」説明されることがあります。しかしながら、「回避」ばかりしていると、深入りした時に突然に複素関数が現れ、あっけなくコケます。量子力学や流体力学、いたるところにトラップは潜んでいます。場の量子論では複素積分ができないと早々に挫折します。

この記事では下記の方を対象にしています。

  • 非 旧帝 レベル

  • 物理・工学・情報系向け

    • 少なくとも数学科ではない

  • 博士後期課程には進まない

    • プロにはならない

  • 学生、社会人を含む独学者

    • もちろん、講義を受けている方も

始める前に知っていたほうがいいこと

  • 1周目の目的は、この2点に絞る。

    • 留数を計算できること

    • 留数を応用した実積分ができること

  • 1周目は(複素関数での)初等関数を飛ばしてもいいです。

    • 初等関数とは、指数関数/三角関数/対数関数/双曲線関数 などです。

    • 複素本では、まず複素数や複素平面があり、つぎに複素関数での初等関数が解説されます。初等関数とはいえ、複素数の計算をテクニカルに使用するため、ここで挫折する人もいます。初等関数の結果は複素積分ができるようになってから使います。そのときに振り返るでも大丈夫です。

  • Greenの公式

    • ベクトル解析のグリーンの公式(Wikipedia)を使えるようになっていること。複素積分での"コーシーの積分定理"での証明にはいくつか方法があります。一番容易な手法はグリーンの公式の複素版を使う方法です。「複素版グリーンの公式」を認めて、"コーシーの積分定理"を証明・納得すると、このポイントでの挫折を防げます。

  • ジョルダンの不等式

    • 複素積分での或るパターンで、ジョルダンの不等式を使います。数学特有の「明らかに」(証明は簡単ではあるが、若干紙面を使うので省略する)としている本が多いです。WEBで多数記事があるので、そちらを使いましょう(Google検索「ジョルダンの不等式」)

入門編

数学科の人からすれば、数学書とはいえないかもしれない。
そんなことはDISREGARD(無視せよ)
1周目の目的を果たすためにできることから始めていきます。

岩波書店 表実 3部作

表実先生が、岩波書店から基本書を出されています。正確には、岩波書店が表実先生に執筆依頼したのでしょうけど。同一著者による3冊なので、相互の親和性が高いです。「複素関数」で進めて、「複素関数演習」で問題を解き、副読本として「キーポイント複素関数」を使います。この3冊は数学科の方からすれば邪道でしょう。たしかに「計算を優先する」構成になっています。だからこそ、「複素関数を計算で使う」ユーザにとっては使いやすいのです。

挙げた本は新装版です。2000年頃の過去版であっても内容は同じです。過去版をユーズドで入手するのでもいいでしょう。

矢野&石原 解析学概論

わたしの記事では頻出の本です。数学者である矢野&石原先生方が、「複素関数を計算で使う」ユーザ向けに書いた、物理数学の書籍です。表実 3部作よりも更に省スペース、最短で複素関数を仕上げられます。発展編(後述)に進む前提で、まずはこの本で早々に済ませて、発展編の書籍へ進むのもいいでしょう。

新装版 解析学概論,矢野健太郎 & 石原繁,裳華房,2020

複素関数入門,神保道夫

複素関数の入門書として、有名な本です。記述・構成が大学数学の作法であるため、数学科でも使われている場合があるかもしれません。複素関数論への正統な導入書です。この本に沿った講義が動画で見られます。

講義では本の内容を丁寧に説明しています。自習だけでは難しく講義動画をで独学する方に有益です。※ わたしは全部みていません。

応用・演習編

詳解 物理応用数学演習

※ 以後、「詳解」と略します。

おなじみですね。この「詳解」は、複素関数にもっともページが割かれています。しかも、線形代数の章での素っ気なさ、使うかどうか分からない高レベルな項目の羅列から一転、複素関数の章は丁寧かつ基礎から応用と網羅的です。複素関数の理解として必要なこと、一般・数学書籍で省かれる応用的内容、これらそれぞれの計算テクニック集として利用できます。複素関数の章を取り組むと、「詳解」はこのレベルを以上を対象にしていたと仄かに悟ります。

複素関数論,物理のための数学入門

※ 高額に表示されていますが、ユーズド市場では500~1000円で出回っています。

物理学者によって書かれた複素関数本。物理の複素関数といえばこの有馬&神部 がスタンダードでした。まさに後半は物理向けにページが割かれています。$${\varGamma}$$関数、$${\beta}$$関数、$${\zeta}$$関数、特殊関数、漸近解析を複素積分ありで体系的に解説されています。とはいえ、「詳解」に載っています。「詳解」でわからなかった時に参照するユースで使えます。もちろん、複素関数論をはじめての人でも使えます。ただ、2022年に近藤本(下記)が出てからは、役目を終えた?

物理数学講義,複素関数とその応用

2022年時点、最近出版された本です。構成は前半、後半に分かれており、後半が特長的な内容になっています。複素積分はできるようになった、「はてしてそれはなにに使える?」に答えています。それは「微分方程式への複素関数の応用」です。有馬&神部 とは異なる方向性での応用であり、この本は新たなスタンダードになるかもしれません。後半で展開される項目は、「詳解」にも載っていますが、そこでは体系的に整った体裁で、揃って書かれていません。また、解答はDLになっており、解答編を含めると総400ページの大著です。通常の書籍では解答が簡素なことがありますが、この本では解答を別冊にしたことで、解答も丁寧に書かれています。

今村勤,物理数学シリーズ

※ 高額に表示されていますが、ユーズド市場では妥当な価格1000~3000円で出回っています。

もともとの初版はおそらく1970年代に書かれたのではないでしょうか。今の基準ではアドバンスドです。学部の物理では使う段階まで到達しないかもしれません。わたしは持っていますが、ほとんどみることがありません。このシリーズの使い所は、「3,物理とフーリエ変換」「4,物理とグリーン関数」でだと思います。よくあるフーリエ変換本は「複素積分を使わずになんとかやってみる」で書かれることが多いですが、「3,物理とフーリエ変換」は複素積分有りきで記述されています。同じく「4,物理とグリーン関数」も複素積分有りき・フーリエ変換有りきで書かれており、偏微分方程式のグリーン関数法としては本格的な導入書です。
ところで、新装版がでていますけど、岩波さん、いくらなんでも高すぎます。いまの学生さんが可哀想です。ユーズドが適正価格で購入できる間に揃えるのをオススメします。

フーリエ解析

複素積分ができるようになったので、複素積分ありのフーリエ解析をやっておきましょう。

があります。「今村勤,物理数学シリーズ」が高度なため、いくぶんレベルを落としたコチラでも使えます。フーリエ級数、フーリエ変換を入門から初めて、複素積分有りきフーリエを経由して、グリーン関数も説明されます。これらは場の量子論で使えます。素朴なKlein-Gordon方程式のフーリエ変換をすると湯川ポテンシャルが導出できるってあれです。

フーリエ解析から緩やかにグリーン関数を導入している本は少なく、他には下記があります。

今井功,複素解析と流体力学

複素関数は流体力学で本領を発揮します。流体力学の泰斗である今井功先生によるこの本は、流体力学も学べてしまう複素関数本です。名著です。
複素解析の物理へのユースケースは、

  1.  量子力学、場の量子論での積分に使う(散乱、グリーン関数など)

  2. 流体力学での場そのものである

に大別できます。有馬&神部 本の神部先生も流体力学を専門とされています。神部勉&石井克哉「流体力学」(裳華房,1995)

今井先生は「渦無しの流れは正則関数のグラフである」とも書かれています。複素解析の概念を、流体力学で描写しているこの本は、複素解析の理解にも有用です。

数学科向け専門書

数学科向け専門書を列挙します。持っていてもいいかも、くらいです。

  • 現代の古典,複素解析,楠幸男,現代数学社,新装版,2020

    • 数学者による複素解析本では、この本がわたしはもっとも好きです。レベルは神保 と同じ程度です。楠幸男先生は神保よりも端的にスマートに示されるのが特長です。この本がメジャーになればいいのですが、大手出版社ではないんですよね。

    • 無限級数入門 (基礎数学シリーズ),楠幸男,朝倉書店,復刊版,2005

      • 同著者による無限級数本です。さまざまな級数を1冊でまとめてみた、という本です。級数は、実関数、複素関数、フーリエなど各分野で、それぞれ分かれて解説されます。この本では、おおよそ数学全般で出てくる級数を1冊で済んでしまう。しかも、楠幸男先生による"端的にスマートに"構成されています。オトクなんですが、あまり知られていません。

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