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[読書感想]中国・文学の夜明け、現代中国SFアンソロジー「折りたたみ北京」を読む。劉慈欣と郝景芳のSciFiとSoFi

[注意]この記事では、ネタバレをしないよう書いています。読んだときの喜怒哀楽、その中でも驚きを壊したくないのです。この記事を読んで、作品を手にしていただけると嬉しいです。

わたしはあまり小説を読みません。小説は、流し読みができず、文への集中をずっとしなければならず、苦手です。ノンフィクションや数学・物理などの専門書はよく読んでいます。これらは好きなトコロ、知りたいトコロだけを読めるのでお手軽です。

ところで、わたしが、特に読まない小説のジャンルが、ラノベ、ミステリー、SF、海外作品です。実は、この記事のタイトルである「中国・文学」は、数冊しか読んだことがありません。

少ないながらも、中国+SFとして、すでに金字塔ともなっているリウ慈欣ツーシン「三体」、そして、ハオ景芳ジンファン「1984年に生まれて」(翻訳:櫻庭ゆみ子,2020)の2冊からは、その読書体験を忘れることが出来ない、脳に刻み込まれる激しい衝撃を受けました。

先述のとおり、小説を読みません。そのため、普段の生活で、探しもしていません。書店では専門書コーナーにしかいきません。小説・文庫コーナーは、ごくまれにしか立ち入りません。

そんなわたしですが、あるときに、珍しく小説コーナーに行き、そして「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー」(ハヤカワ文庫SF,2019)に出会いました。

13作品、3エッセイが収録されています。

過去に読んだことがある作家さんがいるのであれば、この短編集を読んだほうがいいです。わたしはまだ、全作品を読んでいませんが、いくつか読んだだけで、これは「中国・文学の夜明け」だと分かります。SFを文学というかは、人それぞれですけど、この短編集の作品群には、テーマや文章、いずれも非常に高度なインテリジェンスを感じられます。

この記事では、先程のお二人を中心にを進めます。

リウ慈欣ツーシンさんについては説明するまでもないでしょう。「三体」シリーズの原作者、エンジニアをされつつ、SFを創作されていました。ハオ景芳ジンファンさんは、大学で(天体)物理学を学び、大学院では経済・経営学を修め、現在シンクタンクに勤務されており、その傍らで創作活動をされています。

この経歴は、作品にも影響を与えており、知っておくと作品への理解が深まります。

掲載順にまず、ハオ景芳ジンファンさんから。
彼女の作品は、単なるSFではありません。SFとは、英語ではSciFiサイファイと表記され、Science Fictionを意味します。ハオ景芳ジンファンさんのSFは、むしろ、Social Fictionなのです。社会派(純)文学と言えばいいのでしょうか。SciFiはテクノロジーあっての世界観が作られています。ハオ景芳ジンファンのSFは、社会システムを裏付けるためにテクノロジーが使われます。収録されている"見えない惑星"、"折りたたみ北京"、いずれもテクノロジーに重きを置かない、SocialなSF(SoFi)です。ハオ景芳ジンファンの長編小説「1984年に生まれて」でも、最後の数ページを読むまで、SF的要素がなく、SoFiな様相でほとんど全篇が語られていました。短編集の表題作である"折りたたみ北京"は、長編の一部を短編化した作品で、長編がいずれ書かれる予定とのことです。どのように「折りたたまれる」「北京」なのでしょうか。ヒントは現在の北京の社会情勢にあります。ぜひ驚いてほしいので、わたしは書きません。

リウ慈欣ツーシンさんは、「三体」で確固たるSF作家の地位を築きました。その作風は王道ともいえる、Science Fictionです。「円」は「三体」で描かれた始皇帝が出てくるエピソードを、1つの短編にした作品です。「三体」の同エピソードでは、フォン・ノイマンなどの歴史的偉人が登場し、読んでいると、脳が掻き回されるほどの衝撃を受ける、「三体」第一部でのもっとも読みどころのある部分です。ハオ景芳ジンファンさんのSoFiとは一転して、そこではテクノロジーあってのSciFi世界が描かれます。短編化されるにあたり、始皇帝時代に相応な設定に変更されています。しかし、その奇想天外さはやはりリウ慈欣ツーシンさん、圧巻です。
つぎの「神様の介護係」、わたしはこちらの方が楽しめました。SF的に考えて、神がいるならば、どのような存在か? この「神様の介護係」は1つの解として妥当性があります。神様を介護する? ぜひ、読んで納得していただきたいです。
1つだけネタバレを書きます。相対性理論を知らないと、「神様の介護係」で使われる仕掛けを理解できないかもしれません。クリストファー・ノーラン監督の映画「インターステラー」を見ていれば、その仕掛けを理解できると思います。「インターステラー」はノーベル物理学賞受賞されたキップ・ソーン博士(ブラックホールの専門家)が科学公証されています。この映画はもっとも分かりやすい相対性理論入門ともいえます。SFを読む際の基礎知識になるので、一度ご覧になるのをオススメします。

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