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道徳はどこで生まれる? あなたの道徳基準をモラル・ファンデーション理論で測る

悠 | はるか(hrk.)

イントロ 「わたし」はどこにある?

極論すれば、人間はよくわからない感情に振り回されて、無意識のうちに自分の行動を決めている。(略) たいていのことは、自分の意識とは離れた脳のどこかで密かに決められている。もちろん、「私」はそのことに気づいていない。

金井良太「脳に刻まれたモラルの起源」(岩波書店,2013)

最近の脳科学では、「私」という認識は、脳内ではいくつもの箇所が影響しあい発現されているとされています。「私」という個性は、脳の複合的な作用の結果なのです。このことは、「私」は、「私」という確固たる意志によって行動していないことを示唆しています。外部状況を身体で知覚した後に、脳の各部位が反応して行動し、その結果として、「私」という意志が生まれているのです。

「自由意志」は脳の機能としては存在するのかと、よく議論されていますよね。現代科学では「自由意志はない」となっています。有名な「リベットの実験」などの多くの実験で示されてしまいました。デカルトの「我思う故に我あり」は覆されてしまったのです。

この「私」の存在についての参考文献:

では、「私」が行っていると考えていたモラルは、どこから?

「私」の発生が「我思う故に我あり」でないならば、モラル(道徳)はどこから来るのでしょうか。

上に述べたとおり、脳が、意識より先に、勝手に反応・作用した後に、「私のモラルではこう判断した」と知覚されます。「私」複合的に生まれるのと同様に、モラルも脳のどこか複数から生まれているはずです。この本では、脳内でのモラルの発生を計測するため、まずモラルの定義・分類をしています。ここで用いられているのが、モラル・ファウンデーション理論です。

モラル・ファウンデーション理論とは、社会心理学が提案されている、5つの道徳感情によって倫理観を説明する試みなんです。この5つの道徳感情とは、

  • 傷つけないこと

  • 公平性

  • 内集団への忠誠

    • 自分が所属する集団を「内集団」といいます。

  • 権威への敬意

  • 神聖さ・純粋さ

で定義されています。これら5つの道徳感情が「根源的な倫理観の要素(Moral Foundation)」を構成しています。

この本には5つの道徳感情の強さを計測する、モラル・ファウンデーション・クエスチョネア(MFQ30)が掲載されています。自分の道徳基準を測れるのです。

やってみました。

MFQ30の結果(2022/07)

わたしは、「神聖さ・純粋さ」がダントツです。

「神聖さ・純粋さ」というのは、肉体的にも精神的にも純血を求める感情である。貞節や欲望を節制することを価値とする。神道的な「穢れ」を嫌う気持ちもこの感情の一種だろう。

金井良太「脳に刻まれたモラルの起源―人はなぜ善を求めるのか (岩波科学ライブラリー)」

確かに、わたしの行動の基準は、「神聖さ・純粋さ」重視であり、内集団(個)や権威への重要性は若干低めかもしれません。

モラル・ファウンデーション理論と脳科学が交差するところ

アニメ「PSYCHO-PASS(サイコパス)」(Wikipedia)をご存でしょうか。

この作品は、近未来のSFで、サイコパスの世界では、人の性格傾向や心理状態をすべて計測できます。性格傾向により職業が決定され、一方、心理状態は常にモニタリングされています。そこでは、完全な監視社会ができあがっています。中央管理システムにより、心理状態の変化が予測されており、場合によっては事が起こる前に「潜在犯」として、警察に拘束されたりもします。アニメは、この「潜在犯」を取り締まる警官を中心に描かれます。

「脳に刻まれたモラルの起源」では、それぞれの道徳基準に関連する脳の箇所が徐々に分かりつつあると紹介されています。また、今回、わたしはモラル・ファウンデーション理論を使って、道徳基準を計測しました。

技術が進歩すると、道徳基準とその状態を「計測」できてしまうのです。「PSYCHO-PASS」で出てくるようなコンパクトな計測器になるかはあやしいですが、なんらかの機器を身体につけることで道徳(心理状態)の揺れをモリタリングできるでしょう。あらかじめ、その人の道徳基準(道徳傾向)をテストする、もしくは計測するのも可能でしょう。

この「PSYCHO-PASS」の世界は実現可能なのかもしれないのです。

さいごに

もちろん、現在の「測れる倫理観」の状況は、やっと脳と道徳性の関連性が見えてきた状態です。まだまだ、心理状態の揺れをモリタリングできていません。正確に道徳を計測できるかもわかっていません。「脳に刻まれたモラルの起源」では、現状でわかっている、道徳と脳の関連性が述べられているいます。
わなによりもモラル・ファウンデーション理論に一番興味をもちました。やってみると、自分の行動基準を知ることができ、しかもあたっています。なかには、わたしの傾向とは逆に人もいるはずです。というかほとんど方がわたしとは異なります。わたしが重視しない内集団と権威に重きを置く人ような方もいるでしょう。そのような人とは価値観が合わないだろうし、議論の焦点がズレてしまうでしょう。でも、当理論があると知ること自体が、互いの道徳基準には違いがあると認識できます。そして、そこから、なんらかの解決策、妥協点を見いだせるかもしれません。モラル・ファウンデーション理論を知ることで、生きづらさへのヒントを得たように思えます。

みなさんもモラル・ファウンデーション・クエスチョネアをやってみてはいかがでしょうか。

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悠 | はるか(hrk.)
数学っぽい物理の修士と人工知能な情報の修士のヴァイオリンを愛する、元・大手SNSのエンジニア兼データサイエンティスト。SNSきらーい。年600冊読む。Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です(詳細はプロフに)。Zenn,はてなにも投稿してます。Mac/フランス語/ラテン語