道徳はどこで生まれる? あなたの道徳基準をモラル・ファンデーション理論で測る
イントロ 「わたし」はどこにある?
最近の脳科学では、「私」という認識は、脳内ではいくつもの箇所が影響しあい発現されているとされています。「私」という個性は、脳の複合的な作用の結果なのです。このことは、「私」は、「私」という確固たる意志によって行動していないことを示唆しています。外部状況を身体で知覚した後に、脳の各部位が反応して行動し、その結果として、「私」という意志が生まれているのです。
「自由意志」は脳の機能としては存在するのかと、よく議論されていますよね。現代科学では「自由意志はない」となっています。有名な「リベットの実験」などの多くの実験で示されてしまいました。デカルトの「我思う故に我あり」は覆されてしまったのです。
この「私」の存在についての参考文献:
「カンデル 神経科学 第1版(2014)」でも、序章にあたる第一章「脳と行動」(Eric R. Kandel,A. J. Hudspeth)にも、"感情も脳内に局在する特殊化したシステムに よって支配される"や"精神機能は,脳内の基本処理単位間の相互作用の 最終的な結果である"として説明されています。
「カンデル 神経科学 第1版(2014)」を買おうか迷っている方は、この第一章「脳と行動」が含まれるPart 1 概論(リンク先出版社紹介ページ)だけでも読まれるのをオススメします。図書館にもしかして所蔵されているかもしれません。
「前野隆司,脳はなぜ「心」を作ったのか「私」の謎を解く受動意識仮説,ちくま文庫,2010」の解説も参考になります。こちらは講演の動画です。
では、「私」が行っていると考えていたモラルは、どこから?
「私」の発生が「我思う故に我あり」でないならば、モラル(道徳)はどこから来るのでしょうか。
上に述べたとおり、脳が、意識より先に、勝手に反応・作用した後に、「私のモラルではこう判断した」と知覚されます。「私」複合的に生まれるのと同様に、モラルも脳のどこか複数から生まれているはずです。この本では、脳内でのモラルの発生を計測するため、まずモラルの定義・分類をしています。ここで用いられているのが、モラル・ファウンデーション理論です。
モラル・ファウンデーション理論とは、社会心理学が提案されている、5つの道徳感情によって倫理観を説明する試みなんです。この5つの道徳感情とは、
傷つけないこと
公平性
内集団への忠誠
自分が所属する集団を「内集団」といいます。
権威への敬意
神聖さ・純粋さ
で定義されています。これら5つの道徳感情が「根源的な倫理観の要素(Moral Foundation)」を構成しています。
この本には5つの道徳感情の強さを計測する、モラル・ファウンデーション・クエスチョネア(MFQ30)が掲載されています。自分の道徳基準を測れるのです。
やってみました。
わたしは、「神聖さ・純粋さ」がダントツです。
確かに、わたしの行動の基準は、「神聖さ・純粋さ」重視であり、内集団(個)や権威への重要性は若干低めかもしれません。
モラル・ファウンデーション理論と脳科学が交差するところ
アニメ「PSYCHO-PASS(サイコパス)」(Wikipedia)をご存でしょうか。
この作品は、近未来のSFで、サイコパスの世界では、人の性格傾向や心理状態をすべて計測できます。性格傾向により職業が決定され、一方、心理状態は常にモニタリングされています。そこでは、完全な監視社会ができあがっています。中央管理システムにより、心理状態の変化が予測されており、場合によっては事が起こる前に「潜在犯」として、警察に拘束されたりもします。アニメは、この「潜在犯」を取り締まる警官を中心に描かれます。
「脳に刻まれたモラルの起源」では、それぞれの道徳基準に関連する脳の箇所が徐々に分かりつつあると紹介されています。また、今回、わたしはモラル・ファウンデーション理論を使って、道徳基準を計測しました。
技術が進歩すると、道徳基準とその状態を「計測」できてしまうのです。「PSYCHO-PASS」で出てくるようなコンパクトな計測器になるかはあやしいですが、なんらかの機器を身体につけることで道徳(心理状態)の揺れをモリタリングできるでしょう。あらかじめ、その人の道徳基準(道徳傾向)をテストする、もしくは計測するのも可能でしょう。
この「PSYCHO-PASS」の世界は実現可能なのかもしれないのです。
さいごに
もちろん、現在の「測れる倫理観」の状況は、やっと脳と道徳性の関連性が見えてきた状態です。まだまだ、心理状態の揺れをモリタリングできていません。正確に道徳を計測できるかもわかっていません。「脳に刻まれたモラルの起源」では、現状でわかっている、道徳と脳の関連性が述べられているいます。
わなによりもモラル・ファウンデーション理論に一番興味をもちました。やってみると、自分の行動基準を知ることができ、しかもあたっています。なかには、わたしの傾向とは逆に人もいるはずです。というかほとんど方がわたしとは異なります。わたしが重視しない内集団と権威に重きを置く人ような方もいるでしょう。そのような人とは価値観が合わないだろうし、議論の焦点がズレてしまうでしょう。でも、当理論があると知ること自体が、互いの道徳基準には違いがあると認識できます。そして、そこから、なんらかの解決策、妥協点を見いだせるかもしれません。モラル・ファウンデーション理論を知ることで、生きづらさへのヒントを得たように思えます。
みなさんもモラル・ファウンデーション・クエスチョネアをやってみてはいかがでしょうか。
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