[線形代数]ジョルダン標準形は最終目的ではない。入門から挫折なしで特異値分解までいく方法
イントロ
※今回の記事で挙げる本は、アマゾンのレビュアー"雑学家"さんと被ぶっている本が多くあります。わたしは"雑学家"さんではありません。
皆さん、難しい本を挙げすぎです。
あるいは、「アマゾンで検索して上位の商品を購入する」アマゾン買いで、本を選びすぎです。ほんとにアマゾン害です。おかげで、線形代数を教えるときに困ったことが起こりました。
この記事は、下記の方を対象にしています。
非 旧帝 レベル
物理・工学・情報系向け
少なくとも数学科ではない
博士後期課程には進まない
プロにはならない
学生、社会人を含む独学者
もちろん、講義を受けている方も
線形代数を学ぶ際に、よくある選択では
あるいは、大学で指定の教科書
わたしは入門線形代数,三宅敏恒,培風館,1991 でした。記憶に残っていませんし、すでに手元にありません。1年生のときはヴァイオリン練習ばかりして、勉強していませんでした。なんとか単位は取れましたが、理解していたとは言えない状況でした。2~3年次に独学でやり直しました。この記事はそのときの振り返りです。
でしょうか。
上記2冊、斎藤「線型代数入門」と川久保「線形代数学」 を初学者・独学者が
買ってはいけません。
先日、以下のような文章に出会いました。
※原啓介さんは、「線形性・固有値・テンソル <線形代数>応用への最短コース」(後述)も書かれています。
これら斎藤「線型代数入門」と川久保「線形代数学」は、この「躾」なる言葉に適合する代表な本なのです。
※ 「いやいや何をおっしゃる!?」という方はThe Matrix Cookbook(PDFが開き/DLされ ます)をご覧ください。物理・工学・人工知能で必要となる線形代数の公式集です。我々の線形代数のユースはこちらなのです。
線形代数の講義で思い出深いシーンがあります。
大学の新入生は、高校での授業の雰囲気が抜けきっておらず、ともかく先生の板書をノートに写しますよね。
講義中にせっせとノートに書いていると、突然、当時の担当されていた教員が
「ノートを取らなくていいから、説明を聞いて、計算を見てほしい」
と言ったのです。
そう、線形代数は導入時の内容は
オペレーション(作業)なんです。
まさに、後輩がメモばかり取っていて、先輩の動作を見ていないシチュエーションだったのです。社会人の方であれば、わかる方もいると思います。
※ 一方で口頭説明だけの先輩もいます。配慮ある先輩ならば、予め手順を書面などで手渡して説明するはずです。その方が両者にとってコンセンサスが取れやすく、事項の漏れが少なくなりますよね。
指導者がいない初学者・独学者、もしくは数学が得意ではないのであれば、
まずは、数学の修養として「線形代数」は保留にして、
オペレーション(作業)を通して、全体像を知る
を優先したほうがいいです。
1冊目は
これを使います。
キーポイント線形代数(理工系数学のキーポイント2),薩摩順吉,四ツ谷晶二,岩波書店,1992
所要期間 3~7日間
線形代数初歩のテクニック集です。
プロでも使っています(後述)
この本で、ジョルダン標準形までを「体験」してください。
いま鼻で笑ったでしょう。
薩摩先生をご存じない?
非線形物理学の大御所です。(故人です。)
非線形物理学といえばソリトンですね。ソリトンはいまでは流行っておらず、書籍はあまりないですが、戸田先生の著書があります。
何が言いたいかというと、非線形物理学は数学レベルがかなり高い物理学なのです。
道具を作る技師と登山家、あなたはどちらの話を聞くでしょうか?
あなたのセンスが問われます。
斎藤「線型代数入門」と川久保「線形代数学」で勉強するとジョルダン標準形に到達しない人が続出するんです。教える側も「そこまで行けなくてごめん」となりがちなんですが。
「キーポイント線形代数」で一周しましたら、演習で手を動かしていきます。
線形代数演習(新装版 理工系の数学入門コース 演習),浅野功義,大関清太,岩波書店,2020
試し読みはコチラ
所要期間 7日間
優しすぎる内容かもしれませんが、1周目で知っておきたい・習熟しておきたいことは載っています。この本は
の姉妹本で、新装版になった際に演習書の「線形代数演習」も出版されました。本当は、演習書 1冊目であれば、
「線形代数演習」よりも広範囲を扱っており、数十年前の線形代数の易しめ演習書です。
がいいのですが、こちらは手に入らないかもしれません。
「線形代数演習」はすぐ終わります。以後、使いません。終わったら売却してもいいでしょう。メリカリで売ることを前提に丁寧に使用し、できるだけ短い期間で終わらせましょう。
さて、線形代数の
ここからが始まりです。
「キーポイント線形代数」を1周した人は把握できたと思いますが、
線形代数でやりたいことは、固有値問題を解くことなんです。
もう一歩進んで、本来的な線形代数の用途をいえば、
「固有値を使って、スペクトル分解 (を一般化した特異値分解)
なる手法で問題を解きやすくする」
ことです。そう、線形代数を修了とするには、この特異値分解まで行かなければなりません。
そこで、このコンセプトの本で学びます。
新装版改訂増補 線型代数と固有値問題,スペクトル分解を中心に,笠原晧司,現代数学社,2019
この本は改訂が何度かされており、前版でも構いません。
もしくは
線形代数講義(ライブラリ数理・情報系の数学講義),金子晃,サイエンス社,2004
あるレビュアーさんが「糞難しい偏微分の本...東大から、女子大に変わって、何かあったんでしょうか?」と書いています。
大学数学を金子晃先生シリーズで学ぶのはおすすめです。
このことついては別記事で書きたいと思います。
志賀先生の数学30講シリーズ(リンク先:朝倉書店該当HP)のこの本は、関数解析寄りなんです。「黒田成俊,量子物理の数理,岩波書店,2017」へとつながる内容です。数学科の方、もしくは笠原「線型代数と固有値問題」か金子「線形代数講義」を終わられた方が読むとスムーズかもしれません。
です。さらに、前述した
線形性・固有値・テンソル <線形代数>応用への最短コース,原啓介,講談社,2019
物理・工学で線形代数を始めようとする方が、原啓介さんの3部作を見ておくと、その後の数理人生がラクになるかもしれません。
もあります。こちらはとてもコンパクトなので、読みやすいです。
拡張性を検討すると、上記の笠原「線型代数と固有値問題」か金子「線形代数講義」 が無難でしょう。
ちなみに、ブランド志向ではなく、コンテンツ重視の方、つまり、できるようになればいいという方は、
を絶賛オススメします。物理、統計学で必要となる内容を網羅しています。
問題集を揃えます。
上記、金子「線形代数講義」を選択された方は
もアリです。
物理の学生の方は
と思われるかもしれません。
この本をお持ちの方はわかると思いますが、この本は演習書という位置づけです。しかし、実際のところまとめ集に近いです。とくに、線形代数の章は必要なことしか載っていません。具体的な計算として載っている問題はかなりトリッキーです。その分、概念の理解は進みますが、凡人にとって実用的であるかは怪しいです。後日、記事を書きたいと考えています。
さいごに
今回の記事は、「キーポイント(amazon.jpでの検索)という良書があるのにレビュー記事を見たことがない」をモチベーションに書きました。わたしの院生時代の担当教授は、ある数理物理学本のベストセラーを書いています。その担当教授が言うには、「キーポイント線形代数」はプロでも使っている、とのことです。使っておいて、書籍等での参考文献リストには、
線型代数入門,齋藤正彦,東京大学出版会,1966
と書いておく。これが世の中のルールなのです。
挙げた本のいくつかは、2022年という現在からすれば20~30年前の本で古く感じるかもしれません。でも、いまなお、有用でわかりやすい本は多くあります。安直なアマゾン害をやめて、挙げた本で線形代数を学び、そして更なる分野で活用してだければと思います。
※ 元の記事が長くなりすぎましたので、記事を分割して、後半部を新たに記事にしました。
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