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[線形代数]ジョルダン標準形は最終目的ではない。入門から挫折なしで特異値分解までいく方法

イントロ

※今回の記事で挙げる本は、アマゾンのレビュアー"雑学家"さんと被ぶっている本が多くあります。わたしは"雑学家"さんではありません。

皆さん、難しい本を挙げすぎです。

あるいは、「アマゾンで検索して上位の商品を購入する」アマゾン買いで、本を選びすぎです。ほんとにアマゾン害です。おかげで、線形代数を教えるときに困ったことが起こりました。

この記事は、下記の方を対象にしています。

  • 非 旧帝 レベル

  • 物理・工学・情報系向け

    • 少なくとも数学科ではない

  • 博士後期課程には進まない

    • プロにはならない

  • 学生、社会人を含む独学者

    • もちろん、講義を受けている方も

線形代数を学ぶ際に、よくある選択では

でしょうか。

上記2冊、斎藤「線型代数入門」と川久保「線形代数学」 を初学者・独学者が

買ってはいけません。


先日、以下のような文章に出会いました。

そして,もう1つの問題は, 「集合と位相」の学習に“dicipline”の意味があることである. 「数学をする」とか「数学がわかる」とはどういうことかを学ぶ最初の訓練コースとして, 「集合と位相」 が用いられていて, 専門家になるにはこのような議論の技術と作法を一種の 「躾」 として,ほとんど身体的なレベルで叩き込む必要がある. しかし,「集合と位相」 を学ぶ人の多くは、そもそも数学者になることを目指してはいない。

集合・位相・圏 数学の言葉への最短コース,原啓介,KS理工学専門書,講談社,2017

※原啓介さんは、「線形性・固有値・テンソル <線形代数>応用への最短コース」(後述)も書かれています。

これら斎藤「線型代数入門」と川久保「線形代数学」は、この「躾」なる言葉に適合する代表な本なのです。

※ 「いやいや何をおっしゃる!?」という方はThe Matrix Cookbook(PDFが開き/DLされ ます)をご覧ください。物理・工学・人工知能で必要となる線形代数の公式集です。我々の線形代数のユースはこちらなのです。

線形代数の講義で思い出深いシーンがあります。

大学の新入生は、高校での授業の雰囲気が抜けきっておらず、ともかく先生の板書をノートに写しますよね。

講義中にせっせとノートに書いていると、突然、当時の担当されていた教員が

「ノートを取らなくていいから、説明を聞いて、計算を見てほしい」

と言ったのです。

そう、線形代数は導入時の内容は

オペレーション(作業)なんです。

まさに、後輩がメモばかり取っていて、先輩の動作を見ていないシチュエーションだったのです。社会人の方であれば、わかる方もいると思います。

※ 一方で口頭説明だけの先輩もいます。配慮ある先輩ならば、予め手順を書面などで手渡して説明するはずです。その方が両者にとってコンセンサスが取れやすく、事項の漏れが少なくなりますよね。

指導者がいない初学者・独学者、もしくは数学が得意ではないのであれば、

まずは、数学の修養として「線形代数」は保留にして、
オペレーション(作業)を通して、全体像を知る

を優先したほうがいいです。

1冊目は

これを使います。

この本で、ジョルダン標準形までを「体験」してください。

いま鼻で笑ったでしょう。

薩摩先生をご存じない?
非線形物理学の大御所です。(故人です。)

非線形物理学といえばソリトンですね。ソリトンはいまでは流行っておらず、書籍はあまりないですが、戸田先生の著書があります。

何が言いたいかというと、非線形物理学は数学レベルがかなり高い物理学なのです。

道具を作る技師と登山家、あなたはどちらの話を聞くでしょうか?

あなたのセンスが問われます。

斎藤「線型代数入門」と川久保「線形代数学」で勉強するとジョルダン標準形に到達しない人が続出するんです。教える側も「そこまで行けなくてごめん」となりがちなんですが。

キーポイント線形代数」で一周しましたら、演習で手を動かしていきます。

優しすぎる内容かもしれませんが、1周目で知っておきたい・習熟しておきたいことは載っています。この本は

の姉妹本で、新装版になった際に演習書の「線形代数演習」も出版されました。本当は、演習書 1冊目であれば、

がいいのですが、こちらは手に入らないかもしれません。

線形代数演習」はすぐ終わります。以後、使いません。終わったら売却してもいいでしょう。メリカリで売ることを前提に丁寧に使用し、できるだけ短い期間で終わらせましょう。

さて、線形代数の

ここからが始まりです。


キーポイント線形代数」を1周した人は把握できたと思いますが、

線形代数でやりたいことは、固有値問題を解くことなんです。
もう一歩進んで、本来的な線形代数の用途をいえば、

「固有値を使って、スペクトル分解  (を一般化した特異値分解)
なる手法で問題を解きやすくする」

ことです。そう、線形代数を修了とするには、この特異値分解まで行かなければなりません。

そこで、このコンセプトの本で学びます。

もしくは

です。さらに、前述した

もあります。こちらはとてもコンパクトなので、読みやすいです。

拡張性を検討すると、上記の笠原「線型代数と固有値問題」か金子「線形代数講義」 が無難でしょう。

ちなみに、ブランド志向ではなく、コンテンツ重視の方、つまり、できるようになればいいという方は、

を絶賛オススメします。物理、統計学で必要となる内容を網羅しています。

問題集を揃えます。

  • 明解演習 線形代数,小寺平治,共立出版,1982

    • 小寺先生の明解演習シリーズはよくできているんですよね。各所で紹介されていますよね。非数学の人が"演習とまとめ"として持っておくのに十二分な内容があります。わたしは、明解演習シリーズの「微分積分」「数理統計」にも随分お世話になりました。一部で独特な記法が使われていますが、内容の良さからすれば、些細なことです。

上記、金子「線形代数講義」を選択された方は

もアリです。

物理の学生の方は

と思われるかもしれません。
この本をお持ちの方はわかると思いますが、この本は演習書という位置づけです。しかし、実際のところまとめ集に近いです。とくに、線形代数の章は必要なことしか載っていません。具体的な計算として載っている問題はかなりトリッキーです。その分、概念の理解は進みますが、凡人にとって実用的であるかは怪しいです。後日、記事を書きたいと考えています。

さいごに

今回の記事は、「キーポイント(amazon.jpでの検索)という良書があるのにレビュー記事を見たことがない」をモチベーションに書きました。わたしの院生時代の担当教授は、ある数理物理学本のベストセラーを書いています。その担当教授が言うには、「キーポイント線形代数」はプロでも使っている、とのことです。使っておいて、書籍等での参考文献リストには、
線型代数入門,齋藤正彦,東京大学出版会,1966
と書いておく。これが世の中のルールなのです。

挙げた本のいくつかは、2022年という現在からすれば20~30年前の本で古く感じるかもしれません。でも、いまなお、有用でわかりやすい本は多くあります。安直なアマゾン害をやめて、挙げた本で線形代数を学び、そして更なる分野で活用してだければと思います。

※ 元の記事が長くなりすぎましたので、記事を分割して、後半部を新たに記事にしました。


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