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[2022年版] (物理・工学・情報)ジョルダン標準形は最終目的ではない。線形代数、入門から挫折なしで特異値分解までいく方法

イントロ

※今回の記事で挙げる本は、アマゾンのレビュアー"雑学家"さんと被ぶっている本が多くあります。わたしは"雑学家"さんではありません。

皆さん、難しい本を挙げすぎです。

あるいは、アマゾンで検索して上位を購入するアマゾン買いで本を選びすぎです。このおかげで、線形代数を教えるときに、以前に困ったことがありました。ほんとにアマゾン害です。

この記事は、下記の方を対象にしています。

  • 非 旧帝 レベル

  • 物理・工学・情報系向け

    • 少なくとも数学科ではない

  • 博士後期課程には進まない

    • プロにはならない

  • 学生、社会人を含む独学者

    • もちろん、講義を受けている方も

線形代数を学ぶ際に、よくある選択では

でしょうか。

上記2冊、斎藤「線型代数入門」と川久保「線形代数学」 を初学者・独学者を

買ってはいけません。


先日、以下のような文章に出会いました。

そして,もう1つの問題は, 「集合と位相」の学習に“dicipline”の意味があることである. 「数学をする」とか「数学がわかる」とはどういうことかを学ぶ最初の訓練コースとして, 「集合と位相」 が用いられていて, 専門家になるにはこのような議論の技術と作法を一種の 「躾」 として,ほとんど身体的なレベルで叩き込む必要がある. しかし,「集合と位相」 を学ぶ人の多くは、そもそも数学者になることを目指してはいない。

集合・位相・圏 数学の言葉への最短コース,原啓介,KS理工学専門書,講談社,2017

※原啓介さんは、「線形性・固有値・テンソル <線形代数>応用への最短コース」(後述)も書かれています。

これら斎藤「線型代数入門」と川久保「線形代数学」は、この「躾」なる言葉に適合する代表な本なのです。

※ 「いやいや何をおっしゃる!?」という方はThe Matrix Cookbook(PDFが開き/DLされ ます)をご覧ください。物理・工学・人工知能で必要となる線形代数の公式集です。我々の線形代数のユースはこちらなのです。

線形代数の講義で思い出深いシーンがあります。

大学の新入生は、高校での授業の雰囲気が抜けきっておらず、ともかく先生の板書をノートに写しますよね。

講義中にせっせとノートに書いていると、突然、当時の担当されていた教員が

「ノートを取らなくていいから、説明を聞いて、計算を見てほしい」

と言ったのです。

そう、線形代数は導入時の内容は

オペレーション(作業)なんです。

まさに、後輩がメモばかり取っていて、先輩の動作を見ていないシチュエーションだったのです。社会人の方であれば、わかる方もいると思います。

※ 一方で口頭説明だけの先輩もいます。配慮ある先輩ならば、予め手順を書面などで手渡して説明するはずです。その方が両者にとってコンセンサスが取れやすく、事項の漏れが少なくなりますよね。

指導者がいない初学者・独学者、もしくは数学が得意ではないのであれば、

まずは、数学の修養として「線形代数」は保留にして、
オペレーション(作業)を通して、全体像を知る

を優先したほうがいいです。

1冊目は

これを使います。

この本で、ジョルダン標準形までを「体験」してください。

いま鼻で笑ったでしょう。

薩摩先生をご存じない?
非線形物理学の大御所です。(故人です。)

非線形物理学といえばソリトンですね。ソリトンはいまでは流行っておらず、書籍はあまりないですが、戸田先生の著書があります。

何が言いたいかというと、非線形物理学は数学レベルがかなり高い物理学なのです。

道具を作る技師と登山家、あなたはどちらの話を聞くでしょうか?

あなたのセンスが問われます。

斎藤「線型代数入門」と川久保「線形代数学」で勉強するとジョルダン標準形に到達しない人が続出するんです。教える側も「そこまで行けなくてごめん」となりがちなんですが。

キーポイント線形代数」で一周しましたら、演習で手を動かしていきます。

優しすぎる内容かもしれませんが、1周目で知っておきたい・習熟しておきたいことは載っています。この本は

の姉妹本で、新装版になった際に演習書の「線形代数演習」も出版されました。本当は、演習書 1冊目であれば、

がいいのですが、こちらは手に入らないかもしれません。

線形代数演習」はすぐ終わります。以後、使いません。終わったら売却してもいいでしょう。メリカリで売ることを前提に丁寧に使用し、できるだけ短い期間で終わらせましょう。

さて、線形代数の

ここからが始まりです。


キーポイント線形代数」を1周した人は把握できたと思いますが、

線形代数でやりたいことは、固有値問題を解くことなんです。
もう一歩進んで、本来的な線形代数の用途をいえば、

「固有値を使って、スペクトル分解  (を一般化した特異値分解)
なる手法で問題を解きやすくする」

ことです。そう、線形代数を修了とするには、この特異値分解まで行かなければなりません。

そこで、このコンセプトの本で学びます。

もしくは

です。さらに、前述した

もあります。こちらはとてもコンパクトなので、読みやすいです。

拡張性を検討すると、上記の笠原「線型代数と固有値問題」か金子「線形代数講義」 が無難でしょう。

ちなみに、ブランド志向ではなく、コンテンツ重視の方、つまり、できるようになればいいという方は、

を絶賛オススメします。物理、統計学で必要となる内容を網羅しています。

問題集を揃えます。

  • 明解演習 線形代数,小寺平治,共立出版,1982

    • 小寺先生の明解演習シリーズはよくできているんですよね。各所で紹介されていますよね。非数学の人が"演習とまとめ"として持っておくのに十二分な内容があります。わたしは、明解演習シリーズの「微分積分」「数理統計」にも随分お世話になりました。一部で独特な記法が使われていますが、内容の良さからすれば、些細なことです。

上記、金子「線形代数講義」を選択された方は

もアリです。

物理の学生の方は

と思われるかもしれません。
この本をお持ちの方はわかると思いますが、この本は演習書という位置づけです。しかし、実際のところまとめ集に近いです。とくに、線形代数の章は必要なことしか載っていません。具体的な計算として載っている問題はかなりトリッキーです。その分、概念の理解は進みますが、凡人にとって実用的であるかは怪しいです。後日、記事を書きたいと考えています。

さいごに

今回の記事は、「キーポイント(amazon.jpでの検索)という良書があるのにレビュー記事を見たことがない」をモチベーションに書きました。わたしの院生時代の担当教授は、ある数理物理学本のベストセラーを書いています。その担当教授が言うには、「キーポイント線形代数」はプロでも使っている、とのことです。使っておいて、書籍等での参考文献リストには、
線型代数入門,齋藤正彦,東京大学出版会,1966
と書いておく。これが世の中のルールなのです。

挙げた本のいくつかは、2022年という現在からすれば20~30年前の本で古く感じるかもしれません。でも、いまなお、有用でわかりやすい本は多くあります。安直なアマゾン害をやめて、挙げた本で線形代数を学び、そして更なる分野で活用してだければと思います。

※ 元の記事が長くなりすぎましたので、記事を分割して、後半部を新たに記事にしました。


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