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【イベントレポ】それぞれの本屋が語る、「本屋とは何か」【新米本屋のセルフ研修②】

1月16日(日)、Zoomにて、新米本屋によるセルフ研修を開催しました。
名付けて、「本屋による本屋のためのABD」。

きっかけは、本屋になりたての私が、矢部潤子さんの書籍『本を売る技術』を読んで、本当にみんなこんな感じで本屋をやってるのかな?と思ったこと。
いろんな人に話を聞きたいと思ったので、「本屋」を広義でとらえ、本に関わる人、本が好きな人を対象として読書会を開催することにしました。

今回は、その日を振り返りつつレポートしていきます。


参加者

今回参加してくれたのは、店舗も本屋暦も立場も異なるいろんな「本屋」さん。
書店員だけでも、歴3か月の私から10年くらいの方など幅広く、自営業やチェーン店の店長など立場もいろいろでした。
加えて、図書館職員の方、一般のサラリーマンで、本屋に興味のある方などにもご参加いただき、7名で実施となりました。

やったこと

ABDをご存知ない方のために、簡単にやったことの説明を。
ABD、アクティブ・ブック・ダイアローグは、一つの本を分担して読んで要約し、共有して、最後に本について対話するというプロセスの読書会です。
今回は一人20ページ程度になるように分け、第5講以外はほぼ全部読み切ることができました。

最初にやったのは、本を読む&要約するパート(コ・サマライズ)を35分。
これが、ABDの最初のパートにして一番大変なところです。
何しろ、読むだけでなくまとめるという作業は、慣れていないとどうしても時間が足りないもの。今回は初めての方が多かったので少し延長し、トータル40分で行いました。

それが終わると、書いた内容を第1講から順番に発表するパート、リレー・プレゼンです。今回は一人2分という短時間で発表。

こんな感じで1ページに内容をまとめ、これを元に発表します。

最後は、本の内容を元にダイアローグを行うという進行でした。
今回は大きな対話テーマは設けず、浮かんできた疑問や感想から皆さんに話してもらいました。

すると、出てくる出てくる、本屋の実情の数々。現役本屋が多かったという参加者状況も重なり、本屋の内部事情的なことを含めて情報交換が盛り上がりました。

ダイアローグにて

ダイアローグで出てきた内容を少しご紹介します。

・本の本籍(置き場所)について
通常、書棚はジャンルごとに並んでいますが、異なるジャンルの本を同じ棚に置くメリットもあります。
例えば、村上春樹のエッセイを彼の小説が並んでいる棚にいっしょに並べる。すると、エッセイを探している人には探しにくいが、特に何かを探していなかった人が興味を持つきっかけになります。だから、書棚をどんな人に向けて作るかは重要になります。

・動かないラインナップを、どう動かすか
書店の本は、動かない(売れない)時に移動したり、返品したりすることができるのですが、それをみんなどう判断して、どう動かしているか?という話。
面出しにしていた本を棚に挿したら、背表紙しか見えてないのに売れたという話も。
お客さんに、なんでその本買いたくなったか聞きたいね、と盛り上がりました。

・お掃除について
図書館職員の方にとっては、本の埃を払ったり、時に拭いたりもするなど、お掃除をこまめにする書店員の行動が新鮮なようでした。
図書館には休肝日があるので、その日にいっぺんにお掃除できますが、書店は定休日がほぼないところも多い。そのため、こまめに掃除することになるのかもしれません。
書店員は掃除しながら、傷んでいる本や動いている棚の様子をチェックしていて、それで本の動向をキャッチすることもあるそうです。

本屋の正解はある?

このイベントの開催のきっかけは、私が本を読んで「みんなこんなふうにやってるのかな?」と思ったことだと書きました。しかし、このイベントには個人的サブテーマがありました。

それは、「本屋とは何か?」について考えるヒントをもらうこと。

書店員、および本に関わるいろんな方が集まって感想や疑問を話すことは、本屋の違いや共通点が見えてきて、それを元に、自分なりの本屋を定義できるのではと思ったのです。

始める前はなんとなく共通点が見えるといいなぁ、くらいに考えていました。
しかし、現実はそんなに甘くはなかったのです・・・

イベントをやってみてとにかく実感したのは、本屋の正解は人によって違うということ。

本屋の仕事の詳細は、人によるだけではなく、店舗のスタイル、土地や環境、お客さんによって、共通することよりも違うことの方が多いのでした。加えて今回は図書館の方にも話を聞けたため、異業種間の違いもわかりました。

以下に、違いとして話題になった点を挙げてみます。

  • スピード観の違い(本屋同士、本屋と図書館)
    売上のスピード感は、店舗によって異なる。1~2日で補充必須の店舗もあれば、土日に一気に動くため一週間単位が目安として適切なところも。
    いつも同じ書棚よりも、変化があった方が望ましいのはわかるが、変えすぎちゃうのも困りもの。毎日入る新刊に応じて入れ替えると、誰にも見られてないうちに下げてしまう本もある。
    また書棚の変化について、書店と図書館との違いでいえば、図書館は個人の裁量で本を抜く(除籍する)ことはできないが、書店は各棚の担当者の裁量によるところが大きい。

  • 入荷方法の違い
    新刊書店は仕組み上、取次を介して希望していない本も入ってくるので、入荷時に売れるかどうか見極めが必須。一方、小規模事業で取次を介さなければ、専門文庫としてテーマを絞って入荷できる。図書館入荷に当たって選書会議を開き、担当者が入れる本を決めている。

  • 褒められるときの違い
    「書店は売上が上がったら褒められるけど、図書館はどうやったら褒められる?」という疑問も。図書館員の方によれば、具体的な褒められポイントは難しいものの、本の回転率が高いことは目安になるそう。個人的には、自分が並べた特集コーナーから本が借りられたときは「よし!」と思うとか。

話を聞けば聞くほど、書店だけでなく図書館もまとめて「本屋」と一括りにするにはあまりに違いが大きいと混乱する私。

しかし、共通点もありました。

それは、本を誰かに仕掛けて、手に取ってもらう機会を演出すること。
書店は売上、図書館は回転率と数値は異なりますが、この点は業界としても、個人としても共通している点のようです。

本屋とは何か?

参加者の方からいただいた感想は、こんな感じでした。

・内容をまとめるの大変だったけど、学びになったし楽しかった。
・モチベーションが上がった!
・自分の仕事について、話しながらだと改めて気付くことが多かった。
・他の店舗や図書館など、お互いの仕事は意外と知らなかったことに気づいた。

私が混乱した「本屋の違い」についての話は、他の参加者の方にとっても新鮮だったようです。同じ組織内や、本屋同士となると仕事について話すことはあっても、異なる組織や業界の人でお互いの仕事について話を聞く機会は、意外とないのだなと思います。

そして、最後に私が疑問に思っていた「本屋とは何か?」を参加者の方にも聞いてみました。

ある方は「お客様と本のつながりを生む場所」と答えました。
入荷した本を手に取ると、あの人が好きそうだなとか、この人におすすめしたいなとか、思い浮かぶ人がたくさんいるのだそうです。そして実際に来店時におすすめすると、とても喜んでくれる。それが、楽しいのだといいます。

またある方は、「本にかかわる人はみんな本屋でいい、と改めて思った」とのこと。書店員だけでなく、図書館職員も、SNSで本の情報を拡散する人も、みんな本屋でいいと。
おそらく、根っこのところにある「手に取る機会を演出する」点は、みんな同じだからこそ、その答えにつながったのかもしれません。

またまたある方は、人に仕事のことを伝えるときは「自分の仕事は新刊書店」だと説明しているとのこと。
本屋の中にもいろいろ違いがあるからこそ、その中での自分の役割は新刊をお客様に伝える、届けることと位置付ける。
独立系書店さんが、お店にキャッチコピーをつけることがあります。彼らがしていることも、この広い本屋業界の中での位置付けを、自分の言葉で表すことなのかな、と想像しました。

ちなみにこのイベント後、様子を見ていた我が社の社長さんからは「本屋は職人仕事なんだよね」とコメントいただきました。
店舗や環境によって違うのはもちろんのこと、同じ本を扱う仕事でも図書館司書は資格があるが、本屋は資格がないため、現場で覚えることが多いのだそう。
本当にこの言葉の通りだということを実感しています。

参加者のみなさま、ありがとうございました!

イベントを終えて

私は『本を売る技術』の内容から、スリップのことや並べ方のことを大いに参考にさせていただきました。しかしイベントを通じて、この本で紹介されていることは広い本屋業界の一部だということもわかりました。

「本屋とは何か?」について、今も私の答えは出せていません。
今思えば、1回で答えを出すには深すぎるサブテーマだったかもしれませんね。

ただ今回のABDは、いろんな業種をまぜこぜにしたとき、本屋である自分の立ち位置を見直す機会になりました。
今は、本屋とは何かを定義するよりも、「自分がどんな本屋になりたいか?」を考えています。

私は現代に生きる人に、新しい知識や視点との出会いを演出したくて、新刊書店で務めることにしました。
でも、新刊書店の役割ってそれだけじゃない。
地域と本屋の数だけ、役割があって、正解があります。

正解が一つではないからこそ、環境への適応と、ときには他の方との情報交換や学び直しが必要になります。
本でも、他の書店の皆さんのお話でも、新人の書店員を研修したり、本屋さん自身が学んだりできるような仕組みづくりは、皆さん苦労されているようでした。今回のABDのような機会は、そんな本屋さんたちの一助になる可能性は大いにあります。
それでも最後は、自分のことは、自分で考えないといけないのです。

そして本屋としての修行はまだまだ続きます。

まとまりきっていませんが、「新米本屋のセルフ研修」という私のエゴ全開のイベントにお付き合いいただいたみなさま、本当にありがとうございました!
今後も機会を見て企画していこうと思います。


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