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本屋で食べていきたい!いつの時代も必要とされる書店の形を考えてみた【新米本屋のセルフ研修①】

先日、本屋になった報告noteを書きました。
いま、新米の本屋として現場に立ちつつ、たくさんの「本屋の本」を読んでいます。
内沼晋太郎著『これからの本屋読本』(NHK出版)も、そのひとつ。

いま最優先すべきは現場の仕事ができるようになることだというのはわかりつつも、これらの本からは、私が現場だけでは学びきれない俯瞰的な情報を得ることができます。
納得感を持って仕事をするために、やっぱり一度は仕事の本質を考えておきたい!という私のまとめたがり気質がうずうずすると、本からの情報がとてもありがたいのです。

ということで今回は、「新米本屋のセルフ研修」と名付けて、自分が本から学んだことをまとめてみようと思います。

ビジネスとして厳しい本屋

「本屋の本」を読む中で常に話題になるのが「本屋でどう生計を立てるか」問題。

一般的に本屋は、ビジネスとしては非常に厳しいといわれます。
しかもこの厳しさは、残念ながらどの本屋さんに聞いても似た答えが返ってきます。

理由としては、インターネットによって電子書籍が普及したこと、娯楽が多様化したことなど、本をめぐる環境の変化が挙げられます。

近年は全国の書店数も減少しつづけており、業界全体でみてもあまり未来が明るいとは言えないのが現状です。

『これからの本屋読本』の第3章「本屋になるとはどういうことか」では、本屋単体で経営が難しい場合に、雑貨を売ったり、カフェを併設したりするなど、業態を工夫する店舗が増えていることが書かれています。
しかし、著者の見立てではそれらの店もまだ試行錯誤の段階で、純粋な利益が出ていないところも多いようです。

なぜ、街の書店が必要なのか

しかしそんな中、私はリアル書店にずっと憧れ続けてきたタイプの人間です。

そもそも街の書店がなくなると、なぜ困るのか。
私的な答えは、自分が社会や地域とつながれなくなるからです。

先のnoteで私は、書店では「本の並びを眺めるだけで今世の中で起こっていることを簡単に把握」でき、「自分の悩みが漠然と社会とつなってると思える」という感覚について書きました。
それは恐らく、本が実際に同時代に同じ地域に生きている「人間の本屋さん」の視点を経由するからこそ生まれる感覚ではないかと思っています。

分類や著者名で並べるだけでなく、並べた人が目立たせたい本は面出しで並んでいたり、隣にあった思いもよらない本に興味を惹かれたりする棚は、並べた人間の興味があってこそです。

そういう意味で街の書店の役割を並べると、以下のようになります。

  • 自分の視野よりも広い視点を得られる

  • 一目でたくさんの選択肢を知ることができる

  • 一度に詳しい情報を得られる場所として、図書館よりも情報が新しい

  • インターネットより深く、地域性のある情報が手に入る

  • 人間の本屋さんの視点を経由して社会とつながれる

他にも、なんだかんだ店員に話しかけられる頻度が多くない書店の距離感はありがたいとか、何もすることがなくても時間潰せるとか、いろいろな理由はあります。
が、私にとって一度にこれらの条件を満たせる場所は、街の書店以外にはなかなかありません。

「経由作戦」があまり有効でない理由

どうやったら街の書店を残せるか。

素人目に私がまず思いつく作戦は、本屋を維持するだけの売上を上げればいいということで、インターネットでも買える本をわざわざ書店で注文し、その店の売上に貢献する作戦。
名付けて「経由作戦」です。

経由作戦は、売上に直接貢献するので、一見有効であるように思われます。
しかし、手軽さ、速さでは、やはりインターネットにはかないません。
今後もネット通販や電子書籍の本を購入する人たちは多いでしょう。

誤解のないように言っておきたいのですが、私はインターネットを利用する人たちが憎いわけではありません。やっぱり便利だし、悪さをしようとしてそちらを利用しているのではないということもわかります。

書店を経由して購入してくれるお客さんは本屋としては大変ありがたいし、わざわざ足を運んでくれる方がいる店づくりができているとしたら、それは本当に素晴らしいことです。
ただ、お客さんみんなにそうしてもらえるかといえば、そうでないのも事実。
この事実をわかった上で、リアル書店は方向性を模索する必要があります。

経由作戦があまり有効でないように思われる理由は、もう一つあります。
ここでの書店の位置付けは、本を受け取りに行くだけの場所。
書店で得られる体験に、私が大好きな棚を作る・眺めるプロセスは含まれていません

『これからの本屋読本』でも、「紙の本を選んで届けることのささやかな意味」として、著者の内沼は以下のように書いています。

人間の「本屋」にしか生み出せないものがあるとしたら、それは個人の偏りをおそれずに、豊かな偶然や多様性をつくりだし、誰かに差し出すことだ。(中略)できる限り正しくあろうとする個人が選んだ結果、「ニーズ至上主義」で流れてくる情報とは異質で、ほどよくランダムで、多様な驚きがある。その「本屋」を信頼した客が、その世界に身を置いて出会う偶然を楽しむ。そういう体験を生み出すことこそ、「本屋」の仕事であるべきではないだろうか。

内沼晋太郎『これからの本屋読本』

もちろん、人間の本屋にも手軽さや速さといったテクノロジーの恩恵はあって然るべきですが、本質的な本屋の良さは、多様な情報と偶然出会う体験を届けられることです。

それを失った書店の本はインターネット上の情報に代替されてしまうし、そもそも、誰も魅力を感じなくなってしまいます。

3つの書店レベル

『これからの本屋読本』には、本屋を生業にする人のための具体的なアドバイスとして、本屋のダウンサイジングや、他の業種との掛け算など細かく掲載されています。

詳細なアドバイスは本に任せるとして、ここでは、私なりに本質的でざっくりとした書店の目指すべき方向について、3つの書店レベルとして言葉にしてみました。

  1. とりあえず書店

  2. 行く理由がある書店

  3. なんとなく行っちゃう書店

1.とりあえず書店」は、本棚があって、お店番がいて、本を扱っているような、書店として最低限の機能がある場所です。
ひとまず「本屋」と名乗った時点で自称本屋になります。一箱古本市みたいに小規模に始めた場合や、始めたばかりの本屋は、まずは名前としてとりあえず書店になります。

そこからレベルを上げるには、「2.行く理由がある書店」になることを目指すと良いのではと思います。
ここは、お客さんが目的をもってわざわざきてくれる書店です。
きっとここには望む本があるだろうとか、プレゼントにする本を相談したいとか、お客さんが本が必要な時に、初めに心に浮かぶような場所だと、なんかいいですよね。

最後に目指すのは、理由がなくても足が向く「3.なんとなく行っちゃう書店」です。
暇があれば、行っちゃう。用がなくても、行く。
そして、気づいたら何冊か手に取っている。
そうした人が多いほど、書店としての本質的な楽しみが失われずに、結果として長きにわたって大事にされる書店になれるのではと思います。

ここまで考えてくると、普段の書店業務で言われている「大事なこと」が、なぜ大事なのか腑に落ちてきました。

  • (見る人に多様な視点を提供できるように)魅力的な選書が大事なこと。

  • (毎回の訪問で違う出会いができるように)本棚に変化を持たせること。だから、新刊を並べるのが何にもまして最優先なこと。

  • (思い立ったときに来られるように)いつでも店を開けること。実際、定休日のない本屋さんが多いこと。

確かに、どれもなんとなく行っちゃう書店には必要なことだなあと実感できます。
現場の仕事にも納得感を得つつ、本屋研究はつづきます。


※『これからの本屋読本』について、私は紙の本でしたが、下記noteでなんと全文無料公開されています↓↓

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