マガジンのカバー画像

日々考えることのはなし

488
毎日考える何か、何かが引き金になり考える何かを綴ってみました
運営しているクリエイター

#詩

顔に傷あるけしぼうず

この note にやって来て約二か月、ずっと自分の記憶の整理をしていたように思う。 母の半生は兄の出生を悔恨し続け、私には「それでいいのか、あなたの人生をそんなことだけで終わらせてしまっていいのか」との疑問を拭うことはなかった。 父はお気楽に見えた、当時高額な兄の治療費を稼ぐと長く海外に勤務し、すべては母に任せきりであった。 父もゼネコンにいた電気・機械のプロであった。 長い時間は人の記憶をぼやかし、曖昧にさせる。 それは良いこと、悪いことの両面を持ち合わせる。 そしてそれ

闇から湧く猫

猫はそぞろに夜を歩き、月は黙ってついて行く。 月はいつでも知っている、猫のいつもの気ままさを。 猫の気ままは母さんも、父さん、婆さん、爺さんも 一族郎党どの猫も持って生まれたものなのさ。 持って生まれたその意志を貫く男は猫なのか。 のらりくらりとその時を過ごす男が猫なのか。 気ままの意味は幅広く、気ままに生きるは楽じゃない。 気ままに生きるその陰に強い意志を控え置く。 猫に生きるも楽じゃない。 人に生きるも楽じゃない。 猫が生きるは生きるため。 人が生きるは生きるため。

また雨におもう

雨降りでも傘をささずに歩いていた時期があった。 十代、世に背を向けて雨に濡れる私は天に向け吐くツバがその雨に混ざることを知らなかった。 向かう相手すべてを切り捨てたかった何も見えていない時代。 二十代は若かった。 降り来る雨を弾き飛ばすように。 いや、すべてを瞬時に気化させたのかもしれない。 世に腹を立てていた。 平等ならぬ世に腹を立てていた。 だから傘などいらなかったのである。 三十代、勘違いした時期だったかもしれない。 簡単ではない世を見切ったように、すべては自分の力でな

冬の雨にむせぶ夜

雨に濡れるのが嫌じゃない、稽古の帰りに濡れる夜。 大学入学前の魚市場の仲買での修行、金は肉体労働で稼ぐものだと信じてた。冬でも汗をかく力仕事は雨でもカッパは着なかった。 ずぶ濡れになっても風邪を引くことの無かった十代。 大学の合気道部は厳しかった。たとえ槍が降ろうとも稽古は休むことは出来なかった。傘をさす気力も無く濡れた身体が心地よく、それでも汗の染み込んだ学生服が臭かった二十代。 誰もが可愛いのは我が身だけ、定石の無い営業に悩み、取った仕事で上司に妬まれ、嬉し悲しく泣

腹のへるうた

何があっても腹はへる 何もなくとも腹はへる 腹がへっては戦は出来ぬ 誰がぬかしたそんなこと 戦をすればひとは死ぬ 死ねば腹などへりゃしねえ へるは涙と思いきや どこから湧くやらこの涙 そのうち川にまた河に いつしか海になっていた おいらの父はその海に おまえの母もその海に いつしか海にみな沈み 気がつきゃ誰もいやしねえ 一人で食うかこのメシを 寂しく食うかこのメシを 食っても満たすは腹のなか おいらの心はすきっ腹 満点の星空ながめるこのおいら 気がつきゃ星の王子さま

熱いメシをくう

風邪を引きそな寒い夜は ひとり寂しい雨の夜は きっとだれもが寒かろう きっとだれもが寂しかろ やらねばならぬその時に 心をくじくひとの声 それでも進むその時にゃ きっと熱いメシがいい 心がとても疲れた時、心がひどく乾いた時、人は正しい判断はできません。 そんな時にはおふくろさんが作ってくれた熱い熱い味噌汁を思い出しましょう。 愛する人の炊いてくれた温かなご飯を思い出しましょう。 そして、仕切り直しです。 人間、やらねばならない時があり、いやでも進まねばならない時がありま

猫のうた

私は猫が好きです。 でも猫可愛がりはしません。 エサやりも、水替えもします。 トイレ掃除は当たり前です。 ブラシもかけます。 爪も切ります。 でもいつも互いに空気の存在です。 気がつけば足元で寝ています。 ため息をつきたくなるとどこかから現れます。 私の視界に居なくとも雰囲気を感じさせてくれます。 でもいつも互いに空気の存在です。 家猫になった今、いつも私を待っていてくれます。 外に出せと文句も言いません。 私の目の前で丸くなり、私の疲れを癒します。 でもいつも互いに空

空をみる

朝、空を見る 星は瞬き空気の澄を感じた まだ明けぬ早朝の空気は尖っていた 働こうという私の邪魔をするのか その日暮らしに甘んずる私を怒っているようだった 魚市場へ向かう私に空は何を感じていただろう 昼、空を見る 底の見えない青い空気だった 愛知の冬は空を深く深く青くした そして太陽は子どもの私に囁いた 虫眼鏡で焼いてやれ地べたを歩くアリを焼いてやれ 焼けない私を空はなんと思っていたのだろう 夕、空を見る 子どもではない私は街を歩いた やわらかい空気はそこには無かった やめ

雲の上の男にささげるうた

湿った話は好きじゃない、基本は明るく前向きなオレ。 でも、誰かが降らせるこの雨が、毎年この時期に思い出させる。 オレより先に飛び出した男がいる。 まだあんたの時代じゃなかったんだよ。 あんたが悪いわけじゃない。 だから自分を責めないでな。 オレも続いていくから待っててくれ。 でもまだ、二十年、三十年先だ。 オレにはまだやることがあるからな。 行ったら話を聞かせてやる。 そこから見ていておくれな。 カッコ悪くても笑うなよ。 元気に前向いて進むからな。 思い出してやりなさい、