第7師団山裾防衛隊隊員録 王女と戦闘あほ
払暁王国第13王女たる私、メレディスがこの場にいることが間違いだと思ったのはこの一週間で何度も有ったが、今感じているその感情の理由は大きく変容していた。
「姫様ァ! いや、少尉殿ォ! ちゃんと隠れていますかァ!」
カスタムキャノンの流れ弾が、私のうずくまる大木の幹を削り取っていく。しかしロクロウ准尉の胴間声のほうがよっぽど大きい。
人間なのか。彼は。私と同じ。
「j0lb/」「]lq@」「gk4wet」「wZqeq@」
小ぶりな大砲に針金細工の手足が絡みついた様な連邦の魔導絡繰……カスタムキャノンが圧縮言語で遣り取りをする声が聞こえる。
何体残存しているか分からないが、我々が発見した当初からその侵犯者が大分減っているのは確実だ。
「チェイヤァァァ!!!」
その原因たる准尉が奇声と共に銃剣をぶん回し、一声ごとにカスタムキャノンの手足が弾け跳び、その幾つかが私の頭上に突き刺さる。
人間とカスタムキャノンの戦力比は約10:1。兵10人でかからないと1体のカスタムキャノンが倒せない。私はそう習ったはずなのだが。
「はははあ! 暑くなってきましたな中尉殿ッ!」
それは、この豪雪に覆われた山麓で貴殿だけだと思うぞ。
戦闘がひとまず収まりそうだと安堵した私は、ふと一週間前の司令部での会話を思い出していた。
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「任官して早速隊長……でありますか」
「ええ、姫様。将校というものはそういうものです」
「叔父上、姫は止めてください。して、このチキッヘ山南麓基地というのは……」
地理は得意だったはずだが、覚えがない。
「此処、ですな」
と指したのは地図のスミ。目を眇めなければ見えない点が一つ。
一応、連邦と接している国境では有るが……。
「軍縮で、隊長の椅子も少ないんだよね……」
「これは屯所と言ったほうがよろしいのでは……?」
我が母似の顔に引っ付けた似合わない髭をしごきながら、大佐閣下はヘラっと笑った。
【続く】