名前を呼んで。【ケムリクサSS】
まえ あと
りんさんが赤い木を打ち倒してから、だいぶ経ちました。その期間を大体、【ひと月】と言うのだそうです。
「なっ、なっ」
「にゃ、にゃ」
「PiPi!」
りんさんと水を探しに行った帰り(そう、はしゃいで忘れていましたが水を探しに行ってたんです)、改めてもこもこと生えている花……アザレアも何本か摘んで持って帰ることとにしました。今は小さくなったシロの上に飾っています。
「んー、やっぱりりなちゃんは色とかよくわからないんだナ」
「振ると繊細な音がするにゃ」
「……食べていい?」
「……一つだけだぞ」
ずっとバタバタ続きでしたが、今はひとまずの本拠地として、【ふね】の穴から真下に降りたところに……
「なにしてるんだ? おまえ」
「うひゃあ! あ、その、メモを」
「ダイダイ、回収してたのか」
「はい! お二人を迎えに行ったときに。お水があったので、また使ってみようかと」
「そうか」
そう言うと、りんさんはふいとりつさんりなさんの方を向いてしまいました。
「りん? わかばくんになんだかまた冷たいにゃ?」
「そうだナmgmg」
「そ、そんなことない」
「帰ってきたときお手々、繋いでたのににゃ?」
「ナ?」
「そ、それは! その……」
ただ、前と違うのは、前よりずっと表情が柔らかくなったことでしょうか。
「お、おまえっ! ニヤニヤするな!」
「ええー? してませんよ」
そんな事を考えていると、また怒られてしまいました。
「あ、またおまえって言ってるにゃ。それじゃダメよ? りん。名前で呼ばなきゃ」
「え? 結構呼んでくれますよ?」
「え?」
「ナ? mgmg」
「Pi?」
「なっ、おま、んなっ……」
そして”本体の色”のオーラを纏いかけたりんさんを、りつさんが、こう、見たことない動きですぽーんっと投げてなだめた後、僕とりんさんは正座をさせられました。
「つまり、りんは二人でいるときだけわかばくんをわかばくんって呼んでたわけにゃ?」
「そう……言うことになります」
気づかなかったです。
「ずるいにゃ!」
「はあ?」
「仲良しさんな様子、私達もみたいもの! ねえ、りなちゃん」
「そう……かナ?」
「そうよ! ニャ」
「姉さん……語尾が無理やりだよ」
「ニャニャにゃ、にゃ! 目の前で呼び合うにゃ。私はそれがみたいにゃ」
あれ? なんかごまかされた気がしますよ?
「わ、わかば……」
「はい? りんさん」
「わかば」
「あ、始まってるんですね。りんさん」
「わかば!」
「りんさん」
僕は嬉しくなって、またニコニコしてしまいます。
「っ……わかばぁ」
すると、りんさんは真っ赤になって倒れてしまいました。
「っはー、眼福眼福にゃ」
「はな、食べ終わっちゃったナ」
その様子を、シロが記憶の葉みたいに記録していたことがわかるのは、また少ししてからのことでした。
【おわり】
資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。