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ニーナ・ザ・ミストガン #2

承前

かつて災害があった。

万能の霧<ミスト>は人類文明を支え、太陽系内に生活圏を広げる原動力となったが、ある日全てを裏切り、文明はまたたく間に滅びた。
しかし、終わらない人の生を繋ぎ止めたのもまた、その霧。

ミストウォーカー。霧に適応した人間。
小さくは灯火を点し闇夜を再び切り拓き、大きくはその身に超人的な能力を与え、霧で変質した生物種……ミステッドを退けた。

そう、”力”は正しき者にばかりもたらされるはずもなく……。

――エスメラルダの砦、南門。
砦の街をぐるりと囲む空濠に渡された鉄板の橋の上、老爺と少女、そして男が二人。

「お願いです。この中に入れてください。お金はこの通り……”ジット”ならここでも使えるでしょう?」
老爺が異常巨体の大男に粒状の換金素子、ジットを手渡し、すがりつく様にそう訴える。
「ああ……いいぜ」大男は視覚デバイスでチャージ額を確認し、頷く。
その額はおおよそ、通行料とするなら十分過ぎる量。なけなしの物だが、街の外で死んでは元も子もない。
「だが、俺らの”付け届け”にそいつを受け取ってやっても、通行料はそれじゃ払えねえなぁー!?」
回り込んだ矮躯の小男が老爺を蹴り転がし、少女の腕を捕まえる。
「ここはエスメラルダの姐さんが治める領域! そんな他所の金が使えるかよぅ!」
「なっ!?」
老爺は絶句する。
「俺がこのお嬢ちゃんを”保護”して、代わりに払ってやるよぅ。親切だろぅ? 3番めのお嫁さんだぁ!」そんなことを小男は喚き散らし、よく動く舌を少女の頬に這わそうとする。
「やめ、やめてくだされ! ぐぎゃっ!」 
老爺は叫ぶが、大男に踏みつけられ窒息。
「はぁーあ、外回りの連中は好き放題もらい放題。さっきもなにを拾ってきたのやら。……ん?」
同僚のお楽しみを見ながら嘆息し、まるで端布を踏むような何気なさで老爺を虐待する大男に、不意に影が差す。

(影……?)
上を向くとそこには、藍色の強化全身スーツを着たとびきりの美女。憂いを帯びた顔貌に、燃える瞳。そして……ブーツの裏。

――それが死の直前、最大に引き伸ばされた大男の最後の記憶だった。

衝突。破壊。粉塵。

「私はニーナ! 奪われたものを取りに来た。エスメラルダは、どこだ!」
大男の上半身をミンチにしながら着地したミーナは立ち上がり、そう宣言した。

.../続く

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。