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ニーナ・ザ・ミストガン #3

最初から
前話

「ちょいさぁ!」

相棒の血溜まりに佇む女に向かい、小男……バドはサイコキネシスの奔流を叩きつける。誰何の必要はない。襲撃者と見込んで先制攻撃を叩き込む。直撃すれば四方勝手な方向にサイキックパワーが拡散し、四肢は引き裂かれるだろう。

大男……リックと言った。もう誰も呼ぶことはない名だ……の仇ではない。門衛としての職務意識だ。

だが、あっさりとそれを躱し、(不可視の攻撃だぞ!?)驚くバドの前へと瞬間移動したが如き速度でニーナは迫る。

右拳、ストレートが弾丸のようにバドの顔を捉える。が、再びキネシスを発動。腕ごとニーナの上半身を<流し>、自身も同様キネシスに身を任せ反対側に飛び退く。

「ブラストタイプ……なかなかの強度」

サイコキネシスの力を水や空気の流れと見立ててぶつけるブラストは、始動が弱く、至近距離では威力はない。先のような応用はそう出来るものではない……と、いとも簡単にニーナは看破する。

バドは這いつくばり、ニーナは悠然と立ち上がる。彼と比べずともその体躯は大柄である。180センチは越えていそうだ。

「っくぅ! 俺はデカ女と蜘蛛が嫌いなんだよぅ!」

頭一つ分は小さいバドはコンプレックス紛れにそう叫び、三度目のキネシスを叩き込む。目が血走り、それは限界が近いことを示している。
二股、挟み込み、押し潰すようにキネシスがニーナを襲う。しかし、やはり見えているがごとく女は後ろに鋭く飛ぶ!

「だとしてもぉ!」
だが、仮に見えているとすれば、見えているがごとく避ける。それを計算に入れて追撃をすればよし。バドは滑るように地面を駆け抜け、否、まさしく地面を滑り、ヴィヴロブレイド<振動剣>を抜き放ちニーナへと斬りかかる。

(な、に……)
しかし、次の瞬間バドが見たものは、腰の拳銃を抜き放ちこちらをポイントするニーナの姿。
「それは……銃……! だが……!」

「銃は弱者の武器だわ」
かつて演劇が催されたであろう大ホールの舞台上、玉座のごとく一段高くなった場所で、ゆったりとしたドレスをまとった女性が雅につぶやいた。

周りには十数体の少年型の人形。それらが寝台のように折り重なり、彼女を支えている。そして、更にその周りには、アサルトライフルを持った男たち数十人。皆、彼女に狙いを定めている。

「世界は終わったじゃない。だから、かつて、威を奮った銃なんて……一緒に終わってしまった方が良くなくて?」
「死ね! 独裁者!」
気怠げな女性のつぶやきをかき消すように、全方位から銃弾が叩き込まれる。

ヒステリックな銃声。

粉塵、破壊、惨劇。

……は、起こらなかった。

「私はエスメラルダ。あなたたちのあるじ。そして、古き人類種にとどめを刺すもの」

うっとりとエスメラルダはつぶやく。
立ち上がった彼女(長身で、何より脚が長い)の周りでは、全ての銃弾がひしゃげ、散らばっている。
だがそれ以前に、男たちは床とともに血のシミとなっていた。

.../続く

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。