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#5 メジェド様

街中でガチャガチャを見るとどんなに急いでいても一度は足を止めてしまうようになった。そうなったのには数年前ガチャガチャで“メジェド様”というものに出会ってしまったからだ。

皆さんはメジェド様というものを知っているだろうか。知らない人のために説明するがメジェド様というのは古代エジプトの文献の「死者の書」に出てくる神様のひとりらしく、外見は白い布をかぶりその布に眉と目だけが描かれ、布の下からは足だけが見えているというそれはとてもとてもシュールな見た目をしている神様だ。もし今の説明を聞いても見た目が皆目見当もつかない人は一度お手元のスマートフォンやパソコンで検索してみて欲しい。まぁ何とも不気味で気持ち悪い見た目のメジェド様に不思議と今僕は虜になっている。

ことの発端はコロナとかが流行る前だったので3年ぐらい前だと思うがとある施設を訪れた時に一緒に遊んでいた娘が「あ、メジェド様じゃん」とメジェド様のキーホルダーのガチャガチャを発見したのだ。「何これ?知ってるの?」「うん。エジプトの壁画とかにも描かれているらしいよ」「へー。何か不気味」「可愛いじゃん。やろうよガチャガチャ」という流れで渋々お金を入れてガチャガチャを回した。赤や茶色、黒など結構なカラーバリエーションがあり、その中から出てきたのは1番ベーシックな白色のメジェド様だった。「お〜!やっぱ可愛いじゃん!はい!」「ん?」「あげる!」「え、欲しかったんじゃないの?」「うん!あげる」という感じで欲しくも何ともなかったが渋々貰い、キーホルダーなのでとりあえず鍵に付けることにした。

その日以降、家を外出、帰宅する度にあの不気味なメジェド様を見なければいけなくなった。最初の方は付けていた事を忘れていてポッケから鍵を出した時に一緒に出てくる不気味なメジェド様にうわっ!とゾッとしていたがそれから段々慣れていき何なら愛着すら湧いてきて“可愛い”とすら思うようになったのだ。無表情なのに何故か表情があるように見えたし、偶に雑貨屋さんでエジプト関連のグッズが売っていればメジェド様のグッズがないか確認する程あのメジェド様の虜になっていたのだ。そんなもんだから渋々貰った奴だけど気がついたら1年半くらい付けていた。すると長い間付けていただけあってポッケと指の摩擦などで眉と目は消えてしまい、色が白という事もあってズボンの塗料みたいなのが付いてしまい淡い水色と灰色が混ざった何とも汚らしい見た目の物体になってしまった。これを付け続けるのは流石にやばいなと思い新しいキーホルダーをガチャガチャで探すことにしたのだが、色々探してもメジェド様に代わる可愛いものはなかなか見当たらず何ならまた新しいメジェド様のキーホルダーが欲しい!!という感情が湧き出てきた。そこから街を歩いていても大きなショッピングモールに行ってもそこにガチャガチャが有れば必ず足を止めてメジェド様のキーホルダーのガチャガチャがないか確認したが、メジェド様のキーホルダーのガチャガチャは全く見つからなかった。たまに他のアニメのキャラとコラボしたメジェド様のキーホルダーを見つけたが僕はあのシンプルな眉と目だけで白い見た目のメジェド様に惹かれていてアニメのキャラの見た目を真似たいわゆるコスプレメジェド様には全く興味のないのだ。変なこだわりのせいでメジェド様のキーホルダーのガチャガチャは全く見つからず探す日々は気づいたら1年くらい経っていた。ガチャガチャの新商品と古いのを交換するサイクルは全く分からないけれどガチャガチャをしたのが3年前なのでもう販売はしていないのではないかと頭の中では少しよぎるけれど、もしかしたらきっと何処かにちょこんと佇んでいるかもしれないという僅かながらの希望を持ってしまう。

この前、みなとみらいで用事があった際にこのまま帰るのはなんか勿体無い気がして元町中華街や山下公園なんかをブラブラしていて最後帰ろうかと思った時に駅の近くに大きなショッピングモールがあったのでガチャガチャがあると思い寄って見ることにした。中に入って見ると案の定ガチャガチャは所々にあったのだがやはりシンプルなメジェド様は見当たらなかった。ガクッと落ち込みながらもショッピングモールをブラブラしてるとある階に大規模なガチャガチャの森があったのだ。普通ガチャガチャの森はほんの10畳ぐらいのスペースしかないのが一般的なのだがそのショッピングモールのガチャガチャの森はその3倍ぐらいの広さを持っていた。このガチャガチャの森になら絶対にメジェド様のキーホルダーがあるはずだと意気込み1台1台入念に漏れがないようにゆっくりと見ていった。話題の鬼滅の刃や呪術廻戦の前だと若い女性や子供連れが沢山いたけれど僕の目的はメジェド様なのでそんな所は構わずスルーだ。子供向けの働く車や女の子向けのプリキュアなどのゾーンを抜け次に来たのがマニアックなガチャガチャのコーナーだった。ここだ!絶対ここのコーナーにある!そう確信した。さっきよりも見るスピードを抑え入念に入念に1台1台見て回ってると気づいたらマニアックゾーンは終わっていた。え?!まて!これで終わり?!そんなはずは無い、そんなはず無い!絶対にメジェド様はこの森の中に潜んでるはずだ!またマニアックゾーンの最初の方に戻りまた1台ずつ入念に見て回ったけれどまた気がついたらマニアックゾーンは終わっていた。愕然とした。ここに無いということはもう希望が絶たれたも同然じゃ無いか。同じエジプトの神様のフィギュアは置いてあるくせに何故メジェド様が無いのか!!という何とも珍しい内容の怒りが湧き上がった。心の中でふざけるなと確かに叫び狂った。

多分これをここまで読んだ人の中でメルカリとかで手に入れればいいじゃんという意見を言う方がいるかも知れないがまた変なプライドだと思うがガチャガチャでゲットしたい。ちゃんと初めての所有者は僕でありたいのだ。メルカリなどのフリマアプリで探せば値段は倍にはなると思うが簡単に手に入るとは思うけれど僕の中で何かが納得しなくて、だからこそちゃんとガチャガチャで購入したい。そうしないと僕の中で落とし前がつかないのだ。だから僕は今でもメジェド様を探し続けている。何年かかってでもメジェド様のガチャガチャを探し続けるだろう。「きっと見つからない!」「そんなもん諦めてしまえ!」と言われても僕は探し続けるだろう。いままでいる確率が少ないツチノコやネッシーなどのUMAを追い続けている研究家達の気持ちなどこれっぽっちも理解できなかったが今なら分かる気がする。きっとロマンなんだと思う。探し求めている事こそに意味があってそれがその人達の生き甲斐になるんだろう。今までこのメジェド様を探していること自体は恥ずかしいことなんだと思い言えなかったが、書いてみて僕は壮大なロマンを追い求めているんだなと思った。何も恥ずかしいことではないじゃないか。うす汚れた白い物体になってしまったメジェド様を見ながらそう思った。


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