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太宰治のファンです

太宰治のファンです。
正直、未だ読めていない短編もごろごろありますが、中学生時代から作品に触れてきて、齢30歳になる今も、好んで読み続けています。
作品を通して作者本人のことに興味を持って調べたり、所縁のある場所へ赴いたり…
あまり意識はしていませんでしたが、これはもう自分はファンなんだなということを、最近になって自覚しました。

そんな私なのですが、今年の5月に青森県、6月に東京都三鷹と太宰ゆかりの地を巡ってきたので、備忘録も兼ねて書いていこうと思います…が、
今回はその前段として、そもそも何故こんなに太宰作品に陶酔しているのか考えてみたので、お付き合い頂けると嬉しいです。

私が太宰治を好きな理由

本編に入る前に、私が作品含めて太宰治を好きな理由を、大きく2つ考えてみました。

①作品から溢れる人間性

人間に対して、いつも恐怖に震いおののき、また、人間としての自分の言動に、みじんも自信を持てず、そうして自分ひとりの懊悩は胸の中の小箱に秘め、その憂鬱、ナアヴァスネスを、ひたかくしに隠して、ひたすら無邪気の楽天性を装い、自分はお道化たお変人として、次第に完成されて行きました。

太宰治『人間失格』

太宰といえば自叙的な小説を多く残していますが、それらや、
またそれら以外の作品からも感じ取られる、彼の人間性の一部は以下の通りだと考えています。

・感受性が強くて、自意識が強くて生き辛い
・簡単には払拭できないコンプレックスを抱える中で、常にもがいてる


そんな姿に烏滸がましくも自分を重ね、励まされることが今もあります。
満たされない気持ちを、どうやって潤せば良いのか。
足りていない自分と、どのように向き合えば良いのか。
自分自身が自意識に潰されそうな時、それを自分が生まれるずっと前の偉人が言語化してくれていて、悩みのベクトルは違えど自分と同様に苛まれていることを知れると、心が救われる感覚がします。

それに、悩みの渦中に居る本人からしたら溜まったもんじゃないことでも、
傍から見たら人間味に溢れていて、なんだか可愛らしく感じることもあるものですよね。


②女性の心の機微を描くのが非常に上手い

翌る朝、薄明のうちにもう起きて、そっと鏡台に向って、ああと、うめいてしまいました。私は、お化けでございます。これは、私の姿じゃない。からだじゅう、トマトがつぶれたみたいで、頸にも胸にも、おなかにも、ぶつぶつ醜怪を極めて豆粒ほども大きい吹出物が、まるで全身に角が生えたように、きのこが生えたように、すきまなく、一面に噴き出て、ふふふふ笑いたくなりました。
<中略> 鬼。悪魔。私は、人ではございませぬ。このまま死なせて下さい。泣いては、いけない。こんな醜怪なからだになって、めそめそ泣きべそ掻いたって、ちっとも可愛くないばかりか、いよいよ熟柿がぐしゃと潰つぶれたみたいに滑稽で、あさましく、手もつけられぬ悲惨の光景になってしまう。泣いては、いけない。隠してしまおう。あの人は、まだ知らない。見せたくない。もともと醜い私が、こんな腐った肌になってしまって、もうもう私は、取り柄がない。屑くずだ。はきだめだ。もう、こうなっては、あの人だって、私を慰める言葉が無いでしょう。

太宰治 『皮膚と心』

太宰の作品は女性一人称の作品も多いのですが、
作者が男性であるという事実を忘れてしまうくらい、女性の心の機微を描くのが上手い!と感じます
今回引用したの、短編『皮膚と心』。こちらのあらすじをざっくりとお伝えすると、
”ある日、自己肯定感が低めな女性主人公の体に無数の吹き出物ができてしまい、散々しょげて自己否定を繰り返す。やっとのことで夫に打ち明けると病院に連れていかれ、医師に診てもらったら、大したことない症状であることが分かり、一気に心が軽くなった”
という、嗚呼なんか身に覚えがあるなあ、そういうものだよね…というようなストーリーになります。

ただ、たかが吹出物といえど、多かれ少なかれ美意識を持つ年頃の女性にとっては、大問題。引用の一部の文章からも分かる通り、情緒不安定な気持ちの表現が兎に角、凄まじいのです。大好きな作品なので、ぜひご一読頂きたい短編の一つです。

太宰を語る上で女性関係は切っても切れないわけですが、
女心に敏いから、女に惚れられるのか、
女に惚れられるから、女心に敏いのか。
もはや分かりませんが、浮名を馳せていたのも納得だよなあと思っています。そりゃあモテたよな…


こうして文字に起こしてみると、改めて一人の文豪に対して”推し”の気持ちを頂いていることを感じました。会いに行けないのが残念です。
(太宰の自宅には作家を志すような地元の文学青年がよく訪問していたそうなので、生まれるのが100年くらい早かったら、彼らに混じって端から様子を見ている、ヤバめのファンになっていたかもしれません…)

そのようなわけで、思いのほか長くなってしまいましたが、
次回は、太宰ゆかりの地を巡礼【青森編】を書けるように頑張ります。


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