カオス化したオペレーションの解消に向け、可視化というデザインの力で立ち向かった。
こちらはSaaS Designer Advent Calendar 2023 3日目の記事です。
今年はオフラインでのイベントも増え、直接人と会う機会が再び増えてきた実感がありますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
私は、最近でいえばSaaS Design Conference 2023や、60人近くSaaS 領域のデザイナーが集まって飲む会、そしてちょうど昨日今日もSpectrum Tokyo Festival 2023に参加させていただき、(一見地味だし、どこに生息しているのかよくわからない)SaaS領域のデザイン従事者仲間と横の繋がりがたくさん持てたことが今年の大きな収穫でした。
絡んでいただいたみなさま、ありがとうございます!
純粋にイベント(だけ)を見るだけならオンラインが便利ではあるのですが、やはり色々な人と直接会って会話することで、気づきを得たりやモチベーション向上になったりすることにもつながりますね。
さて、そんな中で最近気づいたことの一つが、
「BtoBのSaaSプロダクトが成長していくと、エンタープライズへの販売が始まり、導入した特定の企業向け対応が始まり、だんだんとオペレーション面でカオス化していく」
という事象が”あるある”であるということです。(今更)
私の現在所属しているセーフィー株式会社でも多分に漏れずこの事象が少なからず起きていて、企業としてもその対策に動いているところなので、今回はこの対策の初手にデザイン部署に所属するUXリサーチャーとして私たちが行った施策について簡単に紹介させていただこうと思います。
内容サマリとしては、社内リサーチを行い、サービスブループリント形式で可視化したものとなります。
課題背景
戦略の差はあれ、SaaSのプロダクトは概ね、成長とともにそれまでスタートアップ〜中小企業メインだったところから、チャーンレートが低いとかバルク購入により黒字化が狙えるなどの色々な理由によってエンタープライズ企業(以下、エンプラ企業)の開拓に舵を切ることが多いと思います。
セールス面での難しさはここでは述べませんが、エンプラ企業を獲得できた/できそうな状況で待ち構えるのが、「個別対応」です。
具体的に言うと、特定のエンプラ企業しか使わないであろう機能でも大量に契約してくれている企業であるがゆえに「この機能が欲しい」に応えてしまうとか、導入のために「ここを特別にこうしてくれたら導入する」に応えてしまう、などです。
企業の存続や成長のために必要な措置であったり、セールス担当者がクライアントを大事にするからこその対応であったりと色々な理由がありますが、エンプラ企業と向き合うためにはGAFAMレベルにパワーのあるような企業でもない限り、必ずと言って良いほど遭遇する事象なのではないでしょうか。
そうして個別対応をしていく先に生まれるのが、オペレーションのカオス化です。
本来(理想)のオペレーションは、一定のルールを定め、その範囲の中で運用することで最大限の効率化が狙えるため、基本的にはルールを崩さないで運用していくものです。
しかし、上述のように特定の企業向け対応が発生するため、だんだんとルールから逸脱した「イラギュラー対応」が生まれては積み上がっていくこととなります。
そして、この対応が増えていくことで、プロダクトでの対応が増えたり、カスタマーサポートなどのバックエンド側に皺寄せが来る形で次第に表出化していきます。
例えば(これは架空の例ですが)、「あの企業にはこのフォーマットで請求書を出さなきゃ」とか、「この企業向けに特別な承認フローを用意しなきゃ」などです。
プロダクトの中で(他の誰も使わないような)機能が少し増えるくらいならマシな方で、例えば請求書の送り間違えなどは企業として重大事故と判断するような事象も出てくるかもしれません。
弊社の場合(ここは読み飛ばしても良いところ)
個別対応という点ではセーフィーでも昔から少しずつイレギュラーの蓄積がありますが、特に元々のビジネスの複雑性という要素と掛け合わせることで、かなりのカオス化になっている部分があります。
知らない方のために簡単に会社の紹介なのですが、セーフィーはクラウド録画サービスを提供している会社です。(詳しく知りたい方は会社紹介資料をどうぞ)
ハードウェアとしてカメラのデバイスを提供しながら、ソフトウェアとして映像が見れるプロダクトも持っています。
また、ホリゾンタルなSaaSのため、業界特化型ではなく、飲食・小売・建設・インフラ・自治体・オフィス・物流etcと様々な業界で使われています。
そして、カメラデバイスに関しては、販売している商品もあれば、レンタルで提供している商品もあります。
その上でややこしいのですが、自社で販売/レンタルしていることもあれば、代理店経由や取次店経由での販売/レンタルをしていることもあります。(このあたりの種別のことを社内では「商流」と呼んでいます)
また、いくつかの会社様にはOEMでサービスを提供しているため、自社ブランドではない形でも並行してサービスが展開されている状況です。
ここまでくると(イレギュラー対応が発生していなかったとしても)かなり複雑で、特定商流のうちの自分の関わる作業領域は分かっていても、商流全体がどのようになっているかを正確に把握することが困難になってきます。
やったこと
ちょっとしたインシデントやヒヤリハットが目に見えてきたこともあり、どうやらオペレーション部分の複雑性によって「不」が生まれている可能性がありそうだという上層部の見立てのもと、まずは現状把握のための社内リサーチをして欲しいと私のいるUXリサーチチームに依頼をもらいました。
(裏話として、UXリサーチをするチームに対して業務コンサル的なリサーチの依頼になっていますが、社内で実施するのにここが最適任との判断だったそうです。我々としてもチームがまだできて浅いため、社内での信頼を積み重ねたいこともあり、引き受けました。)
この時点では「商流」を私はきちんと理解しきれていませんでしたし、社内に整理された資料もありませんでしたので、そこの把握からスタートしています。
依頼から半年ほどかけて社内調査とまとめを行っていくわけですが、実施内容の概要をざっくり記載すると下記の通りです。(こういう話はナイーブなのであまり詳細に書けないところはお察しください)
実施内容:
「商流」の把握。セールス担当者複数名を対象に、詳しそうな順に上から複数名にヒアリング。その後の調査の"あたり"を作るべく、「代表的」と言える商流がどのようなもので何種類くらいありそうなのかを導き出す。
商流の妥当性の確認。ヒアリングしたセールス担当者や、その他の事情に明るい人に確認を行う。
各商流のフローの叩きを作成。各商流ごとに詳しそうなセールスやカスタマーサービスの担当者を見繕い、それぞれワークショップ形式でフローの叩きを作成。まずはポストイットに手書きで模造紙に貼っていく。サービスブループリントでの表出化を見込んでいたので、登場人物もこの時点で合わせて確認した。
フローの精緻化・妥当性の確認。手書きのものをデジタル上に起こし、ヒアリングした人や事情に明るい人に対し、過不足がないか、フローが妥当かどうかを確認。
サービスブループリントの作成。それぞれのフローをまとめるため、サービスブループリントの形式でアウトプットの作成を行う。今回はFigmaで作成。
報告&提案。作成したサービスブループリントに加え、ワークショップの温度感をできるだけ伝えられるよう、サービスブループリントの形式では表現できないものは別途コメント入りのもの用意。また、リサーチしたからこそ見えてきた観点で、今後の動きについての提案も加えて報告。
(おまけ)サービスブループリントの印刷。PDFで作成して誰でも見れる状態にしていたものの、紙としても用意。複数商流を合わせた冊子の形式で、一部の関係者に配布。
制作物チラ見せ
実施にあたってのポイント
意識していたことや、やってよかったことがいくつかあるので簡単に記載しておきます。
商流の数も業務内容もわからない上に、詳細にすればするほどイレギュラー対応を取り込まないといけなくなり、無限に枝分かれしそうだったので、できるだけ大枠(ハードル低め)にしつつも業務内容がわかる粒度感になる制作物を意識した上で活動し始めた。
誰がどこにどれだけ詳しいのかがわからないので、キーパーソンを軸に、人や資料を紹介してもらう芋づる方式で情報を探索した。
社内にワークショップの文化がなかったので、お菓子やコーヒーを用意したり、文字化が難しければ喋ってもらってリサーチチーム側で文字起こしをするなど、参加のハードルを下げつつ、ワイワイできる雰囲気作りを心がけた。(こういうの面白いですね!という感想を結構もらえました)
Notionに調査概要や成果物イメージなどを記載したページを用意しておき、事前に共有。やりたいことを先に伝えられたのと使い回しができたので便利。
出来上がったサービスブループリントは紙でも印刷し、冊子にして活用してくれそうな人に配った。経営企画、カスタマーサービス、監査の方々の参考にもなっているらしいという副次的効果も生まれた。
年1回の社内のアワード(今年から公募制)に応募。受賞が目的というよりは活動自体の認知をもっと社内で高めたい狙い。(結果発表は1月に・・・)
まとめ
最後に、感想・学び、今後やりたいことなどを記載して本稿の締めとします。
何より自分達が、事業全体がどう回っているかの解像度が爆上がりした。(これは個人面での1番大きな収穫!)
相手部署の見ている景色に合わせて話ができるような「共通言語」が持てたので、例えばセールスやカスタマーサービスの主張している内容や、それぞれの意見の食い違いがあったときに「なぜそうなっているのか」が分かるようになってきた。
自分の中でワークショップ開催&ファシリテーションをすることへのハードルが少し下がった。(この流れで、最近では営業内の共通認識を持つためにカスタマージャーニーを整理するようなワークショップも開催しました。)
デザイン部署の仕事が表層だけを作ることではないことを社内に少しずつ伝えられている…はず。少なくとも接点のなかった人との話題のきっかけにはなった。
今後やりたいと思ったこと。
本来はUXリサーチのために作ったチームなので、やはりユーザーと向き合いたい。この活動がひと段落した後、少しずつできてきている。
社内の異業種(部署)間の壁をへらし、なめらかな関係性を作りたい。相互理解した上で仕事するとやはり違うと実感。
以上、カオス化したオペレーションの解消に向け、リサーチチームで社内リサーチを行い、可視化した活動についてご紹介しました。
どの情報をどのように組み合わせ、どのような形で相手に届けるのが適切か。これはデザインの得意とする領域の1つである「可視化」の力だと思います。
事業に貢献できるデザインの活用として、何かヒントとなれば幸いです。
明日のAdvent Calendar
明日はUzabaseの平野さんです!お楽しみに😆