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「子宮頸がん」「乳がん」を正しく知りましょう

近年の晩産化、そして少子化(女性が生涯で産む子どもの人数が少ない、あるいは産まない)が急速に進行したことで、妊娠・出産に関連した健康障害がより高い確率で女性に起こっています。

妊娠・出産がもたらす無月経の期間が以前よりずっと少なくなり、子宮内膜症、子宮筋腫、がんなどの病気の発症リスクが高まっているのです。

中でも、子宮がん(子宮体がん、子宮頸がん)、乳がん、卵巣がんなど、女性特有の“がん”については、「自分も発症するかもしれない」という意識を持って、すべての女性に日頃から気をつけていただきたいエストロゲン依存性の病気です。

これまでも何度か登場してきたエストロゲン(卵胞ホルモン)は、プロゲステロン(黄体ホルモン)とセットになって妊娠、出産、月経などをコントロールしている女性ホルモンのことです。

普段は、動脈硬化や骨粗鬆症を防ぎ、お肌のハリツヤを保ち、女性らしいカラダを維持するのにも不可欠と、八面六臂の活躍をしてくれるホルモンなのですが、月経の回数が多い=エストロゲンに晒されている時間が増えることは、上記のような病気の発症率も高めてしまうのです。

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発症ピークは30代 若い人に増加している“子宮頸がん”

子宮がんは、発症部位によって子宮頸がん、子宮体がんにわかれます。

子宮頸がんは、そのほとんどがヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によることがわかっていて、セックスの経験がある女性の過半数が一生に一度は感染機会があるといわれています。

HPVに感染しても90%は免疫の力で自然に排除されるのですが、残り10%のケースでHPV感染が長期間持続し、さらにこのうち、自然治癒しない一部の人は“異形成”とよばれる前がん病変を経て、数年以上をかけて子宮頸がんに進行します。

子宮がんの約7割を占めるのがこの子宮頸がんで、30代後半の発症者がもっとも多くなっています
一般に“がん”と聞くと高齢者が発症しやすいイメージがありますが、子宮頸がんにかんしては、20代、30代と若い世代の女性の発症例が急速に増加しています
日本では、毎年1万人以上の女性が子宮頸がんにかかり、約3000人が命を落としています。しかし、年代に着目するとがんによる若年者の死因としては女性でトップ、男女一緒の調査でも2番目に多いといわれています。

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早期で発見されないと子宮摘出が必要となるので、仮に本人の延命はできても出産前、場合によっては結婚前に子宮を失うことになってしまいます。年代的には、小さなお子さんを残して亡くなられる女性も増えています

自覚症状がないからこそ、がん検診の受診を

子宮頸がんで命を落とす若い女性が増えているのは、「まだ自分は若いから」と当事者意識を持ちにくい年代であること、仕事に家事にと忙しく受診がおろそかになりがちな年代であることなど、年代由来の背景も考えられそうです。

しかし何より、初期の子宮頸がんには自覚症状がないのです。

WHO(世界保健機関)は「子宮頸がんの予防は、ワクチンと検診の両輪で」と呼びかけていますが、日本では重篤な副反応の報告があった影響で、いまだHPVワクチンの接種率は十分ではありません。

そのため、現時点で子宮頸がんを早期発見するためには、定期的に検診を受けることが最も有効なのですが、受診率が軒並み70%を超えている欧米諸国に比べると、日本の子宮頸部細胞診(子宮頸がん検診)受診率は43.8%(2019年:国民生活基礎調査)と、先進諸国の中では最低レベルです。

ただ、定期的に子宮頸がん検診を受けることで、がんになる前に(前がん状態で)発見できる確率が高まりますし、前がん状態で発見されれば子宮頸部円錐切除という簡単な手術でほぼ完治すると言われています。
手術をしても子宮は残せますし、円錐切除後の妊娠、出産も可能なのです。

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産婦人科を受診した際、どのように診察が進むのか解説しています。

日本では20歳以上の女性に対し、2年に1回の子宮頸部細胞診(子宮頸がん検診)が推奨されていて、受診対象者には、自治体からクーポン券と検診手帳が配布されます。

子宮頸がんは、腫瘍の進行とともに不正性器出血(月経中ではないときの出血)や性交後出血があったり、膿のようなおりものが増えたり、疼痛がみられるようになります。
進行がんになると、直腸や膀胱に浸潤(周囲に染み出るように広がること)し、リンパ節や脳、骨、肺などに転移するなど、発見が遅れれば遅れるほど、子宮の摘出だけでは済まない重篤な状況になっていきます。

定期的にがん検診を受けることももちろん大切ですし、少しでも異常を感じたら、ただちに産婦人科を受診してほしいと思います。

女性のがん第1位 他人ごとではない“乳がん”

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がんができる臓器は多数ありますが、女性が罹患するがんの第1位はなんと乳がんなんです(2018年国立がん研究センターがん情報サービス がん登録・統計)。

しかもその罹患確率は、2016年には11人に1人だったところ、最新のデータでは9人に1人と増加。さらに亡くなっている人の数は、乳がんだけで全国の交通事故死の約2倍にもなっています。

年代別に見ると、発症のピークは40歳代後半と60歳代前半
とくに40代ですと、幼いお子さん、働き盛りの夫、老齢となったご両親などが間接的に乳がんの犠牲となります。ご自身だけではなく、周囲の人たちのためにも、早期発見、早期治療で、乳がんで亡くなることは避けたいものです。

乳がんには、乳房のしこりや痛み、乳首(乳腺)からの分泌液といった自覚症状が伴います。ときには、皮膚が赤紫色になったり、オレンジの皮のように盛り上がったりくぼみができたりすることもあります。

上記の症状がある人は、今すぐにでも乳がん検査を受けてください!

マンモグラフィ・超音波 それぞれの検査の特徴

これほどまでに罹患者の多い乳がんですが、日本では子宮頸がん同様、定期検診の受診率がかなり低い状態です(2016年で44.9%)。しかし、9人に1人という発症率は、他人ごとにはできない高さではないでしょうか。

乳がん検診に関しては、40歳以上の女性に対してクーポン券と検診手帳が配布されています。以降2年に1回の問診とマンモグラフィによる検診が推奨されていますので、機会を生かしてぜひ受診を習慣づけてくださいね。

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▲自治体から配布される「乳がん検診手帳」より一部抜粋。ためになる情報が満載なのでぜひ熟読してください。


マンモグラフィー検診は、乳房専用のレントゲン検査です。
胸を露出していただいたうえで、圧迫板という透明な2枚の板で乳房をはさみ、左右の乳房を別々にレントゲン撮影します。
ちょっと痛いですが(痛みが我慢できなければ、遠慮せずレントゲン技師の方に伝えてください)、圧迫板で乳房を薄くすることにより中が良く見えるようになりますし、レントゲンの被曝量も少なくてすむ検査方法です。

マンモグラフィー検診の結果、悪性の可能性がある場合は「異常あり、精密検査が必要です」というお知らせが届きます。

確率的には、1,000人の受診者のうちの50人から100人ほどが精密検査を行い、乳がんと診断されるのは3人程度です。
ですから、精密検査のお知らせが届いたからといって、がんの発症が確定したわけではありませんので、必要以上に心配することはありません。

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また、超音波検査は、乳腺用の超音波診断装置で超音波を乳腺に当て、はね返ってくる反射波を画像化したデータを用いておこなう検査です。
産婦人科にある胎児を見る超音波診断装置と仕組みは同じなので、痛みはありません。上半身の衣類を脱いでベッドに寝ていただき、検査に必要な乳房以外はバスタオルを掛けます。乳房にゼリーを塗り超音波を出す機器(プローブ)を胸に当て検査します。

乳房超音波では、乳腺内の小さな腫瘤や乳管内の変化がわかります。

ちなみに、「マンモグラフィと超音波、どちらの検診が良いか?」という質問をよくいただきますが、40代未満の方は乳腺の密度が高いため、マンモグラフィと超音波の併用検診が推奨されています。

 病気を理由に送りたい人生をあきらめないために

医療の進歩に伴って、将来の妊娠・出産への可能性を温存するために、卵巣や卵子、あるいは受精卵を凍結してからがん治療に臨むケースが見られるようになってきました。

けれど理想なのは、やはり定期検診の受診を習慣化して、がんにかからない、あるいは早期発見して仕事やライフプランへの影響を最小限にとどめること。
近頃は、晩産化の影響で、妊娠判明後に子宮頸がんや乳がんに罹患していることがわかるケースも増えています。

知識不足や情報不足、あるいは自己過信などによってがん検診を受診しないことが、妊孕性(にんようせい=妊娠できる力)温存の可能性を逃してしまったり、しかるべきタイミングで適切な治療が受けられないといった結果につながらないように、ぜひ日頃から健康知識を身につけるよう意識し、定期的にがん検診を受診するようにしていきましょう。

■ 文/西岡 笑子(にしおか・えみこ)
防衛医科大学校 医学教育部 看護学科母性看護学講座教授。順天堂大学医学部非常勤講師。順天堂大学医学部助教、神戸大学保健学研究科准教授を経て現職。母性看護学・助産学とウィメンズヘルスが専門分野。2児の母でもある。mezame女性研修の監修を行う。

(構成/阿部志穂)

“mezame”は、
はたらく女性の健康とキャリアを
サポートするプログラムです

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女性特有の体調の周期的な変化、年齢やライフステージごとに変わって行く役割、体調、かかりやすい病気…。ウィメンズヘルスをふまえて“はたらく”を考えれば、女性従業員のパフォーマンスは今以上に向上し、女性自身もなりたい自分、叶えたい人生に近づくことができます。

さんぎょうい株式会社が提供する“mezame”は、産業保健師とキャリアコンサルタント(国家資格)がタッグを組み、健康知識とキャリアプランニングの基礎研修に加え、個別のキャリア面談によるモチベーションアップ、ライフステージ別・職級別の健康とキャリアを考えるセミナー等をおこなうプログラムです。

労働損失が5000億円にも迫ると算出されている月経随伴症状。職場全体がヘルスリテラシーを高め、女性の健康に配慮することで労働生産性もあがり、相互理解が促進されることで離職率の低い職場風土を醸成できます。

女性活躍推進施策、健康経営施策の第一歩としても最適です。経営者のみなさん、人事・HRご担当のみなさん、ぜひ一度、ご相談ください!


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