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9歳の哲学者に裸にされる。

なんてものを観てしまったんだろう。
2週間は経つのにいまだに余韻が続いている。気を抜くといくつものシーンに舞い戻り、ああ、あの時彼はなんて言ったんだっけ、どんな表情をしていたっけ、BGMはどんなだっけ…と調べては浸ってしまう。仕事にならない。まいった。。

『カモンカモン』
https://youtu.be/Toy0FjOZ048

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「大人は何事も、”自分がボスだ”と思ってる。
”正しいのは自分”と決めつける人もいる。」

「誰もがストレスを抱えた状態でいたり心を閉ざすのがイヤ。お互いの言葉で話もせずに現実の人生から逃げてるだけ。」

「自分の感情を表そうとすると憎しみをかってしまう 相手をそのまま受け入れようとせず間違った方法でねじ伏せようとする」

「責任を負うべきことが人生には沢山あって 急にそうなって対応できないこともある でも責任を負うことに誇りを感じる 妹が大好きだから」

ホアキン・フェニックス演じるジョニーがインタビューする子供たちの言葉。実際にアメリカ各地の子供たちへ台本無しでインタビューした、リアルな言葉だという。

子供たちの言葉はいつもさりげなく本質的で、屈託なく大人の心の弱いところをギュッと掴む。自分で自分を無視してきた所、蓋して見ないようにしている所、うっすらと漂い続ける罪悪感、後悔、誰かを愛しいと思う気持ち。
この言葉で果たして合っているだろうか、と悩む過程を踏まない、心のままの言葉が私たちをストレートに刺す。

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ウディ・ノーマン演じるジェシー。9歳、という年齢が絶妙なのだ。
最近は10歳を「ハーフ成人式」なんて呼んで祝う文化もある(写真館の策略だと思う)が、年齢が二桁になってからの子供は確かに「あ、違う段階に入ったな」と感じるものがある。これはもう明確にはっきりと。

でも、9歳。勿論赤ちゃんではない。子供たち同士の集団生活の中で様々なものを感じ取っている。右往左往する大人たちを冷静に見つめている。だけどその理由までは分からないし察せない。難しい話を全て理解はできない。だから聞く。

「なぜ結婚していないの?」「なぜパパはいなくなったの?」
「なぜ怒っているの?」「なぜ置いていくの?」「普通って何?」
「なぜ?」「なぜ?」

まっすぐこちらを見据える目を見返して答えるには、見ないようにごまかしていたものに向き合わなければいけないことを知る。

そして、また知ることになる。向き合わずにその場しのぎでごまかしてしまった瞬間、キラキラした目の光がスッと消えること。その積み重ねがそのまま彼らとの信頼関係の幅になること。
だから分かる。ジェシーママの苦労、苦悩が。
予定以上にジェシーを預からなければならなくなったジョニーは、外せないNYでの仕事が迫りジェシーに言ってみる。「NYに一緒に行くか?」大喜びするジェシー。

了承を得ようとした電話口で、ジェシーの母である妹のヴィブは激高する。(セリフうろ覚え)

「NYに一緒に行くかって、ジェシーにもう言ったのね?あの子に言った後に母親に聞いてるのね?」

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そう、子供との口約束を甘く見てはいけない。子供は大人の口約束を100%信じる。だってそれが世界の全てなんだから。
大人の勝手な都合で約束が叶わなかったときの子供の目は、本当に哀しい。あぁ、この子は私の言葉を完全に純粋に信じてくれていたのだ、それを今私は踏みにじったんだ、と。「できるだろう」の見込で安易に子供と口約束をしてはいけない。「行けたら行くね」の合言葉は通用しない、絶対に。

幾度となく子供たちとの約束を安易に反故にしてきた自覚がある私は、首が降り切れるほどうなずくことばかり。ヴィブの肩を抱いて一緒にお茶して話を聞いてあげたい。

挿入されるドビュッシーの『月の光』
ジェシーが寝る前に朗読してあげる本『星の子供』
本当に美しくて、さりげなくて、寂しくて胸を打つ。

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https://youtu.be/-svWS24zOVY
予告をこんなにリピートしたのは初めて。
「いずれ一緒に過ごした日々を思い出せなくなる」
「叔父さんはバカの中で一番のバカだよ」

あぁ、、言葉にならない。もう一度観に行くと思う。

最後に。
9歳のころの娘はジェシーに負けず劣らずの哲学者だった。彼女の様々な言葉を書き留めている。

「決まったことを丁寧にやると、気持ちがいいよ」
忙しすぎて、空の牛乳パックを潰さずにそのままゴミ箱に投げ捨てた私に。

「死んだ後に名前を残すには、この世界は発展し続けてるよ。死んだ後に思いが残れば良いって思う」

歴史上の人物の伝記をいくつか読んだ後。「死んだ後に思想が残る」ってそれもう宗教家の考えだな、と鳥肌が立った記憶。

「世界は平和をオリンピックに頼りすぎてる」
リオオリンピック開会式に興奮するミーハーな私に。

「自分の意見を言うのは大事だよ。でも、むきになっちゃダメだよ」
何だったか覚えていないが、9歳の娘にもはや仕事のコミュニケーションの相談をしていた私…。

「熊をつかまえてなつけてサーカスに売り飛ばす」
漢字ノート「熊」の自作例文。突然の野伏キャラに笑う。

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もうすぐ14歳の彼女は今、TikTokがどうの、部活の先輩がどうの、と毎日忙しそうに暮らしている。

あの頃の神がかった言葉たち、こちらを丸裸にするような、思わずこちらが「うっ。」と唸ってしまうようなさりげないフレーズはもう出てこない。
あの頃の娘ともう一度話がしたいな、と思いつつも、一緒に過ごせる限りある時間をできるだけ大事に、したい。

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