魅力的な映画を作るためのレンズ使い
今回もこちらの動画をベースに複数の動画を使って解説していきたいと思います。
この記事を読む前に、レンズの見え方の基礎を説明したこちらの記事もお読みください。
エクストリームワイド・ショット
18mmや24mmレンズを使用したショットのことを指します。
基本的にはロングショット(LS)やエクストリーム・ロングショットなどの風景映像等に使われます。
こちらは奥から手前まではっきりと映る為、意図ある完璧なコンポジションが可能であるとともに、登場人物たちが置かれた環境を風景の中に当てはめることで、詩的な世界観を作り上げます。
エクストリームワイドが多用されているのが、『レヴェナント: 蘇えりし者』
こちらは人物のクローズアップ(CU)と併用することで特殊な効果を生み出します。この映画では主人公の置かれた過酷な自然環境が登場人物の神経や物語の困難さを象徴するため、主人公のCUと自然の対比は大変重要になるのです。
また、mm数が少ない場合は近い被写体に歪みが出ることを学びましたね。そちらをフィッシュアイ効果と言います。この歪みを逆手に取りキャラクターの強迫観念や不安定な精神状況を表現する場合に使用されます。
おそらくレンズの "歪み" を使い、登場人物たちが精神的に追い込まれる様子を最も効果的に表現しているの映画の一つがこちらの『レクイエム・フォー・ドリーム』でしょう。
さらにこの歪みを強調するのが魚眼レンズです。
上記で言及したように、この歪みは登場人物の精神世界や強迫観念と連動することが多く、クローズアップ(CU)と多用されます。
ロングショット(LS)/ ワイドショット(WS)で使用することで、新たに視覚的な意味づけを与えたのがこちらの映画。『女王陛下のお気に入り』
LSで魚眼レンズを使う場合は、重要なのは冒頭からそのショットが登場し、きちんと意味を持ってそのショットに切り替えることです。
よくよく、この映画のショット分析をしていくと、使用例としては
1. 異常な世界への導入、導き(シグナル)
2. 歪な関係性への隠喩
となっております。
こちらの冒頭シーンを見ていただければわかるように、最初に魚眼レンズが登場するワイドショットは主人公が城へと向かう道中の馬車のショットです。基本的に登場人物の精神表現、登場人物が置かれる状態へのシグナルとなっています。
このように、視覚的違和感は狙って使うことで、よりその世界観を豊かにしたり、登場人物の精神状況を強く表すことができます。
ワイドアングル
24mmと35mmのレンズを使ったショットです。
こちらもワイドショットを撮影する際に多用されます。エクストリームとの違いは登場人物の行動や感情までが理解できるディテール(大きさ)を表現できること。
またトラッキングショットを撮影する場合は大抵24mmか35mmを使います。
長回しのトラッキングショットの効果は登場人物がどのような場所を移動するか、その工程を経て、登場人物の置かれた環境、他のキャラクターとの関係性やその変化を表現することです。そのため、背景がしっかりうつるワイドアングルと登場人物のディテールがしっかり捉えられる、この24mmと35mmのが最適になります。
また技術的な観点でも、これ以上長いレンズになるとフォーカス合わせが大変になります。常に動き回るオブジェクトに焦点を合わせ続けるのはかなりの高等技術になります。そのため、トラッキングショットで最も一般的に使われるのがこちらになるのです。
また、ワンショット、ツーショットで使用する場合はキャラクターの精神的な距離をも表現します。
こちらを見ていただければわかりやすいですが、ワイドレンズであればあるほど、冷たく、被写体と観客、または会話相手との心理的距離が離れたように感じます。その反面、望遠で撮られた画像は親近感とオブジェクトに対する親密性を感じさせます。
この様に、登場人物が対立するシーンで使用することで、キャラクターたちの心が離れていく過程をより強調して表現することができるのです。
スタンダードレンズ
35mm~50mmの間のレンズをいいます。このレンズで撮られた動画は最も観客が自然に感じます。そのため、ナチュラルさを表現する際に使用されます。
こちらは『君の名前で僕をよんで』ですが、こちらの映画は意図的に35mmのみで撮影されています。
それは主人公たちの関係性の変化をより自然に、当然のように表現する工夫とも言えます。
また、即興演出と言われる撮影でも、このスタンダードレンズが使用されます。当然、即興なので役者の演技にカメラマンは合わせることになります。クローズアップ(CU)からワイドショット(WS)まで自然に見えるこのスタンダードレンズは観客に視覚的違和感を与ることで役者の演技表現を邪魔することを防ぎます。
望遠レンズ
70mmレンズ以上のことを指します。
最も一般的な使用方法はPOVによる対象物の観察です。
また、望遠レンズの最大の特徴は空間の距離を縮めること。
実際にはこちらのシーンは登場人物と航空機との距離がかなり離れています。望遠レンズは背景の映る範囲が狭くなることで、背景を大きく見せることができるため、実際にはかなり離れている、これらの被写体が距離の近い迫力ある画面になります。
また、同じ理由から、このような人が大勢いるようなシーンを表現したい場合は望遠を利用します。そうすることで、密度のある映像が撮れます。
望遠×遠景の場合は以下のような効果が生まれます。
こちらは名作『卒業』の走るシーンです。このシーンでは望遠レンズが使われていることで、画面が究極にフラットになり、主人公が走っても、走っても中々移動している様に見えません。その視覚効果によって、主人公の置かれた絶望的な状況を表現すると共に"無駄かもしれない" という心理を観客に与えるのです。
その逆に望遠×ミドルショットorクローズアップ×カメラムーブメントの場合は躍動感を与えます。
その理由は映る背景の狭さ。背景が狭く映るということは、その分、背景が変化するということ。背景が変化すると言うことは、登場人物が早く動いているように見えるのです。そのため、戦闘シーン等ではこと撮影方がよく使用されています。
また、こちらの動画ではポン・ジュノの『母なる証明』にて使われた
望遠×ポートレートの組み合わせで生まれた最高のエンディングについて詳しく解説されているので、チェックしてみて下さい。
マクロレンズ
マクロレンズは一般的に被写体のディティールを映すときに使用します。
ディティール=情報です。
こちらは登場人物が得た情報を観客にきちんと提示するor逆に登場人物が気付かずに観客のみに提示する際にも使われます。
大事な使用上の注意点は倍率とフォーカスです。
倍率が1×1の場合は現実世界と同じように見えます。
しかし、5倍の場合はこの様に新たな世界観を生み出します。
倍率が上がれば上がるほど、被写界深度が浅くなりピントを合わせるのが難しくなります。
またマクロショットには2パターンあり、15mmを使用する方法と、逆の200mmを使用する方法があります。
左が望遠マクロ、右がワイド・マクロと言います。見え方がずいぶん違いますね。
さて、こちらの動画では最後の部分に各レンズで撮影された会話シーンを紹介しています。こちら、比べることによって、よりレンズによる演出への理解が広がりと思います。