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俳優演出【入門】:【オブジェクティブとスーパーオブジェクティブ】補足

前回【オブジェクティブとスーパーオブジェクティブ】について説明しました。

基本として

①【オブジェクティブ/目的】は1シーン又は1シークエンスごとに各登場人物が1つづつ持っている事。

②【スーパーオブジェクティブ/大きな目的】は各キャラクターが映画全篇を通して1つづつ持ってる事。また【スーパーオブジェクティブ】は時に登場人物の人生目標に置き換える事が出来る。

これらを踏まえて【オブジェクティブとスーパーオブジェクティブ】を設定する際の注意点があります。

①【オブジェクティブ】は必ず1度に1つである事。

同時に複数、同じ登場人物が持つ事は出来ません。

②【オブジェクティブ】はシンプルかつ端的である事。

『恋人においしいごはんを食べさせる』
『貸した金を取り戻す』
『友人2人を仲直りさせたい』
など、必ず端的で 分かりやすく設定します。

実はどんなに複雑に見えるシーンでも、面白い作品、良く書かれた脚本は分析していくと必ずシンプルかつ端的な目標が設定されています。1本、お気に入りの洋画を選んで分析してみて下さい。各シーン、又は各シークエンスごとに、登場人物が何を【オブジェクティブ】として行動しているのか分析してみましょう。映画の基本は分析から始まります。まずは1本、映画を分析してみましょう。すると、自然と自分の作品の【オブジェクティブ】設定が出来るようになってきます。

ちなみに、その目的が必ず成就される訳ではない事を覚えておきましょう。
シーンの終盤等で【オブジェクティブ】が達成されない事が明らかになったりします。そう云う時に登場人物に変化が訪れます。その変化によって【オブジェクティブ】分析が分かり辛くなっている事がありますが、それに惑わされないようにしましょう。原則は常に同じです。

③【オブジェクティブ】は必ず、ポジティブ形で書く事。

文章には必ずポジティブとネガティブが存在します。
ポジティブとは肯定形として書かれている文章であり、ネガティブは否定形で書かれている事を言います。

例えば、登場人物Aの【オブジェクティブ】は?と、問われた場合
『恋人に嫌われたくない』と答えればネガティブ系になります。では、どのように【オブジェクティブ】を設定するのか?それは『恋人に好かれたい』とポジティブ形で書くのです。

実はどちらも同じ意味ですが、大事なのはここに置ける
【オブジェクティブ】は動機でなければならないということ。

『恋人に好かれたいから』→言いたい事が言えない
『恋人に好かれたいから』→同意してしまう


『恋人に嫌われたくない』→言いたい事が言えない
『恋人に嫌われたくない』→同意してしまう

これらは一見全く同じのように見えますが、後者は動機になりません。なぜならネガティブ形は受け身になってしまうからです。受け身と言うことは動機ではありません。以前、言及しましたが人間は常に何かを考え、行動しています。常にです。

『恋人に好かれたいから』という【オブジェクティブ】だと『恋人に好かれる為』の行動に常にチャレンジする事が出来ます。例えば演技の間や、他の演者同士の会話の時にどのように行動するか…など、このようにシナリオには書かれていないけど、必要な演技は山ほどあります。そんな時、役者はポジティブな【オブジェクティブ】に向かって行動出来るのです

また動機はある程度の強さがあるから動機と言うのです。それは演じる役者にとってもそうです。強く明確な【オブジェクティブ】がないと何をすればいいのか分からなくなってしまいます。
ネガティブ形の場合は受け身になってしまい、シナリオに書かれていない時に何をすればいいのか曖昧になってしまい、演技が曖昧になってしまうのです。

これらの基本を踏まえて【オブジェクティブ】設定をしていきましょう。
また、これらの決まりは【スーパーオブジェクティブ】も一緒です。

最後に、先ほど分析を進めましたが、おススメの映画があります。
それは黒澤明の『生きる』又は『天国と地獄』です。

日本映画はこれらが不明瞭である場合が多いのですが、黒澤映画は別です。
以前、キューブリックの『シャイニング』について言及しましたが、あちらが映像とモンタージュを駆使した作品だとすれば、黒澤映画はシナリオのテクニックを最大限に生かした映画を作っています。
大変に明快で分かりやすい上に、ドラマとしても完成度の高い作品となっていますので後学の為にも是非一度分析する事をお勧めします。(『天国と地獄』は登場人物が多く構成も複雑なので初めて分析される方は『生きる』の方が良いかもしれません)


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