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俳優演出【入門】:【動詞指示】①

さて、前回【チェンジング・ポイント】という新しい言葉が出てきましたが、これについてはシナリオ講座:中級編にて解説したいと思います。

前回【オブジェクト指示】について解説しました。


それ以外にカッコ内に書かれた【動詞指示】について解説していきたいと思います。

まず、なぜ【オブジェクト】が重要なのかを解説します。

すでに皆さんもご存知のように形容詞の指示は映画では禁物です。
その為、シナリオにも形容詞は書けませんでした。
というのも、形容詞は目で見えないからということを学びましたね。

この "見えない" と、関連して俳優演出で御法度なのが "自己完結" で終わってしまう指示です

例えば "納得する" という指示です。
"納得する" という行為は外的要因を経た上で結果として生じるものです。
また、根本として "納得する" という行為は "納得していない" という状態を経て行われる行為です。ということは、本来最初のオブジェクト指示は "相手に反対する" という行為から始めなければなりません。

そもそも、映画はドラマ=葛藤によって成立します。ドラマについての詳しい解説もシナリオ講座:中級編にてしたいと思います。

葛藤とはもちろん、2人以上の人物の間に生じたものとなります。
というのは、自己の葛藤とは絵に見えないからです。1人の男が何かに悩んでいても、映像には男がただ突っ立って難しい顔をしているだけで、理由も原因もわかりません。

では、目に見える形とはどのような状態でしょうか?
それが、セリフであり、行動です。そして、登場人物の意図が明確に見える第三者、又は自身の外に向けて登場人物が起こすアクションということになります。
そして、そのアクションは【スーパーオブジェクティブ】と【オブジェクティブ】に沿った形で表されます。そして、そのアクションに必要な指示こそが【アクション=動詞指示】です。

それでは、例を見ていきましょう。

⚪️Aの家 玄関/午後10時頃/内
 鍵を開けてAが入って来る。手にはカップラーメの入ったコンビニの   
 袋。(一刻でも早く休みたい)
 うっすら開いたキッチンの扉から灯りが漏れている。驚くA。驚て静かに
 様子を探る。(状況を確認する、身の安全の確保する)
B「お帰りなさい!」
 キッチンの扉が開き駆け寄ってくるB。(相手を観察する)
A「びっくりした…。今週は仕事で忙しいんじゃなかったの?」(追求する)
B「ちょっと手が空いたから。(Aの荷物を引き取り、キッチンに戻りながら)どうせ、あなた、忙しさにかまけてロクな物食べてないんじゃないのかと思って、作りに来ちゃった。」⭐️
 A靴を脱いで、Bの後についてキッチンへと向かう。(感謝を伝えたい)


これらの、指示は全て対外的に行動を移すことができる動詞指示となります。よく勘違いされるのが 【ゆっくりあるく】や【振り向く】などの動作指示です。
これは、ダメです。
もちろん、絵的に必要な時には指示します。が、本来必要な指示は『なぜ、ゆっくり歩くのか』『なぜ、振り向く必要があるのか』という、根本的な原動力となる指示です。

【ゆっくりあるく】なら "引き止めて欲しい" "相手に見つかりたくない"
【振り向く】 なら "相手から逃げ切る" "相手の真偽を確かめる"
などといった、動機を想定する動詞を使って指示するのが【動詞指示】なのです。

そもそも、なぜ動作指示がダメなのかというと、動作指示を出された場合、役者は手順ばかりに頭が行き、感情を作り込む事ができません。細かな動作指示は実は感情の流れの切断や混乱を招く結果になるのです。監督はまず役者の感情を引き出した上で、その流れを止めないように、意のままに役者が動作するように導いて行くのが仕事なのです。

ただ 【ゆっくりあるく】や【振り向く】だけなら誰にでも出来ます。
しかし、我々監督が求めているのは演技です。しかも、高度な感情の伴った演技です。

【ゆっくりあるく】というのは、あくまで演技の結論であり、方程式も計算の仕方も知らない役者が答えだけ聞いても、そこにたどり着く事はできないのです。

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