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かっこいい奥の細道

皆さんは、興奮して鼻血を出したことがあるだろうか。そんな漫画みたいなことは実際には起こらないと思うだろう。ただ、私は、ある。

国語の授業中、初めて奥の細道の序文を読んだ時、あまりのかっこよさに鼻血を出した。だから私の国語の教科書のこのページは血で染まっている。

【月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。】から始まる序文、まずリズムが心地よい。

特に私が好きなのは、【そゞろ神の物につきて心をくるはせ、道祖神のまねきにあひて、取もの手につかず】の部分、芭蕉の高なりがダイレクトに伝わってくる。読むスピードも何故かぐんぐん早くなる。この文章の上に私は音楽記号のaccel.が見えたくらいだ(accelerando だんだん速く)。

そして、私が鼻血をだした最後のフレーズ、【面八句を庵の柱に懸置】。歩き出す、というような言葉で終わらない、まさかの"懸け置く"。

この文で、柱にかけられた一句に視線がぐっと寄る。映像が一句にぐっと近づく。じっと見る。そして、ふと気づけば、もうそこに芭蕉はいない。しんとした静寂。耳を済ませばもう遠くに聞こえる足音。

この格好よさが、当時の私にはたまらなかったのである。

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 月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。舟の上に生涯をうかべ、馬の口とらへて老をむかふる者は、日々旅にして、旅を栖とす。古人も多く旅に死せるあり。
 予もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず、海浜にさすらへ、去年の秋江上の破屋に蜘の古巣をはらひて、やゝ年も暮、春立る霞の空に、白川の関こえんと、そぞろ神の物につきて心をくるはせ、道祖神のまねきにあひて取もの手につかず、もも引の破をつづり、笠の緒付かへて、三里に灸すうるより、松島の月先心にかかりて、住る方は人に譲り、杉風が別墅に移るに、

  草の戸も住替る代ぞひなの家

面八句を庵の柱に懸置。

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