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めんどくさがりなきみのための文章教室

  ある日、書店をぶらぶらしていたら、話題書籍のコーナーで懐かしい名前に再開した。

「はやみねかおる」


児童書のコーナーに足を踏み入れなければ、なかなか出会わない名前。
大人になってからは、すっかり疎遠になっていた名前。
児童書籍の作家さん。本当に懐かしい!!!



小学生のころ、この人の本が大好きだった。
というか。同世代で子どものころから本が好きだったという人は、八割型この人の本を読んで育ったのではないかと思う…

よく、noteで「私の読書遍歴」みたいな記事を見かけるけれど、結構な確率で登場してくるのが「「青い鳥文庫」が大好きだった。」という言葉だ。

講談社から出ている子どもむけの文庫で、私ももれなく大好きだった。
たぶん、4,50冊は家にあった気がする…
大人になるにつれ、少しずつ処分してしまったけれど。
本当に好きな話はまだ手放せずにとってある。

もちろん、はやみねさんがかいていた「夢水清志郎の事件ノート」シリーズも残してある。これでミステリーをよく読むようになった。


 そんな、一時代にとても身近にいた人が書いた文章の本。

「めんどくさがりなきみのための文章教室」

読みたくないわけがない~。
いつの間に実用書を書くようになったんだろうか。


 奇しくも、最近文章の書き方の本を読み漁っていたのだけれど。
「この本を読んで初めてあなたのことを知ります…」って感じで読む本よりも、各段に信頼度が高い。
 私ははやみねかおるさんの作品が、どういうスタンスで展開されていたかを覚えている。とても信頼できる人であることは明白だった。

挿絵がいっぱい入った本で、「こども向けかも...」という不安はあったけれど、読んでみることにした。



 文章を書くのが苦手な文岡健君が、マ・ダナイという不思議なしゃべる猫に、文章スキルを教わる、という形でこの本は進んでいく。
文章で説明というよりは、かわいい絵を交えながら、主人公と猫の会話のやり取りで、書き方を学んでゆく。

 本を読むのが苦手な人にも読みやすく、文章の書き方についても、原稿用紙の使い方や、句読点の打ち方など、超初歩的なことから説明されている。


 今時、原稿用紙???と思ったけれど。
そうか、小・中学生は作文を手書きで書くもんね。


やっぱりこども向けなのかなー。。

すこし見当違いの本だったかなと心配になった。 
けれども、そんな心配は読み進めるほどに消えていった。



 ギャグなどを交えながら、ゆったりした雰囲気で内容は進むけれど、たまにダナイが見せる鋭い真面目さがとてもはやみねかおるさんっぽい。



 中学2年生の抱負を作文にかくよう言われた健。抱負なんてない。

「でも、作文に正直な気持ちを書いたら怒られるじゃないか。」

という健に、

「本当は、怒るほうがおかしいんだけどね…」

と、学校の在り方をなんとなく批判するような一文が入っていたりする。
(はやみねさんは元小学校教師。)
全体はふんわりしていて、常にギャグ調なんだけれど、腑としたところで、ぐさっとくる、もしくは深読みしたくなる一文が入る。


私が読んでいた物語も、いつもそうだった。
表にみせている顔は、僕なんてね~全然ダメなんだよ~みたいな感じなのに、たまにものすごく真面目で深みのある、地の顔が見えてくる。


 後半になると、文章の書き方をある程度マスターした健が、ダナイの「小説の書き方講座」に進む。

「小説家なんて誰でもなれる。でも、小説の仕事だけで食べていくのは、とても難しいことなんだ。」
「ここから先は、普通の文章トレーニングじゃない。プロの作家になるための修行だからね」

と、急に神妙な雰囲気になって、それなりのリアリティがある。


 いろんな人の文章の書き方の本を読んでみて気が付いたのだけれど、やはり小説を書くことと、エッセイを書くこととでは、出発点は同じでも、スキルがまったく異なる。

 世に多くあふれている文章の書き方の本は、ほとんどがビジネス文、エッセイやコラム向けだ。おそらくこれは「普通の文章」にあてはまる。
小説を書くということは、そのまたうえのレベルのようだ。

 これは習うものじゃないな~いろいろ経験して吸収するしかないなーと思って、文章術の本は今まで避けていた。
最近になってやっぱり勉強も必要だよねって、今更慌てて読んでみた。
けれども、結局あれこれ読んでみたら、その考え方は間違ってなかったのかもしれない。

何かを書こうとするときに一番大切なのは、書き方のテクニックではない。

心が震える。それは、感動を超える感動。
そして、心が震えたとき、「この気持ちを、他の人にもわかってもらいたい。誰かに伝えたい!」という熱い気持ちが生まれる。


そういう気持ちがないと、さいごまで書けない。
心が震えるためには、
「たくさん読まなければならない」「たくさん観なければならない」。
結局そういうことなんだよなーと、この本でかなり納得して、初心に帰ってきた心地がした。

まだそういうものが書きたいかなんてわからないけれど。


 小説の書き方講座は大人の私でも勉強になったし、子どもにも理解しやすいと思う。

いきなり、プロの作家なみの分量で書こうとするのではなく、はじめは原稿用紙10枚くらいの規模で始めたほうがいいよ、サブキャラは5人までにしたほうがいいよ、とかかなり定量的に定めてくれる。


小学生時分、短編小説という存在を知らずに、「本当の本みたいに書くなら100頁くらい必要だよね…」と内容より体裁を気にして、何とか分量を膨らまそうとしていた私に読ませてやりたい(笑)



 もしかしたら、私みたいに書店で見かけて気になったけれど、「子どもむけかも…」という理由で買うのを躊躇した人もいるかもしれない。
だけど、読んだわたしから言わせてもらうと、気になるのなら絶対に読んだ方がいい。子どもの頃、はやみねかおるさんの本が好きだった人なら、きっと後悔しないと思う。

あとがきで懐かしさが爆発した。

文章の締めくくりに、こんな文句が書いてあったからだ。


Good Night, and have a nice dream…

そう、はやみねかおるさんのあとがきはいつもこの文で終わる。
そういう「お約束」だった。

当時は英語も習っていない小学生。
全然読めなくて、ルビを見ないと読むことができず。

ぐっとないとあんどはぶあないすどりーむ…

どこで区切るかもよくわからない、呪文みたいな言葉だった。
でも、今見ると簡単な文だったんだなぁと思う。

それから、完全に忘れていたけれど、あとがきにはいつも息子さんと奥さんへの謝辞が書かれていた。
当時は、「まだ小さな息子たちへ…」という感じで、うんと小さかったような覚えがあるのだけれども、また同じように書かれた謝辞を見て驚いた。

二人の息子さんは、学校の先生と大学生になってる!!!

 当然と言えば、当然なのだけれど。
それだけの時間が流れてしまったことの実感と、それだけの時間が経とうとも、変わらずにあとがきに息子さんたちを登場させているところに感動してしまった。


 懐かしさでいっぱいになって、子どもにかえったような感覚と、書くことへの励まし、小説家へなることへの過度な期待を書き込んでいない誠実さ。

とても軽い感じで書いてあって、ものすごく深いストーリーがあるわけではなく、あくまでも実用書なのに。

ずっしりと気持ちの良い読後感があった。


子ども、大人問わず、おすすめの一冊だ。








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