ゴーグルなしで没入可能なメタバース、大企業から評価 米Pixel Canvas CEO・Joey Lee氏【Web3の顔】


米Pixel Canvasによって開催されたバーチャルイベントの例:Loeb Awards 2020 著名なビジネスや経済ジャーナリズムに送られるジェラルド・ローブ賞の授賞式

米Pixel Canvasは、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、トヨタ自動車や韓国のLGエレクトロニクスなど大企業が開くバーチャルイベントやブースを支援するWeb3のプラットフォームを築いた。そこでは人々が、美しい映像でゲーム化したメタバースに参加してポイントやNFTを得ることができる。最高経営責任者(CEO)のJoey Lee氏に、サービスの特徴や課題を聞いた。

■VRゴーグルなしでも没入できるメタバースイベント

――Pixel Canvasが手がけているメタバースのサービスを教えてください。

Pixel Canvasは2018年に設立し、「レイコ(Reiko’s Fragments)」というVRゲームをヒットさせました。日本のお屋敷に住むレイコの呪いに遭遇していく設定で、プレーヤーは、屋敷から逃げ出さなければなりません。アイテムのボタンを押す度にプレーヤーが絶叫したり、驚いて飛び上がったりするホラーゲームです。

ところが、コロナによるパンデミックが起きて、全ての対面イベントがバーチャルになりました。そこで、IBMなど大企業のためのバーチャルブースをデザインし始めたところ、大きな市場が生まれる可能性があるとひらめいたのです。20年4月ごろから韓国のLGエレクトロニクス、米ベライゾンなどの大型バーチャルイベントを次々に手掛け、200万ドル(約2億8000万円)の売り上げを達成しました。当社は、世界中のブランドに双方向性がある3Dのプラットフォームを提供する企業となり、それはまさにメタバースでした。

――他のバーチャルイベントに比べて、どこが違うのですか。

私は、人々がラップトップやスマートフォンでバーチャルに参加しても、美しいイベントの中にいるような感覚に没頭できる環境をクリエートします。企業ブースイベントから会議、授賞式、DJパーティーにいたるまで手がけています。その積み重ねで、24種類のイベント環境と、脱出ゲームを主とした35のエンドゲームを作り出し、気がついたらそれがメタバースのライブラリーを築いていたのです。

VRゲーム「レイコ」の経験があったため、人々が毎分楽しめることに焦点を当てた環境を作ってきたのが功を奏しました。参加者のエンゲージメントが上がるし、NFTを集めるのに夢中になれるような仕組みを作りました。

■NFTはゲームの獲得物に意味を持たせる

――NFTとはどうつながっているのですか。

脱出ゲームの場合、コインを集めていると脱出につながるスペースへと導かれます。脱出までの時間が早いほど、リアルなご褒美、あるいはNFTを得ることができます。だから、ゲームで刻々と獲得していくもの全てに意味があるのです。

また、例えばLGの冷蔵庫を買おうとしたとします。私たちが生んだバーチャルなLGキッチンは、フォトリアリズムを使い、ゲーム化されているので、通常ショッピングの参考にする公式サイトに行かないでも楽しめます。そのキッチンには、リアルに見えるオーブンや冷蔵庫などの家電が並び、人々は歩き回って、製品について学ぶボタンをクリックしてポイントを稼ぎます。製品について説明してくれる担当者とビデオチャットもできる、リアルな世界に近いものです。でも、集めたポイントで招待旅行に行けるというクールな仕組みもあります。

――LGなどブランド側にはどんなメリットがあるのでしょう。

消費者のエンゲージメントを高められることです。最近は、人々の注意力が続く時間が短くなってきています。スマホをスワイプし続け、TikTokの6秒間ビデオを見るという具合で、ウェブサイトにはエンゲージメントを高めるための十分な機能がありません。

LGキッチンでは、Web2の世界のようにショッピングもできます。でもモールで本物を見るような感覚で歩き回るというWeb3の要素を加えるだけで、ユーザーエクスペリエンスが向上し、エンゲージメントも上がります。さらにLGは、オーブンをNFTにすれば、Web3でのプレゼンスも得られます。私たちのプラットフォームは、大企業のブランドを支援するメタバースなのです。

――バーチャルイベントに参加する人々は、特別なソフトウエアが必要ですか?

必要ありません。技術的にはブラウザーベースです。スマホでも15年もののラップトップでも、インターネット接続さえきちんとしていれば、ソニーグループのゲーム機「PlayStation5」並みの映像が得られます。

――今後の課題は何でしょう。

今のところ当社はまだ認知されていない企業といえます。しかし、私たちが、最も洗練されて高品質なメタバースのプラットフォームを提供していることは、過去に支援した大企業の人なら知っています。これはやりがいがあります。バーチャルイベントという成熟したマーケットにおいて、すでにかなりよい収益を得るという戦いに勝ってきた実績があるからです。6月に米ニューヨークで開催された世界最大規模のNFTイベント「NFT.NYC2022」では多くのベンチャーキャピタルや、香港のブロックチェーン企業Animoca Brands(アニモカ・ブランズ)とも交渉しました。当社は現在、急速に成長しているため資金も必要です。

私たちは、フォートナイトやThe Sandboxもかっこいいと思います。しかし私たちは、若い人々だけをターゲットにしているのではありません。大人がゲームをして遊ぶだけではなく、2000ドル(約28万円)のキッチン家電を買うというリアルなお金につながるプラットフォームを提供しているのです。

津山 恵子(つやま・けいこ)プロフィール
ニューヨーク在住ジャーナリスト。
東京外国語大学卒、1988年共同通信社入社。福岡支社、長崎支局、東京経済部、ニューヨーク経済担当特派員を経て2007年に独立。Facebook(現Meta)のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)、Instagram 創業者ケビン・シストロム氏、ノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイ氏、YouTube共同創業者スティーブ・チェン氏、作曲家の坂本龍一氏、ジョン・ボルトン元米大統領補佐官、ジャシュ・ジェームズ米DOMO創業者などの著名経営者を単独インタビューしてきた。著書に「モバイルシフト」(アスキーメディアワークス)、「よくわかる通信業界」(日本実業出版社)など。日本外国人特派員協会(FCCJ)正会員。