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今こそSCREAM!!

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“metanoteシリーズ”の最初のオリジナルストーリー、 『今こそSCREAM!!』という作品になります✨ 約2年間、誰もが感じてきた自分を表現すること、 人と繋がることがで…
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#物語

【第13話】 音を立てて “再生” ボタンが押された、そんな気がした。

 マリンは自分の中で動き出した何かを感じながら、深く息を吸い込んだ。 頭の中では、キラーAの言葉がぐるぐると巡っていた。  「どこかへ行きたいって、なんで思うのか。どうして今の場所じゃダメなのか。新しい場所に行けば、きっと見たことない自分に会えるって思ってるからじゃないかな」  そうだ、ずっと思っていた。どこか知らない遠くへ行きたいと。  それは見たことない自分に、新しい自分に会いたいっていう気持ちだったんだ。  「つまり、変わりたいってこと……。アキも一緒だったんだね」  

【第12話】 息を吸うのは吐き出すため、大声で叫ぶためだ

 ステージの上で何かトラブルが起きたみたいだ。  小突きあったり掴みかかったり揉めているのが、離れたところからでもなんとなくわかった。順番にステージに上がっていた客のマイクの取り合いがきっかけらしい。  「あ〜あ、盛り下がっちゃった」  「何ケンカしてんだって感じ。せっかく楽しかったのに」  近くでそんな声が聞こえてきて、マリンは心にチクっと何かが刺さった気がする。みんな一緒に楽しんでたのに、なんか自分のことばっかり。  SNSでも感じることがある。みんなつながりを求めている

【第11話】 新しい場所なら、きっと見たことない自分に会える

 ステージに上がって思い切り叫んでいる人たちがなんだか楽しそう、と思ったのは事実だ。だってなんだかみんな達成感に満ちた顔をしているのだ。  だけど、じゃあ自分が同じようにやってみるかと言われると、話は別だ。そんなことできない。隣にいるアキを見ると、彼はまたしても両手をクロスさせ×を作っていた。ほら、やっぱり彼だって同じだ。  なのにキラーAは、「そう? 二人とも上がりたそうだけどな」と言うのでマリンは思わず、「なんで? どこがですか?」と語気を強めてしまった。アキも目をまん丸

【第10話】 ステージで叫んだ人たちは、みんな晴れ晴れとした表情だった

 しばらくたって、制服の男子が作ったバツの意味がわかってきた。どうやら今日のイベントは、バンドが出てきてライブをするのではないらしい。  DJが流す音楽をバックに、集まった人たちが次々にステージに上がっていく。そして順番にマイクを持つと、好きなことを叫んでいた。これはお客さんもステージに上がる人も境のないイベントなんだ。  中には、マイクを持たずにただ絶叫しているだけの人もいる。それもありのようだ。  マリンは、その様子をしばらく呆然と見つめていた。ステージで叫んだ人たちは、

【第9話】 音楽って魔法だ、一瞬で世界を変えてしまう

 え、なんで?無視しなくてもよくない? 思い切って声をかけたこともあって引き下がれないのと、ここで彼に見放されたらますます居場所がなくなってしまう気がして、マリンはもう一度声をかけることにした。  「初めて来たんだけど、ここ不思議だよね。どうやって知ったの?」  しかし男子は、振り向いたもののまたしても返答なし。  「ちょっと!」彼に向けた言葉が2回連続で虚しく宙に浮き、さすがにそう言いそうになる。  だがその時、彼がメモに何かを書いてスッとマリンに差し出した。  「え、なに

【第8話】 ここにくれば何かが変わりそうな気がした

 やっぱり、ってどういうこと? 彼の言葉とちょっと見透かしているかのような微笑みにマリンはなんだか恥ずかしくなった。  興味ないですって言いながら、実はどこかで気になっていたのがバレていたのかと思うとちょっと悔しい。  男はキラーAと呼ばれていた。恥ずかしさをごまかしたくて「あなただって相当怪しいですよ!」とか言いそうになったけど、その言葉は飲み込んだ。  ここにくれば何かが変わりそうな気がしたのだ。というと大げさかもしれないけれど、なにかきっかけになるかもしれないと思ったの

【第7話】 海の深くへと潜っていくような緊張感が心地いい

 マリンが “SCREAM!!” の前にやってくると、今度はシャッターが開いていた。 開かれたままのアリスの扉に少し屈むようにして入ると、階段を降りていく。  コツンコツンと足音が響くたび、マリンのドキドキは大きくなった。  この下に、いったいどんなことが待っているんだろう。なにもわからない知らない場所、まるで海の深くに潜っていくような緊張感が妙に心地いい。階段を最後まで降りきると、「受付お願いします」とスタッフらしき女の人に声をかけられ、えっ、と動揺する。  だが、名前と年

【第6話】 全開なんて無理だけど、ほんの隙間くらい心を開けておいてもいいんじゃないの

 「アキって、そういうとこあるよな」  放課後、教室のベランダに出て下校する生徒たちの姿を見ていると、横にいたモリヤがそう言った。  「そういうとこ?」とアキが聞くと、モリヤはグランドを見たまま、なんか他人を寄せつけないっていうか壁を作るみたいな……そういうとこ?と言った。  モリヤとの出会いは中学に入り、同じクラスになったことだった。出席番号で並んでいたことから話すようになり、背の高さや体格がほとんど同じように成長したこともあって、なんとなくそのまま一緒にいるようになった。

【第5話】 引き出しから漏れる光は、抑えきれない好奇心のよう

 「なにこれ……光ってる……?」  今まで真っ白だったはずのカードが、CDのようにキラキラといろんな色を湛えながら、光を放っていた。カードにはQRコードのようなものが浮き上がっている。  「連絡するってこういうこと!?」  マリンは、気づくとそれを読み込ませようとしている自分にハッとして、いやいやいや、ダメだダメだ、と慌てて止めた。確かに、あの男の人はなにか危害を加えるような怖さはなかったし、悪い人ではない気がしたけれど、あんな、シャッターの奥に地下へと続く小さなドアとかどう

【第4話】 “再生”ボタンを押して音楽を聴くのが好きだ

 マリンの部屋には両親から譲り受けたCDとプレーヤーがある。  もちろん、音楽はスマホから好きなだけ聴くことができるし、YouTubeなら曲だけでなくMVだって見れる。  だけど、プラスチックのケースからCDを取り出し、スーッと機械に飲み込ませると、“再生”ボタンを押すのがマリンは好きだった。  今日はあの曲が聴きたい、と決めている時もあれば、ただその時の気分で、可愛かったり目を引くデザインの一枚を引っ張り出したりもする。  「この辺は全部ジャケ買いなんだよね」いつだったか、

【第3話】 どんより雲が広がった夕方の空は、大人になっても変わらない

 「先生には僕の気持ちはわからないと思います」  最近様子がおかしいからと放課後教室で話しを聞こうとした男子生徒にそう言われ、本村はドキッとした。それは自分が高校時代、教師に対して思っていたこととまったく同じセリフだったから。  こういう時、だいたい次にどう言われたかも覚えている、そして今度は自分がそのセリフをなぞってしまいそうな気がして、ギリギリのところで踏みとどまる。  「俺も高校の頃はそんな風に思ってたから、無理にとは言わないけど」そう前置きをして、窓の側に立っている生

【第2話】 来たことのない道に迷い込むと、なぜか嬉しくなった

 白いカードの裏に書かれた地図を頼りに、マリンは初めての駅に降り立った。  学校の最寄駅から、いつもと反対方向に二つ。たったそれだけの距離なのに、改札を出るといつもと違う匂いがした。この街の匂い……不思議と懐かしい気がする。  地図の住所をアプリに入れてみた。知らない町を歩くのは、子供の頃から好きだ。ちょっとだけ不安だけど、来たことのない道に迷い込むと、なぜか嬉しくなった。  「たぶん、この辺なんだけど……」近くまで来てるのは確かなのに、アプリが赤くマークする場所には、シャッ

【第1話】 教室から見えるのは、いつも曇った空ばかり

 「朝の日差しってなんでこんなにイライラするんだろう」  校舎へと向かう坂道の最後を登りながら、マリンは思う。無神経にキラキラを押し付けられている気がして、なんだかムカムカするのだ。  坂の上にある高校に入学して、もう一年半が経った。だけど、高校生になったんだ。そう思えたことはまだ一回もない。  入学式の前の春休み、突然現れた“コロナ”の三文字がどーんと立ち塞がった。姿の見えないボスキャラは、これまでの“あたりまえ”を驚くほど簡単に壊していったのだった。  やっと学校に通える