【第1話】 教室から見えるのは、いつも曇った空ばかり
「朝の日差しってなんでこんなにイライラするんだろう」
校舎へと向かう坂道の最後を登りながら、マリンは思う。無神経にキラキラを押し付けられている気がして、なんだかムカムカするのだ。
坂の上にある高校に入学して、もう一年半が経った。だけど、高校生になったんだ。そう思えたことはまだ一回もない。
入学式の前の春休み、突然現れた“コロナ”の三文字がどーんと立ち塞がった。姿の見えないボスキャラは、これまでの“あたりまえ”を驚くほど簡単に壊していったのだった。
やっと学校に通えるようになっても、みんなマスクをした顔が普通。新しいクラスメイトや先生たちの顔さえきちんと見たことはない。たまにお昼にお弁当を食べている姿を見て、へえ、あんな顔してたんだ……って思ったり。
高校生活に大きな夢を抱いていた、と言うわけではないけれど、それでもこんなはずじゃなかった。
「青春なんて、どこにもないし」
真っ白なノートの上でぐるぐるとペンを動かす。外を見ると、四角い窓いっぱいに、グレーの雲が広がっていた。教室から見えるのは、いつも曇った空ばかりだ。
「バイバーイ」昇降口でローファーに履き替えているマリンに、誰かが声をかけた。えっと、誰だっけ、確か隣のクラスの……思い出しているうちにもう先に行ってしまっていて、「バイバイ」彼女の背中に向かってそう返す。
学校から帰るのは、だいたい一人。部活もしてないし、誰かと一緒の時もあるけれど、帰りにみんなでどこかに行くなんてこともできない。同じ中学の子が少ないのもあって、友達がいないわけじゃないけれど、じゃあ特別仲のいい子がいるかといえば、少し困ってしまう。
「これからいくらだって、やりたいことがやれるんだから」「夢は? 目標は? 若いっていいね。無限の可能性があって」大人たちに言われるたびに思う。
こんなに簡単に、あたりまえが壊れちゃうのに、それでもやりたいことがちゃんとなきゃ、夢がなきゃいけないの?
「なんか。どっか遠くへ行きたい。全然知らないどこかへ――」
帰り道の途中で、前を歩いていた男の人が何か落としたのが見えた。
「落としましたよ」
マリンが白いカードのようなものを拾いあげた時には、もう姿がなかった。
気づかなかったんだし、しょうがないか。白いカードには“SCREAM!!”と書かれている。裏をめくると、お店なのだろうか、地図が載っていた。
「スクリーム……?」その時、マリンの心にザワっと風が吹いた気がした。