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作品としてのアートと、思いやりとしての商業デザイン、どちらが人の役に立つのか?

SOS案件の思い出

長らくブランディングという仕事をしていると、時々SOS案件というものが入ってきます。どんなSOSかと言うと、クリエイティブの「先生」が入った後でにっちもさっちもいかない、助けて!というパターンが多いです。

こういう時は大体、社長が昔から憧れていたクリエイターに仕事を依頼して社員が取り残されていたり、飛ぶ鳥を落とす勢いのデザイナーに声をかけたはいいものの、作品を作られて商売上機能しない…など、いろんなパターンがありますね。今回は後者の苦い経験について語ってみたいと思います。

アパレルチェーンの新業態建築

とある全国チェーンのアパレル企業さんが、新業態を出すためにトライアル店舗を地方に建築していました。その建築がほぼ最終段階になったあたりで、「ちょっと助けてくれない?」とお声がかかりました。

状況を聞いてみると、東京をベースに世界をマタにかけて活躍する新進気鋭の建築事務所に設計デザインをお願いしたとのこと。代表は有名人で数々の賞を取り、業界の寵児でした。その事務所の若手建築家が担当だったのですが、デザイン性を理由に「白以外の要素を入れてくれるな」と言われ、ほとほと困っているとのことでした。なんと、非常灯まで白くできないかとの言われよう、笑。嘘でしょ。

ところが、そこからさらに嘘のような話が繰り広げられていきました。

VMDと店舗ツールで工夫の上書き

私たちが頼まれたのは、店舗設計以外でいかにお店らしく、売れる工夫をできないかというテーマでした。その結果私たちが提案したのはVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)という商品構成企画や商品の魅力的なディスプレイと、商品案内やプライスカード、会員カードや紙袋、ビニール袋などの店舗ツールのデザインをすることでした。そうしてVMD専門家のビジネスパートナーと、デザイン会社と一緒に地方へしばらく詰めていました。

VMDについて、sotre-plusさんのサイトから引用させていただきます。店舗環境づくりにとても重要なポイントです。

商売を無視した設計デザイン

この時、どんなに現場の状況が酷かったかをお伝えしなければなりません。お相手の会社を誹謗中傷する意図はなく、これから何らかの理由でクリエイターを採用される際の参考としていただきたいという思いからです。

まず、店舗環境は真っ白な世界観の中で巨大なあるモチーフを採用し、ある意味ガリバーの世界に迷い込んだような設計となっていました。詳しく言えなくてすみません。仮にそのモチーフが「書斎」だったとして、でっかい机、でっかい本棚、その上にパソコン風のオブジェが並び…みたいなイメージだと思ってください。

周囲を取り囲む壁面には、そのモチーフをデフォルメして表現した棚が並んでいました。パートナーであるVMD専門家は、そこに「トップス」「パンツ」もしくは「セットアップ」をかける場が想定されていないことに驚いており、何日も頭を悩ませて苦肉の策のレイアウトを考え出してくれました。

また、全体の中でシューズを置く場も想定されていなかったり、シャツコーナーの端は斜めに傾斜している(無駄な)スペースがありましたが、下は尖っていて足をぶつければ流血しそうな什器となっていました。

さらに、店舗エントランス付近にとても大きな円状の商品を並べるディスプレイテーブルが用意されていたのですが、大きすぎて真ん中付近には手が届かず、販売什器としては機能しないものでした。仕方なく中央を文字通りディスプレイゾーンにすることとしました。

さらにさらに圧巻だったのは、何の意図か分からないものの、店舗内に3−4本ほど大きなチューブ状のディスプレイスペースがどん、どん、どんと置かれており、白い柱の周りにアクリルをぐるっと回した“スペイシー”な感じのチューブ柱が置かれていたのです。(宇宙コンセプトだったっけ?)

その白い柱とアクリルの間にマネキンと服をディスプレイせよ、っていうことだったのですが、間が狭すぎて何と普通のマネキンが入りません。ここは流石に寸法を変えてもらいましたが。服も触われないし値札も見れないディスプレイって何?💢と思いながらフガフガしてました。

そして、一番驚いたのは店内の至る所に段差があるデザインとなっており、真っ白な世界観の中で商品に気を取られていると「あっ!!」と足を踏み外す仕様となっていました。これは見た時から危ないと思ってましたが、案の定開店初日から落ちるお客様が続出、「足元注意⚠️」の黄色いテープが貼られたそうです。笑えない笑い話ですね。デザインどころではありません。

信じられないほど自分本位なクリエイター(?)

ここまでの酷い状況でしたが、パートナーであるVMD専門家や、デザイナーさんたちが頑張ってくださって、とても良い状態まで持っていくことができたと思います。工夫に工夫を重ね、マイナスをリカバリーしていくアイディアと努力。今でも本当に感謝しています。

何とか店舗らしくなり始め、クライアントとともにオープン前の店舗に張り付いて商品を並べたり、ディスプレイをしたり、時間との勝負でオープン準備を進めていました。嵐が去った後の喜び。大変だったけど何とかオープンを迎えられるね!楽しみだね!頑張ろう!そんな空気が溢れていました。

何千点という商品を品出しして、レイアウトを考えながら並べるのです。営業も店舗スタッフも本社スタッフも我々雇われた人間も関係ありません。みんなでオープンに間に合うよう必死に準備を進めていました。

そんな時、例の建築事務所が現れて、「写真撮影をするからこの一帯から商品どかして」って言って来たのですよ!!!しかも日の入り前に撮影終わりたいから急いで、とか。それを全コーナー順々に。我々は仕方なくせっかく並べた商品を一旦どかします。そのコーナーの写真を彼らは撮ります。撮り終わった後は当然のように復旧など手伝いません。次のコーナーを指示し、商品をどかすように言ってきます。日が落ちる夕方までそれを繰り返し、彼らは悠々と帰っていきました。オープン前日ですよ?

私は、気持ちは怒り怒髪天でした。疲れ切りながら一生懸命オープン準備をする社員の方々への配慮のかけらもありません。涙が出そうでした。もちろんクライアントの手前、トラブルは避けたかったので言葉にはしませんでしたが人間としてあり得ないと思いました。正直言って、どんな賞を取っていようと、どんなに有名であろうと人間として軽蔑します。特に、その担当の方は有名でもなく、有名事務所に勤めた優越感と焦る功名心からそうなったのだと推察しますが、そんな人は上昇することは無いでしょうと思います。

商業デザインとは相手への思いやり

この時の経験から、先生系、有名系はヤバイなと私は思ってます。もちろん、両立している方はいらっしゃるのだと思いますが、一般的に言えばヤバイ確率は高いでしょう。本当に素敵なクリエイター、デザイナーは自分の功名心など考えないというか、そんな余地もなく「どうお役に立てるか」に夢中になられます。「我」が無いのですね。私はそういう方たちが大好きで、一体となって「どうお役に立とうか」「どう能力を発揮しようか」と無心に一緒に考えられるクリエイターが最高だと思っています。そして、そんな方たちが、私の周りにも残ってくださってるのでありがたいです。

ブランディングもそうですし、デザインも、設計もそうですが、全ては思いやりが大切だと思っています。企業への思いやり、努める方々への思いやり、社会への思いやり。思いやった結果、何を提案するのか。自分は究極まで透明となり、答えを出すための単なる媒介となる。自分を無くすことが、実は一番答えに近くなるというパラドックスではありますが、それでいいかなと今日もつらつらと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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