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幻想の音楽通信 Vol 8〈年間ベスト3〉

このままだとキリが無いのでこの記事でまとめようと思います。インダストリアル系やヒップホップ系も入るので少し多めです。


JPEGMAFIA - All My Heroes Are Cornballs

デヴォン・ヘンドリクスとしても活動するJPEGMAFIAの新作は前作のような政治的だったりアグレッシブな要素は後退しましたが参加アーティストがユニークで「Free the Frail」ではカナダのドリーム・ポップバンドHelena Delandが、「Rap Grow Old & Die x No Child Left Behind」ではロンドンのIDMアーティストVegynが参加している異色な作風です。

Yikii - Flower's Grave

中国のポスト・インダストリアル/ダーク・アンビエントアーティストのYikiiの「Flower's Grave」はグリッチとパワーノイズを真空と一体化させ、不気味な寓話のアレゴリーを提示します。

Deliluh - Beneath the Floors

トロントで結成されたDeliluh。すでにSlintを彷彿させるロックとの呼び声が上がっているのですが、Slintよりもメロディーを意識している分まるで混沌の推移を見る観察者として発露した記録として響く作品です。(ノーウェーブな要素もあります)

Orphan Ann - The Practice of Surrender

Varg2™に改名してもこの界隈は今年もすごく勢いがあったと思います。このOrphan Annによるアルバムもポスト・インダストリアル性を保ちながら仄かに漂うビートとインダストリアルに相違するゴシックが内包されています。

Bath Consolidated - Narryer Gneiss Terrane

Orange Milk Recordsの中のお気に入り。まるでアメリカの映画評論家ジョナサン・ローゼンバウムに由来すると言われるジャンルであるアシッド・ウエスタン映画の中からデス・インダストリアルを用いて終末の様相が提示されたような作品です。

Solange - When I Get Home

彼女の初期のポップ・ソウルな印象が過去のものになるくらい前作からの内在的でいて純烈な試行が発揮された作品(もちろん異色の参加アーティストも相まって)であるように思います。

Olli Aarni - Haalea

フィンランド出身のOlli AarniのLongform Editionsからリリースされた長尺の楽曲はNuojuva名義とは違った深層の中の光彩の観測を続けるアンビエントです。

Nickolas Mohanna - Throwing the Chain

同じくLongform Editionsからのリリース。NY在住のアーティストNickolas Mohanna。以前にBlood Roomが虫の羽音を利用したビートを思い出した楽曲で、ビートの代わりにアンビエントとノイズの内外を曖昧にする不気味さが伴います。

Have a Nice Life - Sea of Worry

ミドルタウンで結成されたHave a Nice Lifeのサードアルバム。ファーストのドローンを織り交ぜた荒廃、幾重にも張り巡らされた断絶の世界観の提示は退潮し、ゴシック性と見晴らしの良い景観から押し寄せる濁流に鳴る音が提示されます。

Kenji Azuma - Being With Nature

東京を拠点に活動するKenji Azumaのファーストアルバム。ガンクドラムやハピ・ドラムを用いて近年のニューエイジの動きに更に開放的で流動的なアンビエンスが捉えられた作品です。

72-Hour Post Fight - 72-Hour Post Fight

ミラノを拠点に活動する72-Hour Post Fight。これをジャズと呼んで差し支えないかはともかく、エレクトロアコースティックやアンビエントの角度からヒップホップやジャズを見渡したエクスペリメンタルな手法で他者を鼓吹するサウンドがアルバムを通して展開します。

Slauson Malone - A Quiet Farwell, 2016–2018

ニューヨークを拠点に活動しStanding on the CornerのメンバーでもあるSlauson Malone。エレクトロアコースティックからヒップホップやジャズを見ている72-Hour Post Fightに対してヒップホップからサウンドコラージュを見ているのがSlauson Maloneの実験性で、主軸を変えるとこんなにも音が変化するのかと驚きます。ザ・ケアテイカーの影響もあったりするのかと思ってます。

UVB76 - SĀN

UVB 76はフランスのレンヌで結成されたアーティスト。プリミティブな特質のアンビエントとキネティック・アートに見られる静かな暴力性をインダストリアル・テクノの相克として表現したような作品だと感じた瞬間にコーネル・ワイルド監督作品「裸のジャングル」が頭に浮かびます。

Roberto Crippa - Ascent

イタリアのレーベルSecond Sleepからロンドンを拠点に活動するRoberto Crippa。仔細な穴から溢れ出す赦免と喧騒の虚無が音を通じて暗闇の中から断続的に響き続けます。

FKA twigs - Magdalene

イギリスのチェルトナム出身のFKA twigsのセカンド。Nicolas Jaarや、Skrillex、Arcaといった各々の枠組みの範疇を越えて一貫した一つの作品に仕上げられた意義をFKA twigsのこのアルバムを聴いて再度確認しています。

A Winged Victory for the Sullen - The Undivided Five

Stars of the Lidのアダムと、ダスティン・オハロランによるアンビエント/ミニマリスム・デュオであるA Winged Victory for the Sullenのフィルムスコアを除いたらサード・アルバム。今作は神秘主義者で画家のヒルマ・アフ・クリントの開放的なアートからの影響があるそうです。神秘主義は分派を防ぐ為にカトリックが定めた謹厳な教義の範疇から逸脱して直接的に神に話しかけるというところから広がりましたがこの作品も古典の形式に捉われない遡及的な点からも拡がりを持つドローンサウンドが広がっています。

Matana Roberts - Coin Coin Chapter Four: Memphis

シカゴのサックス奏者の「Coin Coin」シリーズの4作目。ジャズ・ポエトリーが活気を戻したきっかけの発端は元々は、ハーレム・ルネッサンス期に勃興していたのが後にジャック・ケルアックに代表される詩人が語源とされるビートジェネレーションによって再燃し、その後にギル・スコット・ヘロン等によって引き続き形を変容させ育まれた。Matana Robertsはその要素を1作目から霊的なインスピレーション、政治的な要素を含みながら保ち続けています。

Weatherday - Come In

Weatherdayはスウェーデンのノイズ・ポップ/ローファイ・インディーロックバンド。ファーストアルバムリリースでここまで認知を上げたのはインターネットならではという気がします。モデスト・マウスやAmerican Pleasure Clubとも通じる構成や実験性が魅力的なバンドです。

Doubler - Lines of Force

Jason Letkiewiczとして活動もするDoublerのアルバム。説明欄にある神秘的なオーバーラップと共にアンビエント・ダブの空間が広がります。

(Sandy) Alex G - House of Sugar

フィラデルフィアを拠点に活動するアレクサンダーに見られるインディー・フォークの変化や勢いはBig Thiefに並んで目に見えて盛り上がっているように思います。スフィアン・スティーブンスやエリオット・スミスをまさにヒプナゴジックで変容させたようなちょっと不気味なニュアンスも魅力的なアルバムです。

Giulio Aldinucci - NO EYE HAS AN EQUAL

イタリアのアンビエント作家Giulio Aldinucciの新作「NO EYE HAS AN EQUAL」はまるで広汎に蔓延したコンフリクトの飽和の転換点から音を通して対峙する夢幻能の死者とのディアレクティーク。

Thom Yorke - ANIMA

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」では楽曲提供、自身の楽曲のMVに起用、そして今回は自身が出演するということでポール・トーマス・アンダーソンとの共同度合がどんどん密接になっているトム・ヨークのソロ作品。今作の特徴はやっぱり ActressともコラボレーションしたLondon Contemporary Orchestraによるオーケストレーションだと思います。そこにグリッチ・ポップ/アンビエント/ハウス/ポップな要素を盛り込みアルバム単体として確立している作風に仕上がっています。

Kali Malone - The Sacrificial Code

Acronymとのコラボでも異彩を放つストックホルムを拠点に活動するドローンアーティスト。恐らくKali Maloneの最高傑作。統御が行き届いたコードの反動としての随伴現象とオルガンによる断片的ドローン性の記録が約2時間に亘り展開します。

Annabelle Playe - Geyser

フランスのエレクトロアコースティック・アーティスト。Franck VigrouxによるレーベルD'autres cordes Recordsからリリースされました。不協和音との調和。プロセスの中で断続的に現出するノイズが響く長尺の2曲。


Fahmi Mursyid - Krakatoa

インドネシア出身のアーティスト。ロサンゼルスのレーベルCudighi Recordsからのリリースです。Tandem TapesやベルリンのOne InstrumentからもリリースするFahmi Mursyidのサウンド性は、典型的なアンビエントや、エレクトロアコースティックというよりもそれらの手法をバラバラの環境音、電子音(ビット音)グリッチ、旋律がインタラクティブな観点から素描された作品です。

Little Simz - Grey Area

イズリントン出身のLittle Simz渾身のサードアルバム。グライムを主軸に展開させたUKヒップホップの更新と見ると矮小されてしまうので主流の要素(オルタナR&B、グライム)をUKヒップホップで昇華させた傑作として記憶したいです。「 101 FM」では雅楽の要素も垣間見れます。

Carter Tutti Void - Triumvirate

スロッビング・グリッスルのメンバーだったクリスとコージー、ファクトリーフロアーのニックによるインダストリアル・テクノプロジェクトCarter Tutti Voidのセカンド「Triumvirate」は、前作の「f (x)」との延長線上としても捉えられそうな安定感のある硬質なサウンドを展開しています。

The Quiet Temple - The Quiet Temple

ロンドンを拠点に活動するDuke GarwoodとRich Machinが結集させた無形成のジャズプロジェクト。「X Rated」のようなジャズ・ロックなテイストの動的なアプローチと「The Bible Black」のような静的な楽曲構成バランスが昨今のニュー・ジャズの潮流にしばしば見られますがこのアルバムはよりプリミティブな角度から鳴るアルバムです。

Julia Reidy - In Real Life

Oren Ambarchiも傑作として挙げていたシドニーのフリー/アヴァン/フォークアーティストの新作。アメリカン・プリミティヴィスムに流れるエレクトロニックの至高の連鎖。

Lost Souls of Saturn - Lost Souls of Saturn

個人的にR&S Records当たり年だったのでその中でも一番聴いたニューヨークで活動するLost Souls of Saturn(Phil Moffa Seth Troxler)のアルバムを挙げておきます。個展的な中にミュージック・コンクレート、アシッドやラジオからのサンプリング?が宇宙の漆黒から響く作品です。

Celer - Xièxie

東京を活動拠点にするハンティントンビーチ出身のCelerの新作はフィールドレコーディングを多用した「Engaged Touches」や、Forest Managementとのコラボレーション「Landmarks」の整斉された反復に比べてStephan Mathieuがマスタリングをしているからかノイズが強調され時折アンビエントの軸を跨ぐ間取りの中で構築される夜行性反復体が特徴的です。間違いなく最高傑作。

Placid Angles - First Blue Sky

John Beltranの別名義。停止していたPlacid Anglesが復活。ブレークビートもまた日増しに更新され下火になったジャンルを探す方が大変になった昨今で、アンビエント・テクノとの流線型に沿ったアトモスフィリックなテイストを展開する作品です。

Function - Existenz

Functionはベルリンを拠点にSandwell Districtとしても活動するミニマル・テクノアーティスト。「Incubation」のようなテイストでは全くないですが代わりにエレクトロのテイストが濃く反映されたアルバムです。

Himuro Yoshiteru - View From Bottom

東京を拠点に活動するHimuro Yoshiteruの新作。Hiroyuki Odaのようなアップリフティング・トランスを下敷きにしたような抑揚とApparatのIDMにも通じるグリッチ/ウォンキーなアルバムです。

Squid - Town Centre

Squidはブライトンで結成されたアート/ポスト/パンクバンドです。LCDサウンドシステムのダンス・パンクとウルフ・パレードのヴォーカル性が咀嚼され一体化された最強のEPです。

My Disco - Environment

メルボルンで結成されたMy Discoは「Severe」ではスコットウォーカーの「Bish Bosch 」とコリン・ステットソンのアヴァンギャルド性を抽出したようなノイズ・ロックを放出していたが今作はまるでRaimeのダーク・アンビエントの暴力性と虚無と一体化した無尽蔵に積み重なるテクノロジーの瓦解を産業革命を目の当たりにしたドストエフスキーの想起した終焉(夏象冬記)とMy Discoのインダストリアル性が呼応します。

Vanity Productions - Only the Stars Come Out at Night


Ludvig Forssell - Death Stranding (Original Score)

小島秀夫最新作のデス・ストランディングのテーマは「繋がり」だというのでそれはまさに良くも悪くも人民の犯した過ちと可能性という二面性に映し出されたゲームとしては異質な演出が多分に盛り込まれた実験作。そのゲーム性にフィットしたポスト・インダストリアルなテイストにも合致したサウンドす。

Fennesz - Agora

Fenneszのこの変わった構成のアルバムを聴いてこのジョン・ウォズンクロフトの写真と対照的でEAIを要害の丘から瞑想的な広場に響かせます。

Nick Cave and The Bad Seeds - Ghosteen

ロンドンで結成されたNick Cave & The Bad Seedsの新作。「Push the Sky Away」からポップな要素を意識した作風が強くなった印象を持ち、前作「Skeleton Tree」ではアンビエントな要素が取り入れられ今作はその折衷という感じがしました。関係あるのかないのか、シン・ゴジラを久しぶりに見てあの凍結は死の可視化なのではないかという思惑がこの「Ghosteen 」を聴いていてふと思いました。死が見えなくなっていしまった近代のポサダとして屹立しているようにまたこのアルバムもそうした死の可視化として自分の眼前に現れました。

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