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ことば

   頭のうちでは言葉がなにより正しいと

   口に出した途端言葉は裏切るものだと

 私は明るい旋律に重々しい詞を合わせたこの曲が好きである。対句になっているところも聴いていて心地が良い。そして無理に明るく振舞おうとする、ポジティブに考えようと言葉を紡いでみる、そんな私を打ち砕くのだ。

絶体絶命  

かなしみが声を殺してわたしを待ち構えている
躙り寄る気配の主を知りながらも手に掛かって
余にも重く余にも硬く余にも暗く余にも冷たい
かなしみが顔を隠してわたしを抱き抱えている
伸し掛るその恐ろしさ知りながら儘と捕まって
余にも低く余にも永く余にも深く余にも大きい
静寂が嘯く「騒いだ所で出される答は同じ」と
教えてよ頭のうちでは言葉がなにより正しいと
かなしみよ横たわってわたしを喰い尽さないで
関わり合って居ない知能と肉体だけ持て余して
絶望が囁く「逃した魚へ拘泥る姿勢は尊い」と
教えてよ口に出した途端言葉は裏切るものだと
唯独りにして放っといてさようならかなしみよ
寝返り打って‥かなしみよ向うへ行って‥
かなしみよ押し黙ってわたしを縛り付けないで
晴れ渡る空は遠く塗り潰されて行く (東京事変)

言葉といえば私は恩師から読解力が足りないと指摘されたことがある。読解力が足りないのはもちろんなのだが、(手のひらで転がすような性格の人が紡ぎ出す言葉をそのまま受け入れることが出来ようか。これは裏があるに違いない)と卑屈な返しばかりしていたからからもしれない。

恩師の師匠は生き字引であるそうだ。よく辞書を読んでいるらしい。そして弟子である恩師も同じように教育をされてきたということであった。その受け売りで私にも活字をよく読みなさい、特に古典とよく言っていたものだった。その他には考えることをやめるな、物事を因数分解しなさいと言っていた気がする。

ある時滋賀のある大きなお寺様に資料の悉皆調査の手伝いに行き、初めましてのお偉方と話をする機会があった。その方々に進路についてや文化財・教義の事などを具に聞いたところ何処かでやはり恩師のお師匠の名前が出てくるのだ。

絶体絶命に話を戻す。林檎女史もよく辞書を読まれる方だそうだ。歌詞を見ても対句や歴史的仮名遣い、文字を揃えるなど細部にわたり、拘りがあることや曲を聴いて初めて知る感情や言葉が多くこんなに美しい日本語があるんだ!といつも興奮している。

頭の中では言葉は正しいが口に出すと裏切るもの

なんだか全てに通ずるような気がしてならない。今必死に心にあるものを言葉にしている私としては、言葉にしたら泡となって消えるのではないか。言いようのないモヤモヤ、誰かに伝えたい気持ち、口に出さない方が良いのではないか。そんなことを考えながら言葉として並んだ文字列を追っている。



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