【世界は誰かの仕事でできている】視覚障害の法人代表と銀行いった話

「視覚障害者の代筆は、親族でなければならない」

いつもお世話になっている銀行(地元の信用金庫)のある手続きには、こんな規定があります。

見えない・見えにくいのだから、代筆が必要。大切なお金の話だから、親族でなければならない。うん、納得しかないもっともな規定です。

しかし、個人の手続きではなく、法人の場合はどうでしょうか。

私が勤めているNPO法人モンキーマジックは、代表が視覚障害者。そして晴眼者(目が見えている人)の私が副代表をしています。

銀行の手続きは代表名で行うため、代筆が必要です。このとき、副代表は代筆できないのでしょうか。ちなみに私は代表の親族ではありません。

結論は、「法人の手続きであっても、代表者が視覚障害なら代筆は親族でなければならない」です。

とある街のとある手続き

昨年は、80歳を迎える代表のお母さんに代筆をしてもらいました。お母さんはもちろん法人の職員ではありません。
防犯カメラも設置されている銀行の支店応接室で、支店担当者と上席の向かいに代表と私、ペンを握るのはお母さん。すこしだけ奇妙な光景。密です。

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お母さん「えーっと、どこに書くの?」
わたし 「ここです(書類に指さす)。住所書くところは事務所のでお願いします」
お母さん「そうね、自分の家と間違えたら大変ね。えーっと、ここ?」
わたし 「そうです、そこ。そうそう」
お母さん「小さい字で書くの大変ね〜。何枚あるの?」
わたし 「いっぱいです」
お母さん「ひゃ〜今日は頑張らなきゃだね!えーっと、ここ?」
わたし 「そうです、ここです(書類に指さす)」
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二人羽織かな?って思ったわ。

何の手続きか実際はっきり理解していない代表母。何の手続きか理解している副代表の私。行く末を側で見守るしかない代表。

- 素朴な疑問 -
ビジネス上の手続きなのに、なぜ代筆は親族じゃなきゃだめなんだろう?
公的な書類も準備してるのに、なぜ副代表の代筆が認められないんだろう?
このまま組織が大きくなっても、ずっと代表親族に頼らなければならないの?

すこし小さくみえた代表

支店の方の「決まりなので...」という言葉に、茶番じみた手続きを踏むしかなく…。(お母さん、その節はありがとう!)

きっと、障害者が経営者になることは想定されていない、すごく昔にできた規定なんだと思います。新しい時代の新しいルール(たとえばビジネス上の手続きで親族以外でも対応できるような規定)ができるには時間がかかるだろうな、ということも想像できます。頭ではわかっていても、心はついてきません。

「ただ目が見えないだけで、会社と関係のない親を、いつまでも頼らなければいけないなんて。。そもそも視覚障害者は経営者になるなということ…?」

いつだって頼もしい代表が、銀行への道すがら寂しく嘆いていたことを思い出します。

想いは通じる!?

いち支店担当者が、本店で決まっている規定を変えることはまず難しいことだと、私たちも理解しています。(このnoteを最後まで読んでも、ドラマみたいな銀行の大変革はありません)

それでも昨年から私たちは折に触れて、合理的な改善のお願いとして話を持ちかけていました。

拡大解釈したうるさいクレームになっていないか?めぐりめぐって支店担当者さんの行内評価が下がってしまうのではないか?などにも気を配りながら。。

そして先日ついに、私の代筆を認めていただき、新しい手続きを進めることができました!やったね!

今回の調整にあたり、支店担当者さんにはかなり苦労をかけました。決して越えられない規定の壁がある中で、上席や支店長に掛け合ってくれたのだと思います。感謝の念に堪えません。

「視覚障害者の代筆は、親族でなければならない」

ただ残念ながら、この規定は変わってはいません。今回特例として認めていただきました。

認めてもらえたのはきっと、法人のこれまで滞りない借入の返済や、事業の実績、銀行と築いてきた信頼関係があったからこそだと思います。そして、なんとかしようと奔走してくれた銀行の担当者さんがいて、稟議書に「決」の印鑑を捺してくれた支店のみなさんがいたからこそ。

それでも、嬉しかった。障害がどうのではなく、ちゃんと事業を評価をしてもらえたんだなってことに。

小さな一歩だったね、嬉しいね、少しでも未来の同じような経営者のためにもなれたかな、なんて話をしながら、15年続けてきた活動を誇らしく思いました。

今は、見えなきゃできないことは私がすればいい。これからも代表は未来を描き続けてくれればいい。

手続きを終えた私と代表は、いつもより少しだけ胸を張って帰途に就いたのでした。

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(おわり)

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