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お客さんを好きになってしまった話③

あれから何度か話し合いは行われたが、堂々巡りだった。


お金を出してでも仕事を辞めて欲しい彼と、お金に取り憑かれてるが故に仕事を辞めたくない私。


お金出してくれるならいいのでは?と思うかもしれないが、そんな簡単な話ではない。

当たり前だけど一生困らないぐらいのお金をくれる訳ではないのだ、私だってそこまでは当然求めていない。

たかが風俗、されど風俗。
少なくともこの2年ほどは仕事として真剣に取り組んできたつもりだ。

ちょっとやそっとで切れる様な縁ではないくらいの関係性をお客様に対して築いてこれた自負がある。

お客様の誕生日は必ず覚えてLINEを送ったり、プレゼントを用意したり、前回言っていたおすすめの本や映画も次回来店までにチェックしてお話出来るようにしたり、服や下着もお客様の好みに合わせて変えたり、とにかく貴方の事を覚えています、考えていますよという努力はしてきたつもりだし、顧客満足度を上げる事に必死だった。


この超・買い手市場の現代風俗業界、お客様が湧いて出てくる様な時代では決してないのだ。写メ日記は写真と文章だけでなく動画まで求められるし、限られた牌の取り合いの日々で、努力出来ない上に真心も使えない女はすぐに淘汰される。


ここまで頑張ってきた自分のキャリアをあっさり捨ててしまう事にも抵抗はあった。

一度この舞台を降りたら最後、もしも戻りたいと思ったとしても簡単には元に戻れないと思う。
なにより私はもう若い女の子ではないから、やり直しが効く年齢ではない。

辞める時はもう一生戻らないという自らの決意を持ってして辞めたいのだ。彼に言われたからとかではなく、自分自身の意志と責任で。

まだまだそこまでは到底思えなかった。




お店の外で会う関係性になってからも彼はお店にも来てくれていた。ぶっちゃけ来ないで欲しいなと私は思っていたけれど、こちらから来るなとは言えないし、実際に来てくれて顔を見れたらやっぱり嬉しくはなってしまうし。


彼はお店に来る時は必ず私の最終枠に入る人だった。その理由が「俺に抱かれた後に違う人に抱かれるのを見送るのが嫌だから」だった。

私自身には全く無い視点というか思いつきもしない考え方だったので、聞いた時は心底ビックリしてしまったと共に嫌な思いをさせてて申し訳ないな…と思ったと同時に凄く嬉しくもなってしまった。

お客様で最初の枠に入りたがる人は多いけれど、そういう人は大概自分の事しか考えていないワガママタイプの客で、私はこの手の客が嫌いだった。


他のお客さんにまだ触られてない綺麗な身体がいいという勝手な主張で、自分だって他の客と同じ目的で来てる癖に、他の客とは違うという自意識が透けて見えるかの様な自己中心的思想が嫌いだった。


逆に最終枠に入りたがる客というのは、ほとんどが店外目的だ。これでお店終わりだよね?終わってからご飯でも行かない?というお誘いをしたくて最終枠にこだわる客、こいつらもこいつらで嫌いだけど、まぁ断ればいいだけなので特に問題はない。

最終枠にこだわるパターンで店外目的じゃない人は一体何なんだろう?と以前から謎だったが、彼から理由を聞いて腑に落ちたのだった。


ある日彼が最終枠に入れなくて、その前の枠に来てくれた。
その前日に少し私が拗ねてしまって、その件で謝りに来てくれたのだ。嬉しかった。

だけど、その翌日、思いもよらない話し合いに発展する事になる。



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