外岡秀俊『おとなの作文教室 「伝わる文章」が書ける66のコツ』感想

 文章術本の最初の一冊としてお勧めしたい本である。そして数年に一度読み返したい本でもある。
 タイトルどおり66のコツが記されているが、いま自分の文章に足りないと明確にわかる「コツ」だけに気をつけて読めばよいからである。そうでない、たとえば現在は自分はできていると思う「コツ」、逆に、今の自分が読んでも実践できないだろうから、次のときにきちんと読もうと思う「コツ」については、さらっと飛ばしてよい。

いい文章とは

 本書では、まえがきに文章の原則が記されている。

①相手に正確に意味が伝わる。
②相手に誤解を与えない。
③相手に負担をかけない。
④心地よい読後感が残る。

 自分が目指すのはまず②である。教材ライターとして、そして校閲者として誤解を生まない文章を送り出すのが大事だと思い、日々そういう文章をめざしている。
 いまの自分にとって大切だと思った箇所は次のとおり。

形容詞はぱっとイメージできるデータに

形容詞をデータに置き換える

 なるべく形容詞を使わずに表現するというのは文章術の本によく載っている。だが「データに置き換える」は、さすが元記者だと思った。それも、たとえば鉄道事故の場合に「時速」では読者がイメージしづらいと思えば「秒速」に置き換えるというのは心底から納得した。データの単位まで落とし込むというのは、元新聞記者ならではだろう。
 さらに著者は、形容詞をデータに置き換えるための小道具を取材に持参するという。ルーブル美術館には、その広さを伝えるために歩数計を、サハラ砂漠では、温度計のほか、無音環境にどれだけ多くの言語放送が飛び交っているかを伝えるためにラジオを持っていくという。

体言止めを避ける理由

不特定多数を相手にする文章では、「体言止め」や「いいさし」表現はできるだけ避ける

 「いいさし」とは、「~かも」で止めて「しれない」という語尾を省略した表現のことだと著者は述べている。体言止めと同様、これも避けたほうがよいと記してある本は多い。だが本書では、その理由は「語尾をきちんと言わないことで誤解を招く」からだという。これは初めて見た。
 「誤解を生まない文章を送り出す」をビジョンとしているわたしは、やはり体言止めを極力用いないようにしなければならない。

逆引き索引を利用

 この本には逆引きの索引がある。わたしは「終わり方をどうすればよいかわからない」というのが悩みである。その場合には「文章の結び方」 p263を見ればいいとある。
 実際にp263を見ると、その先のp266に次のように記されている。

文章の終わり方は

 「余韻が残る結び」を書くには、どうしたらよいのでしょう。

自分が体験したことを「場面」で描き、淡々と客観的に描写することで、初めて人にも受け入れられる文章になります。

末尾はできるだけ気張らず、すっと力を抜いて言い終えると、余韻が残るようになります。

 余韻の残る文章を書くためには「暗示する」か「示唆」し、自然体ですっと力を抜く。まぁ、それが難しいのではあるが。少なくとも自分で「これはちょっと気張ってるなぁ」と思った表現は、使わないようにしよう。以上、この本で得た学びである。

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